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「モデルルームでは 新鮮な暮らし方の提案が要」

小野意匠計画 代表・小野由記子さんに聞く

 

 販売事務所やモデルルームの出来不出来が、マンションの販促に相当のウエイトを占めるのは間違いない。記者が衝撃を受けた「アクアリーナ」を始め、「パークシティさいたま北」「フォレシアム」などのインテリア仕様、モデルルームデザインを担当した小野意匠計画 代表・小野由記子さんに話を聞いた。

「アクアリーナ」、「さいたま北」、「フォレシアム」など手がける

――「アクアリーナ」、「さいたま北」、「フォレシアム」のデザインが素晴らしい。みんな人気になりました。これまで豪華だとか、よく目立つモデルルームはたくさん見ましたが、どこか生活感に欠けるものが多かった。小野さんのデザインは、なるほど、こんな生活ができるのか≠ニ新しい発見をさせてくれます

小野 「アクアリーナ」では 全てリバービューキッチンです。加えてハイグレードなキッチン仕様を全住戸に採用していただきました。「パークシティさいたま北」も引戸を多用したモデルルームの評判がいいようです、「フォレシアム」も販売好調と聞いています。

 売れればいい≠ニいう考えだけではお付き合いは難しいです。

 良質な暮らしをどのように提案するのか、これが大切です。モデルルームは、強い印象も必要ですが 訪れる方たちに共感いただくためには 演出はやや控えめに、むしろ 心地良い暮らし方の提案を心がけることが必要です。見る方に想像力を膨らませてもらうためにも、です。

――マンションの仕事はあまり多くないようですが

小野  少人数の事務所なので たくさんできません。基本性能からカラースキーム、デザインまで施主の意向を反映しながら、我々の提案も盛り込んで納得できる仕事をしようと考えると、右から左に流すような作業はできず時間が相当かかります。

    
「アクアリーナ川崎」モデルルーム

作品に投影されている育った環境、生き方

――小野さんのデザインは、単に美しいというのではなくて、どこか気品がある。これは小野さんの育った環境、生き方などが作品に投影されているように思いますが

小野  気品などは特に意識しませんが、子供時代育ったのは神戸。通った教会やピアノの先生宅の瀟洒な洋館、プールのある友だちの家、茅葺の農家など子供ごころに鮮明に映りました。京都、奈良にもよく出掛けていました。その頃から建物が特に部屋が好きだったですね。

 (小野さんは、「アクアリーナ」のダイニングに紫のアクセントを用いている。紫は高貴な色だが、使い方を間違えると下品になる。さりげなく演出できるのが真骨頂というべきか)

――なぜ美術大学へ

小野  中学 高校はミッションスクールで受験校だったのですが、美術が好きでデッサン教室に熱心に通い、「美術手帳」なんか愛読していました。高校生の私は 女性も仕事すべきという風潮に染まっていましたが、純粋美術ではやっていけないと思い、その頃知って憧れた「乃村工藝社」に入社するにはどうすればいいかと考えて武蔵野美術大学に進学しました。

乃村工藝社に入社したくて美大進学

――乃村工藝社から独立されて、どうでしたか

小野  大手の広告会社からコマーシャルスペースデザインの仕事が次々に入りまして、雑誌に原稿なども書いておりましたし、寝る暇がないぐらい忙しかったですね。それから店舗デザインを手がけ、徐々に住宅の仕事が増えました。

――住宅デザインではどのような仕事を

小野  始めた頃、SUM建築研究室の井出(共治)さんと一緒にお仕事をさせていただきましたし、日本ランディックの方々ともお付き合いさせていただき勉強になりました。店舗ではキャサリン・ハムネットのショップ展開の仕事なども。好運だったですね。

 (井出氏は傾斜地マンション「ヒルサイド久末」で業界を驚愕させ、圧倒的な人気を呼んだ。湯河原のリゾートマンション「水明荘」では自ら売主となり、 2 度目のグッドデザイン賞を受賞した建築家。日本ランディックはZ型プラン、PPプランなどで一世を風靡したデベロッパー。キャサリン・ハムネットはイギリスの世界的服飾デザイナー)

「多すぎる紋切り型のプラン」「快適性能をさりげなく盛り込む」

――マンションの問題点をあげるとすれば

小野  いまだに紋切り型のプランが多すぎますね。

 3LDK、4LDKの神話が生きているのも不思議です。どうして部屋を細かく区切るのか。居室間を流れるようにつなぎ ドアに代わって引き戸、吊り戸なども取り入れるとよいでしょう。障子やふすまの文化は、ヨーロッパのデザイナーがインスパイアーされて普及し、今では逆輸入の形で導入されるようになっています。

 日本の風土に適し、住む方に似合う家づくりが求められています。また廊下幅など含めシニアになった時の快適性能を当初からさりげなく盛り込んでおくことも大切です。

――これからやりたい仕事について

小野  医療環境やシニア期の暮らしの快適性をデザイナーの知恵でサポートしてゆこうというプロジェクトに取り組んでいます。これからの医療環境には、安全、清潔という機能面は当然ながら、美しさや心地良い雰囲気がますます求められると思うからです。

    
「パークコート本郷真砂」モデルルーム

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【小野由記子さんプロフィール】
  女子学院高校卒業◇武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科インテリア専攻卒業◇乃村工藝社勤務◇ 1985 年 小野意匠計画設立◇ 1986 年 Norman Foster Associates,London にて研修◇ 2003 〜 文化女子大学造形学部 住環境学科 非常勤講師◇ ( 社 ) 日本インテリアデザイナーズ協会 理事

(牧田 司 記者 6月2日)