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今年は「国際森林年」

主要32社の社有林 所有・利用状況

 

 今年は「国際森林年」の年だ。国土面積約3,779万haの約66.5%にあたる約2,512万haが森林という、フィンランドに次ぐ森林率を誇りながら、林業はひん死の状態にある。日本林業経営者協会の「今後の森林管理・林業経営に向けた提言」(2010年3月25日発表)では「今では産業としての存在価値を主張することが難しいほど小さくなっている」と分析、「1955年の国内総生産(GDP)における林業の生産額比率が3.30%あったものが現在では0.09%となっている」としている。食料の自給率13%ほどでもないが、木材の自給率は27.8%にまで落ち込んでいる。植林してから数十年も管理しなければならないスギを皆伐しても1ha当たり89万円にしかならないという。

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 「国際森林年」をきっかけに森林・林業について取材を始めようと決意した。三重県の山奥で生まれ育ち、「清く貧しく美しく」という生き方を教わったのも故郷の大自然のお蔭だと思っている。四万十川よりきれいな故郷の宮川は、奈良や和歌山の県境にある大台ケ原が源流だし、世界に誇れる的矢の牡蠣は美しい山のお蔭だ。

 そもそも、三重県と森林・林業は深いかかわりがある。速水林業の社長で、日本林業経営者協会の会長を務めている速水亨氏は三重県出身だし、「わが国の山林王」と呼ばれている諸戸林業も三重県桑名市が本拠だ。

 さて、最初の記事は、主だった企業の社有林の規模と活動について。所有林の多寡がどれほどの意味を持つのかよく分からないが、山林所有者は人類の生存に関わる重要な役割を果たしているのは間違いない。われわれの居住環境を守り、美味しい水を供給し、大量の炭素を固定化してCO2削減に貢献しているし、癒しの効果や生物多様性の保持にも大きな力を発揮している。これらを考えると、林業生産額の数倍どころか数十倍の価値があるのではないか。

 記事を書くに当たっては、基本的には各社のホームページから拾い、基本的なデータは林野庁や日本林業経営者協会の資料によった。また、各企業の取り組みについては社団法人国土緑化推進機構のポータルサイト「森ナビ」を参考にさせていただいた。「森ナビ」では実に様々な業種の企業が多用な取り組みをしていることを知った。森林全般については、田中淳夫著「森林からのニッポン再生」(平凡社新書)、「四手井綱英が語る これからの日本の森林づくり」(ナカニシヤ出版)なども参考にさせていただいた。

 さらに、☆印の会社については、「日刊木材新聞社」が2008年8月25日に発表した特集レポート「木材建材ウイクリー」( 1690)のアンケートによった。このレポートはA 4にして19ページにもわたるもので、悲鳴をあげている森の代弁者ともいうべき現場から「林業はもはや産業として成り立たない」という悲痛な声がたくさん紹介されている。三重県多気郡の田中産業は約2,000haの山林を所有するが、平成16年の集中豪雨による被害が甚大で休業中」とし、「採算があわない。労働者が不足している。地形の問題から出材が難しい」「育成中の林分をいかにして管理維持していくか、頭が痛い」とアンケートに回答している。快くレポートを参考することに応じてくれた同社には感謝してもしきれない。

 以下、主な企業の社有林の保有状況と主な活動を紹介する。

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国有林 約760ha (国土の約2割、森林面積の約3割。王子製紙の公益的機能の評価額は約5,700億円だそうだが、国有林は王子製紙の社有林の40倍だから、同じ算式なら22兆8,000億円になる勘定だ。平成23年度の林野庁の概算予算額は2,719億円しかない)

王子製紙 19ha (民間最大規模。当初は製紙原料の生産が目標だったが、その後、製材用原木の育成に方針転換。北海道ではエゾマツ、トドマツ、カラマツ、その他の地域ではスギ、ヒノキなどを植林。社有林の約41%が人工林。年間約5億円を投じて間伐などの費用に当てている。社有林の公益的機能の評価額は年間5,700億円、CO2吸収量は年間115万CO2トンと試算)

日本製紙 約9ha (全国398カ所に約9万ha を所有する王子製紙に次ぐ山持ち企業。当初は製紙用原料として植林してきたが、近年は杉、檜など製材が中心。収支状況は費用が6億円に対して、補助金を含めた収入が5億円。1億円の持ち出し)

三井物産 約4.4ha (三井物産フォレストは75名の人員を雇用、遠隔地の山林については地元の個人・森林組合との管理契約や、森林組合・企業との施業委託などで地元経済に貢献。昨年9月、生物多様性の保全や改善の状況を定量評価し証明するJHEP認証を京都府の社有林で国内初の取得。2009年度の森林管理費用予算は約4億3000万円)

住友林業 約4.2ha (1691年の創業以来「木」をキーワードに川上から川下まで事業展開。シンボルキャラクター「きこりん」などによって親しみやすい情報を発信。 2007 年から毎年、「 Sustainable Forest Gallery」を開催。住宅の受注・分譲戸数の延床面積の2倍に相当する植林活動も実施)

東海パルプ 約2.4ha (静岡県井川社有林。民間が日本国内に所有する1団地としては最大規模)

☆木原造林 約2万ha (東京都新宿区、大正13年11月、樺太で創業。「森林の多面的機能の発揮」「林業の持続的で健全な発展」が基本理念 )

東京電力 約1.8万ha (技術開発研究所省エネ・環境技術グループで CO2の吸収量に関する調査研究活動を実施。尾瀬国立公園の群馬県側の全ての土地《尾瀬全体の約7割》とそれに隣接する戸倉山林を所有、約 40 年にわたって尾瀬の自然保護活動に取り組んでいる)

北越紀州製紙 約12,800ha (分収林1,500ha含む。環境共生支援に取り組む)

岩崎産業 約1.2万ha (鹿児島県。大正12年創業。枕木販売・山林経営から、戦後は陸海空の交通運輸事業、観光・レジャー、ホテル事業を展開)

☆ニッタ 約6,700ha (大阪市浪速区、明治18年3月創業 動力伝動用ベルトからスタートし、搬送用ベルト、コンベヤシステムなどと事業を拡大。また、CSRの一環として北海道の十勝地方に山林を取得して以来ほぼ1世紀にわたり植林を継続。北海道中川郡幕別町の事業所で農林事業を管轄)

三井不動産グループ 約5,000ha (北海道の道北地方が中心。全体の6割強がトドマツ、カラマツなどの人工林。残りの4割弱を占めるミズナラ、ハルニレなどの天然林)

J−POWER(電源開発)グループ 約4,600ha (全国59カ所の水力発電施設の周辺を中心に保有。社有林の約9割が自然林。森林保全、環境共生に取り組む)

九州電力 約4,400ha (大分県九重町や湯布院町などで所有)

三菱製紙 約3,400ha (同社グループの国内社有林のFSC認証面積は968ha )

諸戸林業 約2.800ha (1863年、諸戸清六が伊勢国桑名郡で創業。明治11年、大蔵省御用商人となる。平成16年、諸戸グループの持株会社として諸戸ホールディングスを設立。環境林業、緑化事業、不動産業、ゴルフ場など多角化。 日本の山林王と呼ばれる)

☆國六 約2,650ha (岐阜市、明治31年3月、本巣市で創業。大正5年6月、林地伐跡、林地に適地樹種更新業務を計り植林撫育造林事業を開設。現在は山林の経営とともに 一戸建住宅及びマンションの販売、注文住宅の建築も)

☆吉川林産興業 約2,340ha (山口県岩国市、昭和22年2月設立。主業務は不動産業)

アサヒビール 約2,165ha (1941年、コルクの代用品としてアベマキの樹皮を確保するために取得。2001年、国際的な森林認証であるFSC森林認証を日本で3番目に取得。2006年からは森林の役割や環境問題を学んでもらう環境イベント「アサヒ森の子塾」を開催。2008年、国内で初めて第三者機関による CO2の年間吸収量の証明を取得)

中部電力 約2,030ha (岐阜県各地に所有。様々な地球環境問題に取り組んでいる)

☆田中林業 約2,000ha (三重県松阪市、 昭和32年設立。平成6年に法人経営改善計画の認定を受けて、山林業の経営に。 社訓は『よい種、よい苗、よい管理』)

トヨタ自動車 約1,630ha (2007年、社会貢献活動ならびに林業事業を通じた、国内の森林再生モデルの構築に向けて諸戸林産などから取得。このほか、里山再生のモデルとして緑化活動の公開・体験型プログラム等を行う「トヨタの森」活動や中国やフィリピンでの植林活動を行っている)

DOWAホールディングス 約1,600ha (鉱山活動の跡地の復旧、緑化活動を展開)

☆マルカ林業 約1,500ha (山形県新庄市、平成18年までは個人で保育・管理のみだったが平成19年にマルカ林業設立

中越パルプ工業 約1,350ha (社有林792ha 、分収造林558ha 。海外では他社と共同で3,862ha の事業植林を展開中。竹の有効活用にも取り組む)

ナイス 約1,140ha (木材市場として設立された同社は、「木」をルーツとする企業として山林の取得と保全・育成を展開。和歌山県新宮市、神奈川県厚木市、静岡県島田市、福島県郡山市、徳島県那賀町の 5 カ所の「ナイスの森」は総面積 1,140ha)

☆九州木材工業 約1,200ha (福岡県筑後市、昭和5年5月設立。祖業である『電力・木材・防腐』を事業の柱としている。「エコアコールウッド」という、新しい保存処理木材を開発)

速水林業 約1,070ha (三重県海山町、尾鷲が本拠。創業は江戸時代。2000年2月、環境配慮型の森林経営は、国際的機関であるFSCの認証を国内で初めて取得。速水亨社長は日本林業経営者協会会長)

☆永和実業 約1,000ha (大阪市中央区、賃貸マンション・不動産仲介業)

鹿島建設 約1,000ha (社有林の管理と廃食油の燃料化(バイオディーゼル)で得る二酸化炭素排出枠を使って、施工現場から出るCO2を相殺)

日本生命 約393ha (従業員を中心とするボランティア組織「“ニッセイの森”友の会」は、会員から募った募金を原資に 1992年度から“ニッセイの森”づくりを実施。植樹と育樹には全国各地の職員もボランティアとして参加)

NTT ドコモ 約193ha (1999年から自然環境保護活動の一環として、全国47都道府県49カ所で「ドコモの森」づくりを推進)

サントリー − (2003年7月、サントリー九州熊本工場の水源涵養エリアで始めたのが最初。現在、10都府県122カ所、総面積4,358haで活動。「サントリー天然の水」のほか森林の保護活動を展開)

【FSCについて】 FSC ( Forest Stewardship Council 、森林管理協議会)は、木材を生産する世界の森林と、その森林から切り出された木材の流通や加工のプロセスを認証する国際機関。その認証は、森林の環境保全に配慮し、地域社会の利益にかない、経済的にも継続可能な形で生産された木材に与えらる。このFSCのマークが入った製品を買うことで、消費者は世界の森林保全を間接的に応援できる仕組み。WWF ( World Wide Fund for世界自然保護基金 ) は自然環境保護団体で、世界的な持続的な森林の利用を推進するため、その普及と推進にも取り組んでいる。(FSCホームページより)

※1月24日に北越紀州製紙、岩崎産業、三井不動産グループ、J−POWERグループ、中部電力、DOWAグループを追加しました。

住林「Sustainable Forest Gallery2011〜きこりんの森〜」(1011/1/15)

(牧田 司 記者 2011年1月24日)