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「緑の価値の再評価、復権を」東京都市大学・涌井史郎教授


涌井教授(虎ノ門:石垣記念ホールで)

日本緑化センターが「第34回 都市環境緑化推進研究会」

 日本緑化センター/花とみどりの復興支援ネットワークは10月17日、「第34回 都市環境緑化推進研究会」を開き、「震災復興における緑の役割と課題」と題する基調講演とパネルディスカッションを行なった。東京都市大学環境情報学部教授・涌井史郎氏が「震災復興における『緑』の役割と課題」について基調講演したほか、プレック研究所専務取締役・前澤洋一氏、日本緑化センター企画広報室長・瀧邦夫氏、結まちづくり計画室代表・荻原礼子氏がそれぞれ陸前高田市での復興支援の取り組みなどについて講演。引き続いて 4氏によるパネルディスカッションを行なった。約90名が参加した。

 冒頭、主催者を代表して挨拶した日本緑化センター専務理事・前田博氏は「震災のときは何をなすべきか、無力感にとらわれたが、春には花が咲きサクラも咲いた。息の長い支援になるが、日本のふるさとの原風景を取り戻す取り組みを行なう」と語った。

 来賓として挨拶した国土交通省大臣官房審議官・小林昭氏は、これまでの国や国交省の震災復興への取り組みを紹介したあと「津波防災まちづくり法を予定しているが、各自治体のイニシアティブのもと農水省や林野庁などとも連携してワンストップで予算執行できる制度を盛り込む」などと述べた。

 涌井教授は、今回の震災は「@地震A津波B原発C風評被害の4重苦を担わされた災難であり、地球資源は有限であるというパラダイムシフトを余儀なくされた。今後、日本が未来に向かってどのようなモデルを描くかが国際的にも関心が高まっている」とし、被災地ではイグネ∞エグネ≠ニ呼ばれる屋敷林の効果を最大化した三陸各地の防災林が果たした役割、先人がいなし≠フ手法で災害と向き合ってきた知恵などを紹介。

 さらに涌井教授は、自然との交流の中で生きる「地縁結合社会」とそれにより形成された「社会生態学的生産ランドスケープ」が「利益結合社会」によって直撃を受け、地域の公益的機能を評価すべきランドスケープの資産というべき農林水産空間は「農林水産業」という産業のカテゴリーに閉じ込められ、自然と睦みあう日本の伝統は破壊されたと自説を展開。「緑の価値をもう一度テクノロジーのフィルターを通して再評価、復権させ、日本の未来のランドスケープデザインを描かなければならない」と締めくくった。

◇    ◆    ◇

 涌井教授の講演を初めて聴いたのだが、涌井教授とは少なからぬ縁がある。もう20年以上も前だ。涌井教授が東急不動産グループの石勝エクステリアの社長をされているとき、「木の名前と虫の名前と鳥の名前を覚えると、一歩、歩くごとに人生3倍楽しくなる」と教わった。自然と親しむことの大切さと、虫の視点(現場主義)と鳥の視点(鳥瞰)を併せ持つことが大事だという意味だ。

 この言葉に感動し、その後、樹木や草木の図鑑を買って名前を覚え、団地のサークルに入って樹木剪定などを行なってきた。街を歩くときは街路樹の樹形を眺め、雑草にも目を配る。今年からは森林・林業についても取材するようになった。「緑の価値を再評価しなければならない」と力説された涌井教授の言葉はずしりと響いた。濃尾平野の三角州では灌漑のためと水害を防ぐため地球を10周もする水路・水門が設けられたという話には驚いた。

 自然に学ぶという点では、最近読んだ「身近な雑草の愉快な生きかた」(ちくま文庫他)「遺伝子が解く美人の身体」(文春文庫他)が面白い。涌井教授も話されたカタツムリとトイレの話も出てくるし、震災後のわれわれの生きかたに参考になる。濃尾平野の治水については、もう絶版だろうが杉本苑子「孤愁の岸」(講談社文庫)がお勧めだ。

被災地の「高台移転・職住分離」は是か非か(10/18)

(牧田 司 記者 2011年10月18日)