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「機能不全マンション」に第三者管理方式の導入は適当か

 

 国土交通省は7月31日、「第8回マンションの新たな管理ルールに関する検討会」を開き、第三者管理方式を導入した際の課題や問題点などについて討議した。

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 これまで行われた8回の会合のうち前回を除き傍聴した。7回の傍聴で感じたのは、各委員が同じテーブルにつきながら考えていることは別々で、言葉が適当かどうかは分からないが「同床異夢」がぴったりのような印象を受けた。

 今回の会合でもそれが露呈した。自らが住むマンションの理事長にも就任したことがある村辻義信委員(弁護士)が指摘したことだが、組合の最高意思決定機関である「総会」、執行機関の「管理者(理事長)」と「専門家」の関係を区分所有法上どう解釈するのか、その整合性を明確にしないと立ち往生することになりはしないか。委員の間でも議論が煮詰まっているとは思えない。区分所有法では「管理者」の規定が極めてあいまいだ。会合では「内部」か「外部」かでやり取りがあったが、そもそも法律があいまいだからだれもわからないのではないか。

 もう一つはマンション管理の現場からもっと学ぶべきではないかということだ。今回の会合で国交省から示された専門家活用パターンは、@理事会方式(理事・監事外部役員型)A外部管理者方式(理事会監督型)B外部管理者方式(総会監督型)の3つのパターンだが、AやBのケース、つまり管理業者のサポートがない老朽化・高齢化が進行している全体の約1割といわれる約60万戸(棟数は不明だが、全国11万棟の1割とすると1,100棟)の小規模マンションについて考えてみよう。

 AやBは一部の委員が語ったように「機能不全マンション」だ。果たして機能不全を起こしているマンションの区分所有者は専門家に報酬を払って管理を任せることができるのか。その財源はどう確保するのか。そもそも機能不全を起こしているマンションに専門家の業務執行のチェック体制の構築、財産毀損の防止対策、選任と解任の要件、利益相反取引の回避などを盛り込む意味があるのか。

 自治体が補助する場合も公平性からいって市民の理解が得られるのかという問題もありそうだ。自立できないマンションが朽ち果てるまで公的資金を注ぎ込むことになりかねない。また、機能不全マンションのレッテルを貼られたマンションは市場で流通するのかという疑問も沸く(その烙印を押されないために自助努力で自立を図ろうとするマンションが増えることが期待できるかもしれないが)。60万戸が多いのか少ないのかの判断は難しいが、別の視点でこれらのマンションの救済策を考えるべきではないのか。

 資力のことでいえば、第三者管理方式は富裕層が住む億ションなどのほうが導入しやすいのではないか。富裕層なら資産価値を挙げてくれるのなら惜しみなくお金を払うだろう。

 さらに付け加えるならば、「役員のなり手不足」「高齢化」「賃貸化」「無関心」「紛争の多発」などの問題は、考えてみればマンションだけの問題ではなく、森林や農地の管理・耕作放置と同じ問題だ。つまりわが国の社会システムの問題でもある。家族や近隣住民、地域のコミュニティの希薄化・崩壊がその背景にある。そうした社会の病巣まで踏み込まないと根本的な問題解決につながらないのではないか。

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 村辻委員は「この検討会の冒頭でも話したことだが、財産管理団体としての組合の役割と自治会の活動を混同している。良好な地域コミュニティを形成するのは重要なことではあるが、双方を混同してはならない」と強調した。

 この問題も避けて通れない問題だが、会合ではほとんど論じられなかった。記者はマンション管理と自治会活動は車の両輪だと考えるが、区分所有法は自治会活動などについてはまったく触れられていないない。コミュニティなどが法律にはなじまないということは素人でも分かる。

 しかし、実際にマンションの価値を維持・向上させるためにはコミュニティ形成が欠かせない。このため、最近のマンションは、管理費とは別にコミュニティ形成のための金額を原始規約に盛り込んでいるものも少なくない。

 検討会はこの問題について論議する時間はないだろうが、高層住宅管理業協会が立ち上げた「マンション長寿命化協議会(座長:齊藤広子明海大教授)」が「管理組合の業務範囲に現行法制度は即応しているか」をテーマに論議し、来年の春までに提言としてまとめるとしているので、こちらに期待したい。

マンションコミュニティ活動と現行法の問題 管理協(6/28)

国交省 マンション「第三者管理」規約で認める方向へ(5/23)

(牧田 司記者 2012年8月3日)