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RCS、木造の垣根を越えよう」

網野禎昭・法大教授 欧州の木造建築物を語る


網野教授(木造耐力壁ジャパンカップの会場となった日本建築専門学校で)

 先日行なわれた「第14回木造耐力壁ジャパンカップ」は既報の通りとても面白い取材ができたのだが、主催したNPO法人・木の建築フォラムはもう一つ大きなプレゼントを用意していた。審査委員の一人でもある法政大学デザイン工学部建築学科・網野禎昭教授の特別講義だった。関係者にとってはあるいはよく知られたことなのかもしれないが、記者のような素人には衝撃的で、とても新鮮な話で、日本の将来も捨てたもんじゃないという希望を与えてくれた講義だった。

 網野氏は、自ら「私は日本で 木造建築を ほとんど勉強したことがない。学生のときにスイス、オーストリアに渡り、ユリウス・ナッテラー教授に師事してきた」と語り、ここ10年ぐらいの間に変わってきた欧州の木造建築について約30分にわたって熱弁をふるった。全てを紹介できないが、いくつかを紹介する。

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 一つは、それぞれの街がエネルギー効率を考えたコンパクトな街になっていることだ。人口がわずか3,000人の小さな町では、木造の公共建築には役場の機能のほかレストラン、本屋、幼稚園、貸しオフィスなどが併設されており、「ここに来れば1日の用が済む」(網野氏)ようになっている。また、住民が製材ゴミなどを捨てる場所が設けられており、その廃材を燃やすことで地域のエネルギーとして供給しているところもあるという。網野教授は「それらは決して大げさなものではない。当たり前のようにバイオマス資源として利用している」と述べた。

 これに対して、わが国では技術者側から様々な提案は行なわれてはいるが、どういった建物がいいのか、ユーザー側から論議されていないと網野教授は指摘し、「日本の社会はこれから老いていく社会。経済も低迷している。このような構造を考えると、従来の拡大を前提とした木造振興を根本的に考え直さないといけない」と話した。

 網野教授はまた、自らもかかわった地方の人口わずか3,000人の町で「15億円かけて建設したドームが地域の活性化にほとんど役立っておらず、廃墟と化している」反省を踏まえ、「公共建築物の木造化が図られているが、1,000u以上など大きなもの にばかり焦点があたるのは疑問がある」と語った。網野教授は「本当の目的は何か。生活、コミュニティ、エネルギーなどの視点から考えないといけない」と力説した。

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 欧州では RC やSと木造を組み合わせたハイブリット構法が積極的に取り入れられているという網野教授の話にも興味をそそられた。ある5階建ての96室のリゾートホテルでは2階までがRCで、3〜5階が木造だという。しかも、街の工務店がユニットを自分たちの工場で作って、現場で組み立てていくのだという。床が木造で柱がRCや鉄骨という建物はたくさんあるという。網野教授は「これらは 決してハイテクだよりの建物ではない 。普通の大工 技術の延長でも非戸建木造が できる ということだ 。 また、RCだとかSだとか木造などといったカテゴリを考え直さないといけない」と話した。

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 網野教授が語ったように、わが国は「田舎が成立しなくなった。都市もたくさん問題を抱えている」。都市と農村の対立構造は高度成長期に激化し、ついに農村は破壊された。同じような現象は欧州だろうが北米だろうが世界中で起きているのだが、網野教授によると、「過疎の村でも環境づくりに成功し、そこに住みやすさを求めて都市から引っ越して来る人も多い」という。

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(牧田 司 記者 2011年10月19日)