2018/02/28(水) 16:42

英国の幻影

 

日本人が憧れる「英国紳士」という蜃気楼

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著   者/川﨑 享

仕   様/四六判、本文336頁

定   価/本体1700円+税

発   売/創英社・三省堂書店

ISBNコード/ISBN978-4-908272-01-1 C0012

◆主な内容

 「英国大好き人間」が日本には多く存在するのは何故だろうか。その中には“知英派”を自認する外交官、学者、ジャーナリスト、経済人も少なからずいて、誰も皆が魔法にかかったように英国を礼賛する傾向がある。確かに歴史を振り返れば、19世紀末に英国を見た日本人たちは、同じ島国でありながら7つの海を支配する「太陽の没することのなき帝国」を築いた英国人に素直に敬服し、その世界最強の工業力を真似るべく、謙虚に学ぼうとした。そして英国はドイツと共に、明治新政府の「富国強兵」という国是に合致する目標にもなった。また、英国は日本のインフラ整備にも大きく貢献している。日本初の蒸気機関車による鉄道建設を指揮したのが、「お雇い外国人」であるイギリスの鉄道技術者エドモンド・モレルであった。日本に本格的な水道を敷設したのも英国人である。

第二次世界大戦中に英国は日本にとって敵国となったが、日本と英国との間には明治35年から大正12年まで、「日英同盟」が結ばれていた。この世界最強の海軍国との同盟関係構築を抜きにして、日露戦争の勝利はあり得なかったばかりか、第一次大戦後に日本が「五大国」の一国として国際舞台に登場する事もなかったはずである。

幕末以来、英国は日本にとって常に自分たちの先を行く優れた先哲であり続けてきた。しかし、その英国も時代の流れの中で大きく変わっている。たとえば、「英国は未だに階級社会である」と言う日本人が多くいるが、もはや日本人が憧れているような華やかに見える王室と貴族は、英国のほんの一部であって社会全体を代表している訳ではない。

日本人が「貴族(ノーブルマン)」「紳士(ジェントルマン)」「貴婦人(レイディ)」といった礼儀正しい英国人から連想する「上流階級(アッパークラス)」「中産階級(ミドルクラス)」「労働者階級(レイバークラス)」といった言葉で一括りにされるような「階級」社会も、過去の英国の残影、日本人が未だに信じている幻影でしかない。

現在の英国はアメリカ型グローバリズムに席巻された上、旧植民地や欧州諸国からの大量に流入する移民によって社会と経済の構造が劇的に変化し続けている。ただ、日本が英国の衰退の後を追っていることは間違いない。

本書は21世紀に入ってから「英国紳士はどこへ行ってしまったのであろうか」という疑問をベースとして、知識も関心も極めて希薄な英国人と英国好きの日本人とのギャップの大きさに違和感を覚えながら、現代の英国を理解する一助となることを願ってまとめた書である。似ているようで似ていない日英の違いをよくご理解いただけることと信ずるものである。

◆著者紹介

川﨑 享(かわさき あつし)

昭和40 (1965)年4月28日 東京都渋谷区生まれ。

慶應義塾大学経済学部卒業、

ミシガン州立大学大学院史学修士課程修了(中国研究・国際政治)。

電機メーカー、コンサルティング会社などの役員を経て、

平成25年5月より日本製造業一業種一社による異業種集団

「NPS研究会」を運営する㈱エム・アイ・ピー代表取締役社長。

日本取締役協会会員。交詢社社員、英国クロムウェル協会会員。