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 第15回木造耐力壁ジャパンカップ アキュラホームが優勝


「ポラス暮し科学研究所」の「BONE(ボーン)」(左)を破壊した「チーム匠(アキュラホーム+東京大学木質材料研究室+篠原商店)」の「紬」


「チーム匠(アキュラホーム+東京大学木質材料研究室+篠原商店)」のメンバー(前列中央が東大木質材料研究室・稲山正弘准教授)

 

 実物大の木造耐力壁を組み立て、耐震強度のほかデザイン性、加工・工費、環境負荷などを競う第15回木造耐力壁ジャパンカップが9月15日〜17日、静岡県冨士宮市の日本建築専門学校で全国から16チームが参加して行われ、「チーム匠(アキュラホーム+東京大学木質材料研究室+篠原商店)」の「紬〜 evolution 〜」が強さを争うトーナメントで2年ぶり4度目の優勝を飾った。チーム匠はデザイン賞、加工・施工部門賞も獲得。耐震性、デザイン性、材料・加工費、環境負荷費などを加味した総合優勝は「滋賀職業能力開発短期大学校(ポリテクカレッジ滋賀)」の「二代目ダイアゴナル」で、同チームは環境部門賞とW受賞。

 このほか、耐震部門賞は「東京大学木造建築コース+金子建築」の「濃桧の壁3 〜白糸の滝〜」、チーム匠に決勝戦で敗れた「ポラス暮し科学研究所」の「BONE (ボーン)」が審査員特別賞を受賞。

  
会場の壁に掲げられていた耐力壁のミニチュア                耐力壁に見入る参加者                   

◇    ◆    ◇

 試合は、土台に固定して並べた耐力壁の桁同士に油圧ジャッキを装着し、ジャッキを縮めて引き合わせるというもので、破壊された壁が敗者となる。お互いが破壊されない場合は、壁頂部の水平変位の合計が450ミリに達した時点で、変位の数値が大きいほうが負けとなる。

 このトーナメントで最後まで残った壁が勝者となるが、勝ち負け以外にも @耐震評点Aデザイン評点B材料費C加工費D施工費E環境負荷費などもこと細かに評価され、それぞれ部門賞、総合優勝が決められる。

 評価方法は細かく定められており、例えばベイマツは10万円/立方メートル、カシは20万円/立方メートルとなっている。環境負荷費も国産材・竹は50円/s、外国産材木は150円/sだ。解体に当たっても、作業する人の性別、年齢でポイントに差をつけたり、解体作業スペースから飛び出した材料にはペナルティとして環境負荷の算定重量に加算される。


戦いの状況を実況する稲山氏(右端)

◇    ◆    ◇

 20キロニュートン突破しました、左(BONE)は85ミリ、右(紬)は70ミリ。いい勝負です

 30キロニュートンです。(拍手) 左は116ミリ、右は103ミリ

 大会の進行役を務める東京大学木質材料研究室・稲山正弘准教授がプロジェクターに映し出されるデータと2つの耐力壁を交互に眺めながら、刻々と変化する状況を参加者にマイクで報告する。

 48キロニュートン、左は162ミリ、右は140ミリ。少し差が出てきました

 50キロ …   バン! あっ、左が破壊されました 右の勝ちです

 参加者が固唾を呑んで見つめる中、大きな破壊音を発しBONEの梁が破壊された。毎年のように決勝、準決勝で対決するチーム同士の対決はチーム匠に軍配があがった瞬間だ。チーム匠のメンバーは抱き合って喜びを爆発させた。ポラスのメンバーはうなだれた。

 もう何度も目にする光景だが、50キロニュートンの荷重は重さにして5,000キログラムを越える重さが加わっている状態というから、素人でも耐力壁の強さが分かる。参加者は「すごい技術」と感嘆の声を上げた。

 優勝したチームを代表して、アキュラホーム商品開発二課・岸勇樹氏は「相手には昨年、準決勝で僅差で敗れ悔しい思いをした。今回は絶対雪辱する気持ちで望んだ。匠の業を結集した。相手が金物を使っていないのは予想外だったが、セレブ(イペなどの外材)を使っている。うちは国産材のみ」と語った。解体時間も他チームを圧倒する2分45秒だった。

ポラス暮し科学研究所「BONE (ボーン)」(「紬」に決勝戦で敗れる)


中央が上廣氏

 「しんどい。初戦の ITAMADO (東大 +LIXIL+ キダテ)戦で相当痛めつけられた。金物を一切使わず、土台に『イペ』を採用したが、相手はオールカシ。うちは中産階級、相手は超セレブ。負けるときは『BONE(ボーン)』とやられるかもしれない」(同社上席研究員・上廣太氏)

 上廣氏が試合前にこう語ったが、結果はその通り、50キロニュートンの荷重あたりで「ボーン」という音とともに桁が破壊された。上廣氏は「散り際は素晴らしい」と自嘲気味に笑った。

   
見事に破壊されたポラスの桁(左)と紬のカシ材を使用した耐力壁(部材の隙間も重要な要素とか)

滋賀職業能力開発短期大学校(ポリテクカレッジ滋賀)「二代目ダイアゴナル」(「BONE」に準決勝で敗れ敗退)


右から2人目が山内氏

 「ここまでこれてよかった。学生のいい思い出づくりになった。滋賀の地松(地元産の松のことを地松と呼ぶ)を使った」(同大学校住居環境科専門課程職業能力開発指導員・山内元成氏)

 チームは耐震性、デザイン性、材料・加工費、環境負荷費などを加味した総合評価でもっとも高い評価を得て優勝した。

東北職業能力開発大学校「ポリテクのX」(「紬」に準決勝戦で敗退)


右端の谷口早紀子さんは解体作業にもかかわったが、某大学の男性よりも手際よく作業をこなした秋田美人

 土台にクリ材を採用し、カシ材を使用した「紬」に30キロニュートンを突破したあたりで、土台を破壊された。「ベスト4に進出できてよかった。くじ運に恵まれた。これまで10回ぐらい出場しており、総合優勝もしている」

 東京都市大学大橋研究室「LLサンド」(「BONE 」に準々決勝戦で敗れ敗退)


左から2人目が大橋教授

 「アイデアは学生が考えた。よく健闘した。昨年、ポラスに負けた耐力壁より今年のほうが性能は高い。うちは桧材だが、相手との材料(イペ)の差で負けた。まあ、材料はポラスさんからもらっているので … 」(大橋教授)

 昨年は、ポラスに惜敗して2位。雪辱を期したが、26キロニュートンで水平変位がポラス150ミリに対し330ミリに達し敗退した。大橋教授の声をポラス・上廣氏に伝えたら「材料のせいにした? 何でもいい。負け犬の遠吠え」と一蹴。

東京大学木造建築コース+金子建築「東濃桧の壁3 〜白糸の滝〜」(「紬」に準々決勝で敗れ敗退)


右から2人目が東大・山口氏

 「悔しい。打倒・稲山を目指しているが、打倒されてばっかり。相手がすべてカシの木を使用してきたのは想定外だった。材料はうち(金子建築)が3体分を納入した。相手は用意周到、2回試験を行って、一番いいところを本戦で使用したのではないか」(金子建設代表者)

 岐阜県の東濃地方の桧を採用し、ビス、ボルトなど約7キロの金物を使用して補強したが、金物を一切使用していない相手に51キロニュートンの荷重段階で破壊された。ヒノキそのものの重量は185キロだった。「紬」の総重量は320キロ。

秋田職業能力開発短期大学校「クロスファイヤー」(東北職業能力開発大学校「ポリテクのX」に準々決勝で敗れ敗退)


左端が杉村氏

 準々決勝戦は「東北対決」となったが、惜しくも敗退。「昨年は日建さんに勝ってベスト8。今回は土台などにはヒノキを多用したが、秋田はスギやヒバで有名なので、地元の材料をもっと使うことを考えたい」(同大学校・杉村直哉氏)

 早稲田大学新谷研究室「めり込み男子」(滋賀職業能力開発短期大学校「二代目ダイアゴナル」に準々決勝戦で敗れ敗退)


(左から清本莉七さん、田村純太朗さん、笹原和幸さん、今江諒さん。2年生の今江さん以外は大学院生)

 「最初に変形が進んで挽回できなかった。隙間があって力が上がらなかった。各部位を固定する精度が足りなかった。解体に時間( 18分)がかかったのは国産材と外材を分けなければならないのは想定外だったのと、大工仕事などはほとんどやったことがないため」(田村氏)

 解体時間はビスなど金物を約7キロも使用したため約20分費やした東京大学木造建築コース+金子建築「東濃桧の壁3 〜白糸の滝〜」に次いで8チームの中で2番目に多くかかった。   

◇    ◆    ◇

審査員などのコメント(順不同)

日本住宅・木材技術センター理事長 岸純夫氏 ここしばらく金物付きかそうでないかで決着が着いていた。今年は材料争いが起こった。いままでは「樫」の壁なんてなかった。今後「松」の壁が出てくるかもしれない。これから楽しみ


岸氏

河野泰治アトリエ(法大兼任講師・お茶水大非常勤講師・東大非常勤講師) 河野泰治氏 各チームのプレゼンテーション、とくにポラスの破壊の予言に興味を持っていた。みんな新しいことに果敢にチャレンジしている。金物のない方向に向かっている


河野氏

首都大学東京教授 深尾精一氏 今回2回目の審査員をした。4年前は貧弱なデザインの「流しソーメン」が印象的だった。こんなの絶対にもたないと思ったら、意に反して強かった。4年前と比べてデザインも全体的に向上していたが「流しソーメン」のように衝撃的なすごいものはなかった。壁を構成する柱の外側に部材が出っ張らないものがデザインとしては良いが、それらは軒並み予選敗退している。出っ張らない、または出っ張るのであれば出っ張った部分が格好良いものがあると良かった。今後に期待したい


深尾氏

日本住宅・木材技術センター理事(東京都市大学教授) 大橋好光氏 構造や性能レベルが上がったことを実感した。住宅の壁倍率は5倍までで10キロニュートンとも許容値で20キロニュートンとも言われている。耐力壁JCでは壁倍率5のさらに倍のレベルで戦っている。自動車業界で言えばF1グランプリのようなもの


大橋氏

東京大学准教授 稲山正弘氏 年々レベルが上がっている。金物を使った耐力壁は16体のうち4体にとどまったように金物を使わないで木の力を引き出している。実際に現場で使われるようになれば日本の木造住宅の耐震性は飛躍的にアップする。デザインもいい。インテリアとして見せる壁が普及してもいい


稲山氏

◇    ◆     ◇

 木造耐力壁ジャパンカップは、NPO木の建築フォラムが主催し、日本住宅・木材技術センターが後援して行われているもので今回が15回目だ。集まった16チームは初日の15日(土)に組み立てを行い、15日と16日にそれぞれ予選トーナメント8試合を行い、勝ちあがった8チームが17日のトーナメント戦に臨んだ。

 勝敗そのものは数分でけりがつくが、耐力壁の重さは200キロから300キロを越えるものもある。1体1体を日本建築専門学校の学生さんが油圧ジャッキに装填し、試合が終われば「壁が通ります」の掛け声を合図に解体ゾーンまでまた運ぶ。準々決勝戦が始まったのは午前9時半ごろだったが、決勝戦が終わったのは午後5時前だった。


重さ200〜300キロ台の耐力壁を運ぶ日本建築専門学校の学生さん

 記者が面白いと思ったのは、金物を約7キロも使った東大+金子建設チームがチーム匠に負けたことだが、両者の木材の重量は前者が185キロに対して後者は320キロ。やはりこの重量の差も響いたのではないかと思う。強度と体積・重量の関係はどうなるのだろう。

 もう一つは、今回は梁が破壊されて敗れたチームが目立ったことだ。ポラスはチーム匠に完璧に壊されたし、チーム匠も59キロニュートンあたりで梁が自壊した。土台だけでなく梁にも強度の高い材料を使っていたらどうなったのだろう。来年は、きっと梁を強化するはずだ。そうなればまた土台が壊れるのだろうか。

    
解体作業をするポラス大浦和香子さん(左)と東北職業能力開発大学校の谷口早紀子さん

耐力壁ジャパンカップ ポラスが4年ぶり6度目優勝(2011/10/11)

(牧田 司記者 2012年9月18日)