久米 信廣の 「飛」

 

知と欲のバランス

紐が切れた凧のように飛ぶな
300年後に帆翔する地球文明を

 


 2014年のテーマを「飛」と決めました。その理由は内向きの努力から開かれた努力へと舵を切るためであり、行き詰まる社会に新しい風を吹き込むためです。


 「飛」という文字は鳥が飛ぶ様子を表した象形文字です。「飛ぶ」という言葉は、空間を勢いよく移動するさまであり、上昇の機運を表しています。また、「飛び級」のように順序を飛び越えるときにも使われます。そして「ボーナスの大半が飛ぶ」というように消え失せるときにも使われる言葉です。
 一方で、音について考えると、「飛」(ヒ)は鳥の場合ですが、この「ヒ」という音は鳥に限らず他のものが勢いよく動くさまを表す音でもあります。たとえば「蜚」(ヒ)は昆虫、しかもゴキブリに代表されるイメージを持つ昆虫が「とぶ」さまを表す漢字なのです。ちなみにゴキブリのことは「蜚レン(虫偏に廉)」と書きます。
 このように、勢いよく動くことを表す「ヒ」という漢字はいろいろありますが、もちろんこのコラムは「飛」を使います。ただ、「飛」には前向きの語感とともに、消え失せてしまう語感があることを念頭に置いておきましょう。ボーナスのように、また、糸の切れた凧のように、さまよい、飛んでいってしまう「飛」は困ったものです。

 

 私たちが暮らしている社会は、数千年来、幸せを求め続けてきました。そして今は便利で住みやすい物質文明の頂点を迎えたといってもいいでしょう。物質文明を頂点に導いたものは「知」で、それは前向きに「飛ぶ」ことの結果といえます。

 ところが、その代償として大変残念なことですが、精神的に行き詰まり、悩み苦しみ病む人間を作り出していることも事実です。悩み、苦しみ、病む人間を作り出したものは「欲」といえます。それは後ろ向きの語感の「飛ぶ」なのです。ボーナスが飛ぶように、紐が切れた凧のように、「欲」のコントロールが利かなくなったところに問題がでてきます。

 これが現代社会なのです。そして、私たちは、誰であれ、この社会から逃れては生きられない生き物です。この「知」と「欲」のバランスこそが大切であり、バランスさせている個々人における「度合い」が文化といえるでしょう。
 「帆翔」という言葉があります。聞きなれない言葉かもしれませんが、鷲や鷹、海鳥などが翼を広げて気流などに乗ることにより、はばたかずに飛ぶことを表します。第三企画の社章エンブレムは鳥の王者、鷲を意匠したものですが、300年後は帆翔してバランスをとってゆったりと舞うような地球文明が来るよう、この一年を全力で生きていきます。

追加情報

  • 引用: RBAタイムズ 2014.02 347号