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多摩ニュータウン学会 稲城市の南山東部区画整理・里山を学ぶ


京王相模原線稲毛駅近くの区画整理地の入口付近

 多摩ニュータウン学会(会長:吉川徹・首都大学東京教授)は3月24日、里山に関する勉強会の第三弾として荒又美陽・恵泉女学園大学准教授がコーディネーターとなり第9回例会「稲城南山におけるエリアマネジメントの可能性−今までの経緯と今後の課題」を行った。東京都稲城市で施行されている組合施行の「南山東部土地区画整理事業」地内や周辺の里山などを現地見学し、学会員で同区画整理事業の「エリアマネジメント準備会」メンバーとして活動している宇野健一氏(アトリエU都市・地域空間計画室)が講演した。約20人が参加した。


宇野氏

 同区画整理事業は、稲城市南東部に位置する約87.4haの規模で、西側は京王相模原線稲城駅に、東側は京王よみうりランド駅にそれぞれ近接。敷地の西側は、開発の意向があるといわれている同規模の市街化区域(現況は雑木林)があり、南側は東京よみうりカントリークラブのゴルフ場。

 区域内は高低差約60mの起伏の激しい雑木林で、もっとも高いところは標高約129m。戦後は主に山砂採取場として利用され、昭和45年、市街化区域に編入されたが、ガケ地の改修の費用負担が大きいことやバブル崩壊による経済環境の悪化、環境保護団体による反対運動などから開発計画は難航。ようやく平成18年、区画整理法の認可を受けてスタートした。

 施行期間は平成18年4月から同32年3月末。地権者は260名。総事業費は406億円。公共減歩率は約35%、保留地減歩率は約32%、合算減歩率は約68%。計画戸数は約2,500戸(うちマンション400〜500戸)。2年後の街開きを目指している。

 エリアマネジメントは、市民参加型の里山・緑地・農地の活用・保全と市街地の共生を図るため立ち上げられた。宇野氏は、「建基法や都市計画法だけではいい街づくりはできない。数字ではコントロールできない街づくりの『こころ』を伝える取り組みを行っていく。そのための7つの街づくり憲章を掲げた」とし、@緑豊かな南山の自然を守り育てるA農ある暮しを楽しむB地域の資源を大切にするC地球に優しい暮しを目指すD思いやりのあるコミュニティを育てるE安全と安心を守る暮しF地域の歴史を次の世代に伝える−ことなどを話した。

 宇野氏は、横浜市の十日市場の「脱温暖化モデル住宅」の全体マスタープランの提案に関わっている。

  
区画整理地の入口付近                     造成現場を見学する参加者

◇    ◆    ◇

 正式決定ではないようだが、デベロッパーの野村不動産や大和ハウス工業が戸建てやマンションなどを分譲すると聞いた。戸数は1,500戸ぐらいになる模様だ。北傾斜という課題はあるが、これ以上景気が悪化せず、戸建ての分譲価格が6,000万円以下に抑えられるなら間違いなく売れるとみた。両社とも立派な戸建てを建設するはずだ。

 野村不動産の団地は約30年間見続けてきた。「鶴川緑山」「広島西部丘陵都市・西風新都 A.CITY アベニュー(花の季台)」「千都の杜」「八千代緑が丘」「み春野」などだ。広島の「A.CITY アベニュー」は約900戸の戸建て団地だが、近接の区画整理事業がほとんど壊滅状態だったにもかかわらず2年間ぐらいで完売したのではなかったか。最近では「プラウドシーズン花小金井」が出色の出来だった。

 大和ハウスの戸建て団地の見学は少ないが、同社が企画・建設した山梨県住宅供給公社「双葉・響が丘」は環境共生型のすばらしい団地だった。


標高約250mの山頂付近(ここでも駅から徒歩20分ぐらいという)

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 勉強会では、「マキストーブはともかく、ペレットの製造・販売などできない」「緑の連続性を保つようしていただきたい。『額縁としての緑』では意味がない」「サンショウウオも人工的に飼育しているところが近くにある。開発で自然が消滅しないか」などの鋭い質問も飛んだ。これらの質問に対し、宇野氏は「私はこれまで経済合理性と間逆のこともやってきた。無謀といわれた企ても放り投げたことはない」と、街づくりへの決意を語った。

 記者も、宇野氏などの推進派≠ノ同感だ。造成地は無残にも雑木が切り倒され、赤茶色の地肌がむき出しにされていた。いくら緑化を施したところで、元の姿には戻らない。

 元のままがいいと言うのであれば、われわれは化石燃料に頼らず、薪炭の時代に逆戻りするしかない。記者は小さいころ、井戸から水を汲み火吹き竹マキを燃やし風呂の湯を沸かした。親父が囲炉裏の灰に書く漢字を覚え、祖母からは村の伝統を教わり、村人が交わす会話で農村の経済を学び、男女の下世話な話も聞いた。記者の人格形成は囲炉裏にあると思っている。懐かしい思い出だが、そんな昔の生活に逆戻りするのは真っ平ごめんだ。

 しかし、東日本大震災を経験して、われわれは自然に畏怖することを再認識させられた。自然と共生しなければ生きられないということを否応なしに教えられた。「どうせ無理」とあきらめないで、肩肘を張らず、できることから始めればいいのではないか。里山を守る活動は新しい居住者にも理解されるはずだ。

 ただ、理解はされるだろうが、思わぬ反撃を食らう可能性もありそうだ。里山の畑で焚き火をし、炭焼きでも始めれば、「あの野蛮人を何とかしろ」という苦情が殺到するかもしれない。建前と本音、総論賛成各論反対は覚悟したほうがいい。

 こんな話がある。多摩市は来年度予算に全小中学校の教室に冷暖房施設を設置することを議会で可決した。23区では全区が設置率100%で、夏場は暑くて保健室に運ばれる子どもが多いからだという。設置を希望したのは保守派ならまだ分かるが、革新派と聞いてあ然とした。「保守」と「革新」は逆転したようだ。学力も体力も低下し、その一方で肥満児が増え、満足に咀嚼できない子どもが増え、うつ病まであるという。そんな子どもにした大人が悪いのだろうが、その根本原因に口をつぐみ、あろうことかこの時期に冷暖房施設を設置するとは …。

 里山についていえば、わが故郷の美しかった里山はイノシシ、シカ、サル、ヤマヒルに占領され、主客が逆転している。農家はまるで檻の中の子羊のように電気柵の中に押し込められた生活を余儀なくされている。

 その山上には30基を超える巨大な風力発電機が設置される計画があるが、町当局は情報を公開しないから計画そのものを知らない人が少なくないという。電話もなかった昔だったら、そんな計画が持ち上がったらほんの1週間もあれば村の隅々まで情報は伝わったはずだ。風力発電によって山を追われた獣たちがどこに向かうのかは明らかだ。里山は崩壊し、文化そのものも危機に瀕している。

   
開発地に近接している生産緑地

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 かつては「都市計画の母」と呼ばれた区画整理事業は、地価が右肩上がりすることを前提にした開発手法なので、バブル崩壊後は縮小の一途を辿っている。記者は、広島県福山市近郊の「佐賀田土地区画整理事業(あしな台)」(19.5ha、342区画)を取材したことがあるが、バブル崩壊の直撃により組合を解散する時点の減歩率は何と97%にも達していた。「南山東部」の減歩率が68%というのも納得だ。郊外部の山林だとこれぐらいの数字になるのだろう。

 同学会筆頭理事を務める西浦定継・明星大学教授の話を聞くのも楽しみにしていたのだが、西浦教授は途中から出席し、一言もしゃべらず終始メモを取っていた(大学教授ですら必死にメモを取る。学生は学ばなければならない。後で聞いたら、大学の卒業式があり、お酒が入っていたのでしゃべらなかったのだそうだ。酒が入ると多弁になる記者とは逆だ。これもすごい)


雨が止み、地面からはもやが上がり、逆光にキラキラ光る生産緑地の梅の花(参加者は歓声を上げ、さかんに写真を撮っていた)

横浜市公社 脱温暖化 定借戸建「十日市場」即完へ(1011/12/2)

(牧田 司記者 2012年3月26日)