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 住友林業 マスコミ向け国際森林年記念セミナーに42人!?


「林業の活性化によって強い国土をつくる」セミナー(住林本社8階会議室)

 住友林業は9月27日、マスコミを対象とした国際森林年記念セミナー「林業の活性化によって強い国土をつくる」を行なった。今年が国連が定める「国際森林年」であり、国有林を除けばわが国4番目の山持ち♀驪ニである同社が日本の森林・林業の問題点や今後の課題、進むべき方向性について明らかにし、マスコミ人に理解を深めてもらうのが狙い。42人が参加した。

 鹿児島大学教授(森林政策学、林業経済学)・遠藤日雄氏、林野庁林政部木材産業課長・渕上和之氏、同社山林環境本部長・片岡明人氏がそれぞれの立場から基調講演とパネルディスカッションを行なった。

     
左から遠藤氏、渕上氏、片岡氏

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 書きたいことがたくさんある。まず第一に参加者の数だ。同社が同じ会場で6月2日に行なった新商品「mamato (ママト)」の発表会には会場いっぱいの約130人の報道陣が詰め掛けた。今回は42人。3分の1にも満たない。関心のなさばかりではないだろうが、この少なさにがっかりした。太陽光や子育てには関心を寄せるのに、森林となるとそっぽを向く。これは何ぞや。

 第二は、関心のなさと関連するが、「国際森林年」という割には盛り上がりにかけるのではないかということだ。このことは渕上氏自らも「知名度が広がっていない」と語った。知名度が広がらないのはやり方が下手だからだとも思っている。

 第三は、希望が持てることだが、木造による公共建築物を「建基法を変えてでも木造中層などが建てられるようにしたい」(渕上氏)という言葉を引き出したことだ。

 もう一つは、獣害についてだ。せっかく植えた苗木が育たないうちに食べられ、米、野菜などが収穫直前になってサル、イノシシ、シカなどに横取りされる悔しさは、実際に農林業に従事していないと分からない。耕作意欲をなくすのもよく分かる。それと、これは個人的な問題だが、記者は背筋が凍りつくほど山ヒルが怖い。シカ対策と同様に山ヒル対策を講じないと、日本国中が山ヒルに脅かされるのではないか。誰も山間部のリゾートなど行かなくなるのが怖い。

 これらの点について、日を改めて書く。

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 一昨日の続き。遠藤教授は、森林の荒廃を「砂漠化」に例えた。中国や東南アジアなどは森林の酷使が砂漠化を招き、わが国は森林の放置が砂漠化を招いたと。言いえて妙だ。中国は文字通り砂漠化が進行していることを目の当たりにした。当局も危機感を強めている。一方、わが国は大雨が降るごとに崖崩れが起き川が氾濫する。これも雨水を蓄える森林の機能が失われていることと無関係ではないはずだ。先の台風12号では、林業にもっとも熱心な三重県の南部や和歌山県、奈良県の県境で大きな被害が起きたのに記者は暗澹たる気持ちになった。

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 セミナーに人があまり集まらなかったのも、国際森林年が盛り上がらないのも、危機的状況にある森林の現状の表出だろう。森林を誰もが知らないことに起因する。

 記者の場合は、小さいころ植林も下刈りも枝払いも切り出しも見てきた。炭焼きも知っている。親が植林をしながら「お前たちが大きくなるころには宝の山になる」と話したのも聞いている。製材所もあった。あれから数十年。杉やヒノキは立派に成長したが、切り出されるのを見たことがないし、山で一儲けした話も聞いたことがない。山道は獣道になっている。

 国際森林年をきっかけに林業について取材しようと思ったのも少しは林業のことを知っていたからだ。しかし、今回の住林のセミナーの参加者の中でどれほどの記者が林業についてその現場を知っているだろうか。「間伐」「間引き」「下刈り」という言葉は知っていても、どのような作業かは知らないだろう。「1ヘクタールに3,000本の植林」といっても具体的にイメージを描ける人は皆無だろう。

 「故郷」の「うさぎ追いし」が「うさぎは美味しい」と解される時代だ。後述する「山ヒル」の何たるかを知らない人たちに、いくら山林・林業の窮状を訴えても理解されないのではないか。

 林野庁は、国際森林年に関するイベントを各地で行っているが、必要なのは何も知らない大都市の人たちを対象としたイベントだ。 1haつまり100m四方の山の木を皆伐しても100万円にもならないことを、林家1戸当たりの森林所有面積は大半が1〜2haに過ぎないことを、エネルギーの「見える化」と同じように分かりやすく説明する必要がある。林野庁の予算が少ないのには愕然とはするが、ものはやりようだ。

 一つ提案したい。それは、すでに実施している自治体も多いが、公園や街路樹のすべての草木に名札をつけることだ。今はバーコードで読み取って木の名前の由来、効用などが調べられるようなった。デベロッパーもマンションや戸建ての草木にすべて名札をつけて欲しい。何ごとも相手、対象物を知ることから始まる。わが国の樹木の種類は1,000種を超えるという。ヨーロッパ全土の樹木の種類に匹敵するという。それほど豊かな森林を持ちながら、われわれは何本の樹木を知っているか。学校教育では、わが国の数百にのぼる都市や河川、平野は教えるが、樹木はスギにヒノキ、ヒバ、ブナ、シラカバ、キリなど数えるほどではないか。樹木を知ればもっと人生は楽しくなる。記者はクスノキの香りが大好きで、いつもちぎってにおいを嗅ぐ。気持ちが落ち着く。

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 獣害についても一言。記者は山ヒルの例を出して渕上氏に聞いたが、渕上氏も「かつてメス鹿を捕ってはならないという指導が行われたことなどから異常繁殖が見られた。房総も知床も九州も山ヒルだらけ。環境省とも連携してコントロールに取り組みたい」と話した。山ヒルについては別掲の記事を読んでほしいが、鹿やイノシシ、サルなどに丹精込めた米や野菜が食べられる農家のことを考えると、棄村、離村もよく分かる。農山村に行くと、オリの中に入っているのは鹿やイノシシではなく人間ではないかという光景に出くわす。

 吉永小百合さんは「フン フン フン」などとのんきな「鹿のふん」なる曲をかつて歌ったが、サユリストでなければぶっ飛ばしたい曲だ。どんどん捕獲して「もみじ肉」にして食べよう。刺身は低カロリーで美味しい。

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 記者にとって今回のセミナーの最大の成果は、渕上氏の「建基法を変えてでも公共建築物の木造化を推進する」という言葉だった。渕上氏は「中層も木造化は世界的なトレンドになっている。わが国でも春日部(東部地域振興ふれあい拠点施設)、越谷(ポラテック本社ビル)、木材会館(江東区新木場)などメルクマールとなるような事例も出てきた」と話した。

 記者は専門的なことは分からないが、建基法の防火・準防火基準は厳しすぎると思う。大都市では119番通報してから数分間で消防車が駆けつけるというではないか。IHもガスも温度の異常上昇を抑え、地震発生時には自動停止してくれるではないか。なのに、住林などの美しい木造住宅をどうして不燃材で覆わなければならないのか。様々な不燃材の基準を緩和すれば火災は増え被害は大きくなるのだろうか。

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(牧田 司 記者 2011年9月29日)