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国交省 第2回「不動産流通市場活性化フォーラム」

 国土交通省は12月2日、不動産流通市場の活性化を具体的に検討する第2回「不動産流通市場活性化フォーラム」(座長:中川雅之・日本大学経済学部教授)を行なった。今回の議題は、@円滑な不動産取引のために消費者にとってどのような情報が必要かA必要な情報をどのように把握・蓄積するか−−などで、大久保恭子(風 マンション評価ナビ代表)、長嶋修(さくら事務所社長)、林直清(全日本不動産協会副理事長)各委員がそれぞれの立場から意見を述べ、その他の各委員が質問・意見表明した。

 大久保委員は、中古物件見学時に構造の劣化や品質に関する情報が少なく、築20年以上の物件は割安感があるが古くて汚いがために成約に結びつかないケースが多いと報告。仲介会社や管理会社に問い合わせても、詳細情報が入手しづらいと述べ、情報のフォーマット化を進め、仲介、インスペクション、リフォームについてそれぞれのサービスがワンストップで提供される仕組みの確立を求めた。

 長嶋委員は、ホームインスペクションを求めるのは圧倒的に買主が多く、インスペクションを利用した多くの人が結果に満足していることや、日本ホームインスペクション協会がこれまで574人の公認資格者を認定したことなどを報告。ホームインスペクション制度の確立を訴えた。宅建主任者の全員取得や試験の改善、仲介手数料の上限の見直し、宅建業者と周辺のエスクロー機関、弁護士、ホームインスペクター、住宅ローンのモーゲージーブローカーなどの役割分担と取引の仕組み整備、持ち家偏重の住宅政策の転換の必要性などにも言及した。

 林委員は、現行の宅建業法35条(重要事項説明)及び47条(業務に関する禁止事項)について報告し、宅建主任者は原則全営業マンが取得すべきであり、不動産コンサルティングも含め「士(サムライ)」に格上げ≠キべきと同協会の主張を述べた。1件3〜4万円でできるインスペクション制度を確立すべきともした。

 以下、各委員の意見を紹介する。ほぼ発言順としたが、聞き取れない部分もあり、聞き間違いがあるかもしれないが、全ては記者の責任であることを了解していただきたい。

◇    ◆    ◇

. 清水英雄(清水英雄事務所代表取締役) 報酬では環境表示と共にエネルギー表示が行なわれており、分かりやすい。

 今泉太爾(日本エネルギーパス協会理事=代理中谷氏) リフォーム費用や日々の光熱費を分かりやすく表示すべき。

 渡辺和雄(不動産流通経営協会業務・流通委員) これまでの報告では買主側の視点で述べられているが、売主も消費者。売主の視点から考える必要もある。インスペクションが売主にとってどのようなメリットがあるのか。

. 臼杵克久(日本不動産鑑定協会常務理事) 現状は価格査定が不十分。専門家集団として他の業界と連携して公正・中立な第三者のセカンドオピニオンとして活用していただけるよう研究を進める。

 田島穣(不動産協会企画委員) 買主にとって情報が多いのは結構なことだが、売主や業者の責任を重くするのはどうか。基本的には自己責任の原則を崩すべきではない。

 服部毅(青山リアルティー・アドバイザーズ副社長) 長嶋委員の役割分担説に同感。宅建業者がコーディネーターとなり、それぞれのプロが役割を担うべき。国交省の取引価格情報は詳細な情報を盛り込んでほしい。

 青木宏之(全国中小建築工事業団体連合会会長) 若手を中心にインスペクションについて研究に真正面から取り組んでおり、ソフトの部分も含めて不動産流通に参入したい。

 中野谷昌司(マンション計画修繕施工協会事務局長) 劣化、修繕履歴は専門的な言葉が多く、膨大な量になるので分かりづらいが、基本的には建築確認で担保されているので建物の基本性能はほとんど問題ない。セカンドオピニオンとしてインスペクターと連携して不安を解消していきたい。

 籠橋正美(インテリックス取締役) インスペクションは売主、仲介会社、買主だけでなく、他のマンション居住者にも影響を及ぼす。その費用負担を誰が負担するかの問題もある。

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 今回のテーマは「消費者が必要な情報とは何か」がテーマだったので、建物の経年劣化、修繕履歴などの情報開示が少なく、インスペクション制度の確立を訴える意見が主流を占めた。

 それはそれで結構なことだが、記者はそればかりが強調されるのはいかがなものかと思う。買う側がもっとも必要なのは、田島氏が述べたように「自己責任の原則」だ。自分の将来を左右しかねない住宅取得に他人の意見を聞くのはいいが、委ねるようなことをしてはならない。最終的には自分の判断だ。安くない買いものだから、自分なりにしっかり勉強して選択を誤らないことだ。

 そのために何より必要なのは、自分のライフスタイルをきちんと見据え、優先事項を明確にすることだ。十全の物件など一つもないのだから、犠牲にしていいものは犠牲にすべきだ。

 建物が経年劣化するのは当たり前で、善し悪しはともかく、現行の重要事項説明は「現況有姿」が基本だ。電気、ガス、水道の有無を説明しなければならないが、それらの設備の劣化やシステムキッチン、トイレ、浴槽の耐用年数は説明しなくてもいいことになっている。劣化が心配なら、心ゆくまで自己負担で専門家に任せればいい。10や20の欠点は見つかるだろう。

 売主も、買主や仲介業者からインスペクションを求められたら堂々と受けるべきだし、管理組合として物件の価値を維持・向上させるために修繕履歴などの情報の開示は積極的に行なうべきだろう。

◇    ◆    ◇

 インスペクションを含め中古マンション情報の情報開示については、記者は、マンションのWikipediaともいうべき「住適空間」に期待している。これが普及すれば、かなり正確な情報が収集できる。服部委員が語ったように、国交省も消費者が売買の参考になる程度の具体の土地やマンションの取引情報も公開すべきだろう。

国交省 第1回「不動産流通市場活性化フォーラム」(10/21)

Wiki形式の「住適空間(ステキクウカン)」の可能性(5/24)

(牧田 司記者 2011年12月2日)