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 角をためて牛を殺す  今回の宅建業法による規制強化

 10月から始まったマンションなどの悪質な電話勧誘などを禁止する宅建業法による規制強化は、悪質業者を排除する効果はあるが、正当な営業活動の足かせにはならないかという懸念は現実のものになるという確信に変わった。いわゆる飛び込み≠ニいう営業活動に大きなブレーキをかけるのは間違いない。 角をためて牛を殺す、 悪貨は良貨を駆逐する事態にならないよう願うばかりだ。

 ある中堅デベロッパーの入社8年のベテラン営業マンにこんな話を聞いた。

 「入社早々です。当時は戸建て担当だったのですが、午後3時ごろでした。インタフォンに出られた方に『結構です』といわれました。今の規制ではもうこれ以上話すことは出来ませんが、そのとき私は『ちょっと待ってください。このチラシを配布し終えないと会社に戻れないのです。どうか受け取るだけで結構です。受け取ってください』と話し、受け取ってもらいました。

 その後のやり取りで『旦那は(午前)1時にならないと帰ってこない』ということになり、1時に伺い、一緒に食事もさせていただきました。私にもご主人と同じ料理が用意されていました。金曜日で、『それじゃ、明日、土曜日に現地を見てください』と勧めたのですが、『明日は用事がある』といわれ、『あなたの言うことにうそはないんでしょ』と仰られ、どうすればいいか会社の上司に連絡し、結局、現場を見ないで契約してもらいました」

 このような例はまれなケースだろうが、物件自体がしっかりしており、営業マンの誠実な態度が好感されたのだろう。この営業マンは2〜 3週間で3件の成約を獲得し、その後も飛び込み営業を積極的に行ない、トップセールスマンの一人になった。1日に1,000戸の団地を回り、飛び込み開始から終了までその団地を3周したこともあるという。3週間で靴は壊れるという。

◇    ◆    ◇

 大手デベロッパーはこのような飛び込み営業は行なっていないはずだ。効率が悪いと最初から考えており、そんなことをしなくても大量宣伝によって集客できる力もあるからだ。

 しかし、中小のデベロッパーはそういうわけにはいかない。大規模物件ならいざ知らず、中小が手がける物件はマンションだと数十戸、戸建てだと数戸という現場がほとんどだ。新聞折込やチラシ配布、電話営業でしか物件を売る手立てがない。飛び込み営業は最大の武器でもある。

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 記者も含めわれわれは悪徳業者の排除しか念頭になかった。毎日、毎日、朝から晩までユーザーの懐に飛び込んでいく真面目な営業マンのことを考えたならば、今回のような規制強化は実施できなかったのではないか。規則を変更しなくても、消費者に注意を喚起し行政指導を強化すれば十分対応できたはずだ。

 規制強化を話しあった社会資本整備審議会産業分科会不動産部会のメンバーには事前に「現場」の声を聞いてほしかった。記者は営業のことはよく分からないが、真夏に8キロ近いカバンを持ち顧客先をまわった営業マンに半日同行したことがある。記者はカメラと単行本など約1キロだった。2、3分歩くと汗が噴き出し、営業マンからは瞬く間に10数メートル引き離された。頭を下げるしかなかった。

 中小デベロッパーには今回の規制強化にひるまず堂々と営業活動を行なってほしい。劣悪で家賃が相対的に高い賃貸住宅市場を考えると、マイホーム取得は絶望的と考えているユーザーにはフェースツーフェースの説得営業しかないと思う。増加する苦情の数の数倍の人が幸福≠手に入れたのではないか。

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(牧田 司 記者 2011年10月4日)