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  「区画整理の限界を超える」か

全900区画の日本初のスマートシティ「ビスタシティ守谷」


記者発表会に臨んだ関係者(左端が立石氏、中央が永瀬宗重理事長、右端が奥野氏)

 TX守谷駅徒歩9分に区画整理方式による地区面積約41.7ha、想定区画900区画の電線類を地中化し、全戸で太陽光発電の導入と売電が可能な日本初の大規模団地「ビスタシティ守谷」が誕生する。街づくりを進める守谷市松並土地区画整理組合は2月21日、記者発表会を開き団地の概要などを公表した。「日本初」の団地開発とあって約60人の報道陣がつめかけた。

 事業は、茨城県守谷市松並に位置する組合施行による「取手都市計画事業守谷市松並土地区画整理事業」で、施行面積は約41.7ha。権利者数は47名。総事業費は154億円。平均減歩率は49.45%。保留地面積は約8.9haで、戸建て保留地はうち2.5haで150区画。保留地全体の予定処分価格は平均36万円/坪。計画人口は5,000人。想定区画は900区画。戸建て保留地は約150区画。平成 20年10月 に組合設立準備会発足。平成 23年2月、市街化区域編入。平成23年6月、組合設立認可。平成23年12月、工事着手。平成28年3月、事業完了予定。

 街づくりの特徴は、持続可能な街づくりを目指すタウンコミュニティマネジメントに基づき進められており、全戸への太陽光発電システムを導入し売電も可能なインフラも整備するのをはじめ、電線類の地中化、地域の松並木の保全と再生、幅16m、総延長400mのメタセコイアのメインストリートの整備を行う。

 開発の経緯は、三井不動産レジデンシャルが平成19年に地区内の工場跡地を取得したことから始まり、市も市街地の活性化に理解を示していたことから区画整理方式による開発が進められることになった。総事業費154億円のうち58億円が補助金でまかなわれる。三井不動産レジデンシャルは地区面積の3分の2を所有しており611区画の戸建て・土地を分譲する。土地面積は165u以上となる。


空撮

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 話を聞いていて身震いがした。区画整理組合事務局長・立石智氏が「区画整理の限界を超える」と話したようにかつてない素晴らしい街ができるのではないかという期待感と、「そんなに思惑通り運ぶわけがない」という懸念が記者の胸のうちでせめぎあった。今でもどちらが正解か分からない。

 まず、期待感。全戸への太陽光発電システムを導入し、電線の地中化、幅11m、長さ400mにも及ぶメタセコイアを配した並木道、1区画165u以上の区画割りなどはユーザーの心を捉えるのではないかというものだ。「日本初」に力が込められていたのに納得もした。

 驚いたのは、減歩率が50%に抑えられていることだった。総事業費154億円のうち約39%に当たる58億円の補助金が投入される(調整区域の開発にこれほどの巨額の補助金を注ぎ込むことの是非はさておく)ことだ。従前の土地は調整区域だから二束三文の価値でしかないが、道路、公園などを整備して平均坪36万円で売れれば事業費が捻出できるということだ。計画通り進めば事業スピードも他に例がない速さだろう。そうなれば、間違いなく「区画整理の限界」を超えることができる。

 しかしその反面、売れるはずがない≠ニいう考えも浮かんだ。記者はこれまで区画整理が「都市計画の母」と呼ばれた昭和の時代から区画整理団地を少なからず取材してきた。駅舎も町役場も木造の古い建物だったころ、三井不動産レジデンシャルの「パークシティ守谷」を何度も取材した。すばらしい団地だった。最盛期には年間200戸、300戸の戸建てが分譲されたのではないか。

 ところが、バブル崩壊で様相は一変。「都市計画の母」は歳を取ったどころではない。死屍累々、姥捨山状態といっても言い過ぎではないのが現状だ。減歩率はどんどん上昇し、現在、全国の組合の区画整理事業の減歩率は60〜70%ぐらいではないか。保留地が売れないから再減歩が繰り返された。広島県の福山市郊外の「佐賀田土地区画整理事業(あしな台)」(19.5ha、342区画)団地では減歩率は97%に達した。つまり、元にはほとんど残らないという悲惨な事態となった。

 少子高齢化が加速度的に進行しており、TX沿線では多摩ニュータウンに匹敵する規模の宅地開発が進行中で、都市間競争は激化する一方だ。そんなとき、わざわざ調整区域を市街化区域に編入して900区画もの団地を開発するのは無謀な挑戦ではないかとも思った。


ロゴ

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 611区画を販売する三井不動産レジデンシャル地域開発事業部・奥野宗剛氏は「守谷市は『パークシティ守谷』『ヒルズ美園』の開発を通じて古くからよく知っている。ポテンシャルもあり将来性もある。価格を間違えなければ十分採算が取れると開発に踏み切った。保留地が残った場合、当社が買い取るなどという約束はしていない」と経緯などについて話した。同社が調整区域の開発を手がけるのはおそらくバブル崩壊後初めてだろう。

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 TX が2005年に開業したとき、いくつかの住宅地を取材した。守谷市も取材した。当時の記事を以下に紹介しよう。

 快速停車駅の「守谷駅」周辺では現在、組合施行の「守谷東」 (40ha) と守谷市施行の「守谷駅周辺」 (39ha) の区画整理事業が行われている。前者はTX沿線で行われている20の区画整理事業のうち唯一組合施行による事業で、事業期間は昭和63年度から平成17年度、総事業費は160億円だ。うち48億円が国と茨城県の負担でまかなわれている。

 しかし、TXの開業の遅れと地価の下落で保留地が処分できず、組合はほとんど破綻状態に陥っていた。そこで昨年3月、組合が賦課金約26億円を負担、金融機関や工事施工者などの債権者が債権の一部約32億円を債権放棄し、売れ残った保留地131区画を約47億円で守谷市が100%出資している守谷土地開発公社が買い取るという内容で再建計画がまとまった。

 その後、保留地処分が引き続いて行われていたが、今春まで約半分が売れ残っていた。1区画当たり60〜80坪と広く、坪単価約40万円と高いのが不振の要因と考えられていた。かつて三井不動産が市内で分譲した良好な住宅地「パークシティ守谷」内ですら、今年の地価公示でもっとも高い評価がされたのが坪23万円だ。これと比較してもいかに高いかが分かる。

 ところが、TXの開業を前後して保留地処分が急速に進んでいる。現在残っているのは10区画のみだ。不動産業者も買っているといわれるが、数ヶ月で約50区画が売れたことになる。販売価格からして驚異的な売れ行きだ。

 この記事を書いてから8年。守谷が再び脚光を浴びるのか。同じ失敗は繰り返せないことだけは確かだ。


メタセコイアの並木道

多摩NT学会 稲城の南山東部区画整理・里山を学ぶ(2012/3/26)

全550戸の東急不動産「ブランズシティ守谷」3月分譲(2008/2/20)

つくばエクスプレス開業に乗る&ェ譲住宅(2005/2/20)

(牧田 司記者 2013年2月22日)