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 木造耐力壁ジャパンカップ@

ポラスグループが4年ぶり6度目優勝


「東京都市大学 大橋研究室」の「初代ユキヒロ」(左)と「ポラス暮し科学研究所」の「頂(いただき)」

 実物大の木造耐力壁を油圧ジャッキで綱引き≠し、どこが一番強いかをトーナメント方式で競う「第14回木造耐力壁ジャパンカップ」が10月8〜10日、静岡県富士宮市の日本建築専門学校で行われ、ポラスグループのポラス暮し科学研究所の「頂(いただき)」が優勝した。ポラスは4年ぶり6度目の優勝。3連覇中だった「チーム匠」(東大木質材料学研究所+ジャーブネット+篠原商店)は4連覇を逸した。また、コスト、デザイン、環境負荷など総合的評価を争う総合優勝は「チーム匠」の「紬(つむぎ)」が獲得した。

 「木造耐力壁ジャパンカップ」は、NPO法人・木の建築フォラムが主催して行なわれているもので、今回は全国から16体が参加。8、9日の予選を勝ち抜いた8体が10日の準々決勝 -準決勝−決勝戦を行った。試合は、耐力壁の土台を固定し、それぞれの桁同士の間にジャッキを装着し引き合って行い、破壊されたほうが負けとなる。破壊されない場合は、お互いの壁頂部の水平変位の合計が 450mmに達した場合の水平変位の大きいほうが負けとなる。


会場となった日本建築専門学校

◇    ◆    ◇

 優勝戦は、3連覇中の「チーム匠」を死闘の末下したポラスグループの「頂」と、「小松組+安井杢」の「数奇檗(すきぱく)」を逆転で下した「東京都市大学 大橋研究室」の「初代ユキヒロ」。双方ともすでに3試合を戦っており、初代ユキヒロは「瀕死の状態」(関係者)での戦いとなった。頂も土台部分に亀裂が入るほどのダメージを受けていた。

 関係者が固唾をのんで見守る中、午後4時近くに試合開始。ジャッキの力を加えるごとにギシッ、ギシッと双方がうめき声をあげた。うめき声がミシッ、ミシッのすすり泣きに変わったのは初代ユキヒロだった。壁はみるみるうちに傾きだし10キロニュートンの圧力がかかった段階で初代ユキヒロの傾きは120ミリ、頂は52ミリ。そして、28キロニュートンの段階でバキッと初代ユキヒロが悲鳴をあげた。歓声とため息が交差した瞬間だ。

 優勝を決めたポラス暮し科学研究所・菅原庸光所長は「これまで十数年間行なってきて程よいレギュレーションになった結果で優勝できてうれしい。スタッフは研究者ではあるが、大工ではないので、仕事が終わってからほこりまみれになって準備した。みんなに感謝したい。誇り(埃ではない)に思う」とスタッフを称えた。

 また、同研究所・上廣太主席研究員は試合前から「何が何でも勝ちたい。壁の名前の通り『(勝利を)頂く』。家は傾いちゃいけない。ルールの範囲内で金物も40本使った。材料はホームセンターで売っているものばかり。のこぎりがあれば誰でも作れるものにした。作業者はみんな事務員。セレブ(他のそうそうたるメンバーのこと? )に勝ちたい」と吼えた。その一方で「駅前にある浅間神社でおみくじを買ったら『大吉』だった」と、壁におみくじを供えた。「最後は神頼みか。負けたらどうするのだろう」と他人事ながら心配したが、上廣氏は勝利して胸をなでおろしていた。

 スタッフの1人で、RBA野球にも選手として参加している同研究所・菊地康明研究員は「これまで3年間、野球を欠場してまでこの試合に臨んできたが、昨年は戦う前に失格もした。感無量」と喜びを爆発させた。

 敗れた初代ユキヒロの東京都市大学工学部建築学科・大橋好光教授は試合前、「接合部の間をわざとあけた稲山先生(チーム匠)とは逆で、柱、土台の接合部はしっかりくっつくようにしたほうが強いと考えて設計したが、(施工したのは)学生ですのでしっかりくっついていない。精度の悪さが幸いするかもしれない」と参加者を笑わせたが、瀕死の状態では戦う余力は残っていなかった。それでも参加4年目で準優勝にスタッフは満足げな表情を浮かべていた。

 試合後、頂は単体での加力が行なわれたが、土台を固定するアンカーボルトが断裂したため、計測は行なわれなかった。上廣氏によると「過去の記録の62キロニュートンは無理」と話した。

     
菅原氏                         上廣氏  


左から菊地氏、上廣氏、高橋氏、女性スタッフの大浦和香子さん、原田氏

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 耐力壁は、部材の重量から環境負荷値Bを算出し合計額が25,000円以下と定められている。環境負荷値とは、【A】解体に要した人工数に5(円/人秒)を乗じた数値【B】材料ごとの重量に、それぞれに掲げた係数(円/kg)を乗じた数値の合計のことで、例えば国産材の木材は150(円/s)で、鋼材は2,000(円/s)だ。集成材は300(円/s)。自然素材を用いたほうが負荷値は小さくなる。

 このほか、使用材料、施工方法、施工作業者、解体などそれぞれ細かな規定が定められており、違反した場合はペナルティも課される厳しいもの。

 例えば、解体作業でビス1本でも本体の柱などに残った場合、柱全体の重量が「金物」としてカウントされる。また、解体時にビスや木材の破片などが定められた枠外に飛び出した場合もペナルティが課される。作業者は60歳以上、または女性の場合の人数は0.5人としてカウントされる。木材も樹種によって材料費や環境負荷値がこと細かに定められている。


会場から見た富士山

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(牧田 司 記者 2011年10月11日)