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被災地の「高台移転・職住分離」は是か非か


左から涌井教授、前澤氏、荻原氏、瀧氏(虎ノ門:石垣記念ホールで)

示唆に富む 中越地震の復興で効果的な働きをした「三極構造」 

 日本緑化センター/花とみどりの復興支援ネットワークが主催した「第34回 都市環境緑化推進研究会」のパネルディスカッションで、被災地の「高台移転」も話題に上った。

 中心市街地が完全に破壊され、総人口の約9%にあたる2,068人(平成23年8月25日現在)の死亡・行方不明者を出した陸前高田市の復興支援のコンサルティングを行なっているプレック研究所専務取締役・前澤洋一氏は次のように語った。

 「瓦礫は片付きつつある。避難所はなくなり、仮設住宅に移り住んだ。そろそろ失業保険の切れるころに差し掛かる。当面は雇用の問題が課題となるが、働ける若い人は外に出て行った。残っているのは年金生活者や動きようのない事情を抱えた人たちだ。どうすればいいか、処方箋はない。高台移転のアンケートを取ったが、8割は高台移転を希望し、残り2割は現状のままを希望している。高台に街をつくるとしても膨大なお金がかかるし、同じような住宅を建てていいものかどうか。今まで通りをペーストしてもしょうがない。シュリンクな街にせざるを得ないのでは」

 パネラーの議論は深まることはなかった。

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 難しい問題だ。記者もどうすればいいか全く分からない。「高台移転・職住分離」は分からないわけではないが、その膨大なコスト負担は誰がするのか。農業・漁業従事者が農地や魚場と離れて暮らすことが果たしてできるのか。相手は自然だ。夜中に出漁するときもあれば、朝早く水の加減をしなければならないのが水田だ。9時〜6時のサラリーマンではない。毎日、標高20mも30mもする坂道や階段を上り下りする不便さに耐えられるのか。地震・津波は、みんなが耐震性が優れた自宅にいるときに襲うとは限らない … などなど難問が横たわる。

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 「高台移転」に関する記事をたくさん読んだ。どれも似たり寄ったりだ。前澤氏が言ったように、万人向きの処方箋はないということのようだ。それぞれの地域の実情・特性にあった解決策を見出すしかないのではないか。

 一つだけ、大いに参考になった記事があった。河北新報社の「特集/東日本大震災3カ月/先例地に学ぶ」ホームページ記事(6月12日付け)だ。

 同記事には、新潟県中越地震の復興で活躍した「生活支援相談員」の話が紹介されている。支援員は現在、被災地の5市で43人いるという。財源は、10年間にわたり年間60億円を活用している中越大震災基金が充てられているという。支援員の話として「中越で成功した仕組みだけを取り入れても、成功するとは限らない。大事なのは、支援する側が被災者と一緒に汗をかき、信頼を築くこと」などと紹介している。

 同記事には、山の暮らし再生機構(長岡市)の平井邦彦理事長の次のような話も紹介されている。

 「中越地震の復興では四つの大きな要素があった。コミュニティ、地域資源、支援員らの中間支援組織、震災復興基金という独自財源だ。

 四つが絡み合い、行政と被災者、中間支援組織という三極構造ができた。 … 中間支援組織という第三極があると、力関係が動く …

 支援員の役割は三つある。一つはビジネス的な視点の導入 … 二つ目は行政と民間の半々の仕事 … 三つ目は、福祉や高齢者ケアなど行政の仕事の肩代わりだ。

 支援員は住民の相談に乗りながら、集落の資源を見つけて磨き、都会との交流も図ってきた。その活動は閉鎖的だったコミュニティの質を変えることにもつながった」

 ついでながら、笑えるようで笑えない記事もあったので紹介する。大船渡市災害復興計画策定委員会委員の声だ。「被災土地活用の方針について、小学生などにアイデアを出してもらってはどうか」と。堂々巡りの委員会の苦悩がこの言葉に象徴されている。

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 我田引水かもしれないが、この支援員こそ、涌井教授が語った「木の名前と虫の名前と鳥の名前を覚えると、一歩、歩くごとに人生3倍楽しくなる」ことと一緒ではないか。虫の視点と鳥の視点が大事だということだ。

「緑の価値 復権を」東京都市大・涌井教授 緑化センター(10/18)

(牧田 司 記者 2011年10月18日)