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木造耐力壁ジャパンカップ ポラスが5度目優勝

東大+JAHBnet は2連覇ならず


優勝したポラス暮し科学研究所「短足の行進」チームとその構造壁(後列中央が同研究所・菅原康光所長、前列右端が上廣さん、左端が野球部にも所属している菊地さん)

 

総合優勝は  日本建築専門学校の「1年越しの思い」

 実物大の木造耐力壁を組み立て、足元を固定、油圧ジャッキで綱引き≠し、どちらが強いかを競う「第10回木造耐力壁ジャパンカップ」が12月2日、静岡県富士宮市の日本建築専門学校で行われ、ポラスグループのポラス暮し科学研究所「短足の行進」が、東大木質材料学研究所+JAHBnet (ジャーブネット)+篠原商店の「イタラー」を延長戦の末破り、2年ぶり5度目の優勝を飾った。昨年はポラスを破り初優勝した東大+JAHBnet は2連覇を逸した。

 「木造耐力壁ジャパンカップ」は、NPO法人・木の建築フォラムが主催し、ポラス暮し科学研究所、ジャーブネットなどが協賛している競技。参加した耐力壁29体のうち予選を勝ち抜いた8体によりトーナメント方式で優勝が争われた。

 強度を争うこのトーナメント優勝のほか、デザイン、コスト、環境負荷など総合的評価を争う総合優勝( ジャパンカップ)は 金物を全然使用しなかった日本建築専門学校の「1年越しの思い」が獲得した。


東大+JAHBnet「イタラ―」チーム(前列中央がアキュラホーム宮沢社長、その左が稲山東大准教授)

  
         熱戦を見守る観客・関係者                ポラス菅原氏(左)とアキュラ宮沢社長


ハナ差≠フ19ミリ 「執念の結果」ポラス上廣氏

「かつてないハイレベルの戦い」稲山東大准教授

 最後に残ったのは「短足の行進」と「イタラー」。油圧ジャッキでキロニュートン( 1 ニュートンは 1キログラムの質量の物体に働いて、毎秒毎秒 1メートルの加速度を生じさせる力)の力を加えていく方式で争われた。

 大会初期のころは十数キロニュートンで決着がついたというが、両者は相撲でいえばがっふり四つ、競馬でいえば激しい先行争いが続き、ジャッキが引き切れた時点で56.64キロニュートンの力がかかった。それでも双方とも破壊されず、引っ張られたことで生ずる傾斜角度は「短足の行進」が234.80ミリ、「イタラー」は228.80ミリ。わずか6ミリ差。競馬でいえば写真判定の末ハナ差≠ナ後者の勝利かと思われた。

 ところが、ルールで定められていたジャッキの引きの長さ500ミリに設定されていなかったことが判明、関係者で協議し再試合、延長戦となった。再度争った結果、59.54キロニュートンの加重で前者の傾斜角度は290ミリで、後者は309ミリとなり、ポラスの勝利が確定した。

 勝利した同研究所・上廣太主席研究員は「昨年は悔しい思いをした。どうしても雪辱したかった。執念の結果。しかし、双方が強くなければ出ない数値。相手を称えたい」と語り、敗れた JAHBnet 宮沢俊哉代表は、「昨年は勝たせてもらったので…」と悔しさをにじませていた。

 司会進行役を務めた東大准教授・稲山正弘氏は「かつてない高いレベルでの争い。過去最高、最大の耐力壁を記録した」と評価した。


左がポラス「短足の行進」、右がジャーブネット「イタラー」

「僕もお父さんのような宮大工になりたい」杉山さん

「女松は男松より、肌が細やかで美しい」和田さん

 記者は、木造耐力壁ジャパンカップを取材するのは今回で3度目だ。専門的な言葉が飛び交い、分けがわからないところも多いが、単純な綱引きは素人に分かりやすい。何よりも、若い人たちが、わが国の在来工法を守りつつ、新しい工法の開発に真剣に取り組んでいるのが嬉しい。心強い限りだ。

 問題点をいくつか上げれば、@専門用語が素人にはわかりづらいAPR不足B時間がかかりすぎ(7試合で7時間)C各部門賞が設けられているとはいえ、実際の競技では使用材料に制限があまりなく不公平D解体作業は、怪我しないか心配――などだろうか。

 会場で拾った声を以下に紹介する。

   
杉山さん             中村さん(左)と加藤さん          和田さん

(新に曲尺の形を加えてKANE)建築・中根新吉さん(56) 使わないと建築基準法に適合できないが、わしは金物を使った木造住宅は邪道だと思う。こういった大会を見ないと伝統的な工法は学べないのでやってきた(愛知県の大工さん)

日本建築専門学校3年生・杉山さん(21) 父が静岡市で宮大工をやっており、寺の修復などを行っている。僕もそうしたい

同2年生・加藤聖さん(19) 親戚に大工がいます。僕も大工になって、芸術的な仕事をしたい

篠原商店・和田さん(75) これ(イタラーに使用されている材木)は、うちが納品したもの。赤松で、別名女松(オンナマツ)と呼ばれており、人間と一緒。男松の黒松よりきめが細やかで美しい。木は面白い

ポラス暮し科学研究所・上廣太さん 今回は鉄筋・ボルトを12本使って木造の可能性をとことん追求した。材料も強度のあるサイプレス(ヒノキの種類)とウリンを使った

   
大会会場となった日本建築専門学校            解体作業スピードも評価対象になる

 

(牧田 司記者 12月3日)

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