「女もすなるネイルといふものを、男もしてみむとてするなり」-それこそ清水の舞台から飛び降りるような勇気を奮って、記者はオープンしたばかりの「RBAプラザ」に赴き、左手の小指1本にネイルを施してもらった。要した時間は約15分。料金は1,000円だった。
断っておくが、記者はすべてが貧弱にできており男らしくはないが、女装趣味など全くないし、自傷しなければならないほど心を病んでもいない。
ネイルは爪に傷をつけるわけではないのだろうが、せっかくお母さんからもらった美しい手にあれやこれやどぎつい色を塗りたくる女性の心理がまったく理解できない。独身ならまだしも、お母さんがそれをやったら赤ちゃんは卒倒するのではないか。
ましてや、男の記者が10本の指の爪すべてをネイルで覆い隠せば間違いなく変人とみなされる。電車に乗ったら避ける人もいるはずだ。
そんな勇気はない。金額の問題でもない。若い女性に手を握ってほしいという欲望などとっくの昔に捨てた。
それでもなぜ破廉恥極まりない勇猛を揮ってネイルを経験したのか。
それは、「RBAプラザ」のお客さんにはセルビアコーヒーが振る舞われるのでそれを飲みたかったのも理由の一つだが、最大の目的はセルビアの子どもたちに記者の心を伝えることだ。それ以上でもそれ以下でもない。
以心伝心。赤くなるほどの羞恥心を覚えチクリとした痛みを感じながら、小指ほどの想いをセルビアの子どもたちに届けたかったのだ。
店内には、プロのフラワーデザイナーの手による咲き掛けのサクラと小振りな赤いバラ10本、可憐な白のユキヤナギ、花言葉は「希望」のムギをあしらった生花が春を告げていた。
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ネイルをする技術者ネイリストは、記者が差し出した左手の小指の爪にヤスリやらセラミックプッシャーやらとげ抜きに似た甘皮ニッパーやらを用いて形を整え、そして透明なジェルを塗り、ライトを当てて乾かした。
ドキッとしたのは、ジェルを塗り重ねるときだった。真冬というのに恥ずかしさと持ち前の好奇心ですっかりのぼせ上った記者の左手を、ネイリストは団扇のように2度、3度、素手であおいだ。得もいえぬ冷風が心を鎮めてくれた。
ネイルが流行り出したのは6~7年前。最近は女性だけでなく、男性も営業マンや結婚式の前にする人が増えているという。ジェルは基本色だけで49色あるそうだ。アートにもよるが、女性の場合は、指1本1,000円くらいからだそうだ。
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セルビアをもっと知るため、セルビア出身の作家ダニロ・キシュ(1969-1994)の代表作「若き日の哀しみ」(東京創元社、訳・山崎佳代子氏)を図書館で借りて読みだした。間違いなく良書だ。読み終わったら読後感想文を紹介したい。