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「礼金や更新料は運転資金」という全住協の主張

 社会資本整備審議会住宅宅地分科会民間賃貸住宅部会(部会長:浅見泰司東大空間情報科学研究センター教授)の第3回目の会合が5月12日、国交省内で開かれた。

 今回のテーマは「滞納・明け渡しを巡るトラブルについて」。家賃の集金などで家賃債務保証会社などが執拗な催促、物件への立ち入り、鍵の交換、動産の搬出・処分などが社会問題化している問題や家賃滞納、家賃回収の実態などが報告された。

 違法、不適切な行為については、家賃債務保証業に対する法的な規制の導入の是非、業者の許可制、登録制なども課題にのぼった。滞納が発生した場合の円滑な明渡しについてはガイドラインを設けるべきとの声も相次いだ。

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 テーマがテーマだっただけに、これまでの会合より報道陣の数は多かったが、論議は低調なものだった。悪質業者や悪質賃借人の問題のみが取り上げられ、賃貸住宅の本質的な問題は取り上げられなかった。

 いつの時代でもあくどい業者はいるものだし、悪質な賃借人もいる。悪徳業者を排除するため規制をかけるのも、悪質な賃借人を退去させるためのシステムも必要かもしれない。しかし、基本的には劣悪な賃貸住宅に根本があるのであって、賃貸住宅の病巣≠ェセンセーショナルな事例として表出しているに過ぎない。

 次回以降は民間賃貸住宅ストックの質の向上などが論議される予定なので、今後に期待したい。

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 低調な論議の中で、要点を絞って問題点を指摘したのが福井秀夫臨時委員(政策研究大学院大学教授)だった。(いつも鋭い指摘をされている櫻井敬子委員(学習院大学教授)は欠席されていた。

 福井氏は、問題点として@家賃取り立て・退去のやり方がどうかA立ち退き処理に時間と費用がかかりすぎ――という2点を指摘。家賃回収を大家や管理会社だけに任せるのではなく、公的機関がセーフティネットを整備すべき。病巣を取り除くことが大事だ。

 悪質な賃借人に対する家賃回収コストの上昇は、家賃上昇にもつながり、借家人の保護にも逆行し、良好な市場の縮小にもつながる。賃貸人、賃借人の情報を開示して、市場を大きなパイにしていく必要があるなどと語った。

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 記者が、今回の会合でもっとも注目したのは三好修・専門委員(全国賃貸住宅経営協会=全住協=副会長)が提出した資料の中で「敷金は預かり金であり保証金、礼金や更新料は大規模修繕及び原状回復のために必要な運転資金」としている点だ。

 文字通り解釈すれば、敷金を原状回復費用に当てるのは問題がありそうだし、「礼金」「更新料」という文言は、賃借人が納得するかどうかはともかく、「運転資金」とすべきだろう。

 「礼金や更新料は運転資金」という解釈が正しいとすれば、礼金も更新料も徴収しない賃貸人は運転資金をどうして確保するかという問題も発生するし、そもそも家賃とは何ぞやに突き当たる。

 記者は「家賃」こそが全てのコスト、つまり借入金返済利息、家賃滞納リスク、公租公課、修繕コスト、原状回復コストなどを計算して設定するものだと思っている。「礼金」「更新料」を「運転資金」に置き換えることができる賃貸住宅市場が続く限り、賃貸脱出⇒マンション購入につながる。マンション派の記者にとっては歓迎したいが、一方では悲しい。分譲市場と賃貸市場が競い合う環境こそが双方の市場を良好なものにするはずだからだ。

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(牧田 司 記者 5月12日)