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先週の怒りの「管理ルール検討会」記事から一転

心が踊った「マンションの耐震化の促進に関するシンポジウム」


「マンションの耐震化の促進に関するシンポジウム」

 マンション長寿命化協議会(座長:齊藤広子氏)は2月20日、「マンションの耐震化の促進に関するシンポジウム」を開催した。同協議会は昨年6月、社団法人高層住宅管理業協会(理事長:黒住昌昭氏)が立ち上げたもので、同協会の「マンションに安心して長期に住まうための新たな仕組課題」という諮問に対して協議会が論議を重ねてきた結果を報告する形で開催したもの。協議会のメンバーすべて10人が出揃い、基調講演者とパネリストを務めた。参加者は約150人。

 シンポジウム後、齊藤座長は「マンションの耐震化の促進に関する緊急提言(案)」を黒住理事長に手渡した。黒住理事長も「東日本大震災1周年を待たずに提言を提出したいという協議会の意向を受けてシンポジウムを開催することにした」と挨拶した。

 来賓として出席した国土交通省不動産業課課長・野村正史氏は「マンションの建物と入居者の高齢化という二つの老いは待ったなし。官民が協力して取り組むべき課題。時宜を得たシンポジウム」と語った。


黒住理事長

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 先週の金曜日には、管理組合を無能力者呼ばわりされ怒りで心が震えて「マンションの新たな管理ルールに関する検討会」の記事を書いた。キーボードに言葉を叩きつけた結果、支離滅裂の記事となり、校正段階とはいえ20〜30カ所も名前の間違い、誤字脱字が見つかった。

 今回はその逆だ。感動で心が踊りこの記事を書いている。今回は冷静だからそんなに誤字脱字も出ないと思う。

 さて、今回のシンポジウムで一番収穫があったのが、明治学院大学法科大学院教授・戎正晴氏の基調講演・意見だった。

 他の講演者が受講生の高齢化に配慮したのか、大きな文字のパワーポイントを使い講演したのに対し、戎氏は阪神・淡路の被災マンションを数点紹介したのみで、受け持ちの15分間をほとんど法解釈の観点から講演した。ずいぶん横着な先生だとも思ったが、昔はこれが当たり前だった。学生に媚びることなどない。先生は、大学の講義でも同じだという。

 その戎氏が、ズバリと核心をついたのが区分所有法と自治会の活動の根本的な差についてだった。戎氏は、管理組合が地域共生の取り組みを強化していることに対して、「法の目的は財産管理が中心。例えば居住者の名簿を作成することは自治会の仕事だ。自治会の活動で共用施設を利用させる場合は、当然、お金を取って組合の財産にすべきだ。地域共生活動にお金を出すことは、目的外費用となることも考えられる。組合の限界もきちんと整理する必要がある」と述べた。また、「適正化法4条では管理組合の努力目標について書いてはいるが、中身は何もない。しっかり指針を出さないとだめ」とも語った。

 この通りだ。記者はこれまでも管理組合と自治会は車の両輪だとずっと書いてきた。ところが、区分所有法はコミュニティ形成などまったく想定していない。団地の餅つきや夏祭りの行事を組合が主催するところが多いはずだが、そこで餅ではなく手を搗いて怪我でもしたら、食中毒にかかったら損害賠償は求められないのだろうかと気がかりでならない。

 記者は自身のマンションの理事を担当したときは、それらの行事は法を逸脱しているという認識があった。いつもハラハラしていた。コミュニティ活動は嫌いではないが、組合主催は(責任が逃れられるわけではないが)いつも逃げていた。樹木剪定は組合の主たる活動だから、嬉々として参加している。木から落ちたって(保険には入っているが)自己責任だと思っている。言い過ぎかもしれないが、組合活動が盛り上がらないのは全て区分所有法に問題があるからだと思っている。

 戎氏は、この問題について、「自治会は総務省、マンション管理は国交省、区分所有法は法務省がそれぞれ管轄している。この問題を解消するため法の改正も必要」と述べた。

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 基調講演者でパネラーの一人、東京大学教授・浅見泰司氏が、基調講演で興味深い話をした。組合決議の「5分の4要件」について、例えば建て替え決議で「反対者1票の重みは賛成者4票の重みと同じ」「財産価値としても、(反対者は)4倍に評価している」とし、「反対者の500万円を守るために、賛成者の4億円を無駄にするようなもの」とまで述べた。

 その一方で、浅見氏はマンションの耐震性の重要性について述べたとき「(耐震診断を受けるべきと言う組合員が)少数でも(耐震性に)不安があるならば、耐震性を調べるべき」と語った。

 記者は、一方で反対者の票の重さを軽くし、他方では重くしろというのは法的に矛盾があるのではないかととっさに思った。そこで、浅見氏に聞いたら、浅見氏は「耐震性は人の生命にかかわること。建て替えは組合の財産にかかわること。重みが違うのは当然」と答えた。

 東大の先生のおっしゃることだからこれには納得したが、どうも釈然としないものもある。他の専門家はどう考えるのだろう。

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 パネルディスカッションでは座長を務めた明海大学不動産学部教授・齊藤広子氏とパネラーの弁護士・篠原みち子氏の女性二人が場を取り仕切った。パネリストは9人だ。時間は1時間。齊藤氏は司会だから話すのは長いとしても、この二人で30分は消費した。冒頭、齊藤氏が「マンション管理の母」と篠原氏を紹介し、すかさず篠原氏が「マンション管理の姉」と呼ぶよう訂正を求めた。これは、おそらく場を盛り上げようという二人の事前の作戦だったのだろうが、この丁々発止のやり取りで場は一気に盛り上がった。

 お二人については、マンション管理に携わっている関係者なら知らない人はいないはずだし、記者も齊藤氏が人の2倍も3倍も話す方だとは認識していた。篠原氏が「マンション管理のお姉さん」なら、齊藤氏はさしずめ「おしゃべり娘」の称号を与えていいかもしれない。隣に座っていた先輩記者は、見事な司会ぶりに「たいしたもんだ」と賛辞を送っていた。

 男性のパネリストは割を食った格好で、浅見氏、三井氏などはほんの2〜3分しか話さなかった。2人は基調講演で講演されたためだろうが、ここは姉さんや娘さんに花を持たせる戦略だと理解した。

 齊藤氏は「こんな数の多いパネルディスカッションは日本初ではないか」と自画自賛したが、確かに数が多くて(記者はこれぐらい多いのを取材しているが)、しかも内容が充実していたという意味では「日本初」かも知れない。「感動で心が躍った」というのは、この意味だ。

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 ここまで書いて時間は約1時間。他の講演者の話の内容やパネルディスカッションの模様を書きたいのだが、それは機会を改めるか、管理協がホームページで公開するだろうから、それに譲ろう。冒頭に書いた「マンションの新たな管理ルールに関する検討会」の記事もぜひ読んでいただきたい。記者はまだ怒りが収まらない。「全国の管理組合のみなさん!立ち上がろうではないか」といいたい。


パネルディスカッション

国交省 第2回「マンション管理ルールに関する検討会」(2/17)

「(仮称)マンション長寿命化協議会」設置 管理協(2011/2/23)  ※その後、メンバーは変更している

(牧田 司記者 2012年2月20日)