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賃貸住宅の質向上こそトラブル防止の近道

 

 先日開かれた国土交通省の「社会資本整備審議会 住宅宅地分科会 民間賃貸住宅部会(第2回)」(部会長:浅見泰司東大空間情報科学研究センター教授)で、賃貸住宅の退去時の原状回復をめぐるトラブルを未然に防ぐためには原状回復確認リストを作成して、賃貸人にも賃借人にも分かりやすいシステムを構築すべきことなどが話し合われた。

 同感だ。契約時にどのような場合に原状回復費用が発生するのか具体的に明示しておけば、かなりのトラブルは防げるはずだ。トラブル発生の遠因になっている賃貸住宅情報の非対称性を解消することもトラブルの未然防止につながるだろう。

 しかし、もっとも必要なのは賃貸住宅の質の向上だ。 桜井敬子委員(学習院大学教授)が語ったように「 紛争の未然防止・原状回復が論議されているが、これらは当事者間で解決すべき問題で、ミニマムなもの。トラブルが起きないような慣行を作るべき。行政が関与しなければならないのは、健全な賃貸住宅市場が形成されるよう、優良なストックをどう形成するかということではないか」ということに尽きる。

 そもそも賃貸住宅をめぐるトラブルが後を絶たないのは、記者は賃貸住宅の質が低いからだと考える。賃借人からすれば「家賃に見合う価値(質)が確保されていないのに、どうして退去時に権利金が戻ってこないのか」「礼金や更新料なども払っているのに、まだ支払わなければならないのか」という声が上がるのは当然だろう。

 国交省の調査によれば、住宅の各要素ごとの不満率は持ち家と比べ全ての項目で10ポイントぐらい上回っている。例えば「収納スペース」では、持ち家の不満率は46.7%であるのに対し、賃貸は56.0%だ。「住宅の防犯性」は、持ち家が50.9%で、賃貸は60.9%だ。「高齢者などへの配慮(段差がないなど)」は持ち家が63.9%で、賃貸は73.3%、「遮音性」は、持ち家が41.1%で、賃貸は61.5%となっている。

 このように多くの不満を持ちながら、実際の賃貸住宅選択に当たっては住宅の質については軽視する傾向が強い。日本賃貸住宅管理協会の調査によれば、賃貸住宅選択にあたって重視するものは「家賃」(90.3%)「間取り」(78.0%)「立地」(59.9%)がベスト3で、「一時金の金額」(26.5%)「原状回復特約」(7.8%)「収納」(21.4%)「防犯」(14.2%)などはいずれも低い。「バリアフリー」は0.3%にしか過ぎない。

 どうしてこのような矛盾が生じるのか。答えは簡単だ。家賃(負担)を低く抑えるため全てを犠牲にしているからだ。質の高い賃貸を選ぶために家賃が高いほうを選ぶ賃借人は富裕層ぐらいだろう。家主にとっても、質の向上は二の次で、投資利回りを最優先して考えるということは言うまでもない。

 退去時にトラブルが発生するのは、いわば住宅不満に対する賃借人のしっぺ返しだ。「こんな劣悪な住宅に住んできたのだから、退去するときぐらい文句の一つ二つぐらい言ってやろう」ということだろう。

 さらに言えば、持ち家と賃貸に対する住宅政策の偏りの問題もある。どう考えても、わが国の住宅政策は持ち家偏重だ。老後も安心して住み続けられる賃貸住宅政策が取られない限り、借りるより買ったほうが得≠ニ消費者が考えるのは当然だろう。

 質の高い賃貸住宅を建設することが賃貸人の賃貸経営にとって有利であり、賃借人の住宅不満を解消する道であることを、賃貸住宅部会が導き出すことを期待したい。

(牧田 司 記者 4月2日)