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  台湾の義援金に謝意を込めて

前人未到の挑戦 沖縄から台湾へ150キロのリレー遠泳


石井健太氏

メンバーの一人にサンフロンティア不動産の石井健太氏(30)

 東日本大震災での台湾からの200億円を超える多額の義援金に謝意を示すために、震災で被災した東北地方からのメッセージを携え、沖縄県与那国島から台湾・蘇澳 (すおう ) まで約 150 キロを6名のスイマーが遠泳で渡るという前代未聞、前人未到のチャレンジを行う。名づけて「日台黒潮泳断チャレンジ 2011」。応援団の代表には王貞治氏も名を連ねる。

 ルートの間には時速5キロの黒潮が流れ、水深 6000 メートルから1000メートルぐらいまで急激に浅くなる海域があり、海上が盛り上がっているところもあるという。サメの大群も待ち構える。これら様々な難問、リスクに対して万全の対策を施しスイマーは9月17日早朝に出発、48時間後の19日に台湾にたどり着く予定だ。

 スイマーの一人にはサンフロンティア不動産リーシングマネジメント事業部主任の石井健太氏(30)がいる。石井氏は先の「佐渡国際トライアスロン大会」に出場、順位は750名の中で259位だったが、最初の「スイム」(約2キロ ) を29分36秒で泳ぎきり、プロも含む2位以下を50メートル以上引き離す断トツの1位で通過した鉄人スイマーだ。茅ヶ崎から熱海までの52キロを15時間で泳いだ実績があり、かつてはバタフライのオリンピック候補選手にも選ばれたこともある。

 「泳断」を1週間後に控えた9月9日、心境、佐渡トライアスロンの感想、本業の話などを聞いた。

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 作家の吉村昭は、江戸後期に土佐沖で遭難し、黒潮の流れに乗り数百キロ離れた鳥島に流れ着き、12年間にわたるサバイバル生活から生還した漁民の苦闘を小説「漂流」で描いている。黒潮の流れに乗ればいいのだから、今回も台湾から沖縄へ泳ぐのは可能かもしれない。黒潮に逆らって南下するのは至難の業というのは素人でも分かる。

 さすがに実行委員会も潮流に逆らうのは難しいと判断したようで、実際のルートは与那国島から南下し、それから黒潮の流れに乗り、進路を北北西に取り渡りきり、それからまた南下して台湾に渡るようだ。石井氏も何度も「大丈夫」を繰り返した。

 「事前調査で分かったのは、150キロの倍ぐらいあるイメージ。黒潮の流れは明らかに色が異なり、川が流れているようでした。時速は歩く速度と同じ5キロぐらい。その黒潮の幅が60〜70キロ続く。この激流をどう乗り切るかですが、今回のルートなら大丈夫。また、水深が6000 メートルから1000 メートルぐらいに一挙に浅くなるところがあります。海面が盛り上がっている。この大きなうねりを克服しなければならない。しかし、これも大丈夫」

 「イルカの歓迎もありそうですが、サメの大群がいることも分かりました。対策は幅 2 メートル長さ 25 メートルの垂れ幕。いろいろなメッセージを垂れ幕に書き、船から網に流す。スイマーはその垂れ幕にそって泳ぐ。つまり、自分より大きいものを襲わないというサメの習性を利用するものです。電子サメ避け装置シャークシールドも用意するから、大丈夫」

 「台湾の海岸には100人ぐらいのスイマーが出迎えてくれます。地元の自治体やテレビも応援してくれる。私は茅ヶ崎から熱海まで 52 キロを 15 時間で泳いだ実績もあるので大丈夫。みんなと力を合わせてどんなことがあっても泳ぎきって見せます」

 石井氏は時速約3.5キロで52キロを泳いだ。歩く早さとそれほと変わらない。しかし、内海と外海とでは並みの高さも潮の流れも全然異なるはずだ。成功を祈るのみだ。

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 石井氏は、鉄人レース≠ニして呼ばれるトライアスロンにも今年挑戦した。トライアスロンは水泳(スイム)・自転車ロードレース(バイク)・長距離走(ラン)の順に休まずこなし、そのタイムを競う耐久競技だ。大会によって距離は様々だが、石井氏が挑戦したのは「ロング・ディスタンス(長距離)」のレース。距離はスイム3.8km ・バイク 180km ・ラン42.195km (フルマラソン)。石井氏が挑戦したのは国内の 4 大会の一つの「佐渡国際トライアスロン大会」だ。同社の堀口智顕社長が佐渡出身で、同大会のスポンサーにもなっていることから、社員に参加を呼びかけ、手を上げた二人のうちの一人だ。今年は台風12号の影響が現れ始めた9月4日に開催された。

 「スイムは当初3.8キロ予定されていたのですが、台風の影響で2キロに短縮された。僕にとってはアドバンテージのはずがそれだけハンディとなった。それでも泳ぎきったときは後姿はだれも見えなかった。50メートルは離れていたとあとで聞きました」

 「一番で陸に上がったときは、えっ、俺が一番って感じです。感激は半端じゃありませんでした。ものすごい声援をもらって、社長や部長などの『健太、頑張れ』の声援もしっかり聞こえました。自転車は15分ぐらいトップ。時速 30キロが半減するぐらいの突風が吹いたりきつい上り坂もありましたが、気持ちのいいもんですよ、トップは。しかし、その後、ビューと追い抜かれる。4〜5人ぐらい追い抜かれました。そして1時間ぐらいしてからですかね、団体が塊が追い抜いていくんです。女性に抜かれたときはショックでしたね」

 スイムで断トツの1位で泳ぎきった石井氏はバイク(自転車)で6時間58分25秒となり227位に後退した。3人の女性にも抜かれている。最後の初体験となるフルマラソン(42キロ)ではさらに順位を下げ、結局、記録は完走した700人の中で259位の12時間 42分6秒となった。ランで10人の女性に抜かれた。ランだけでは5時間以上かかり、参加者中392番目だったのが「誤算」だった。

 「フルマラソンは初めてでしたが、3時間50分ぐらいの予定でしたので、これが誤算。途中で抜いた人はリタイアした人など2人だけ。自転車から抜かれっぱなしのレース。女性に抜かれると心に傷がつきますよ。しかし、僕にはまだ伸びしろがある」

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 天国と地獄、歓喜と絶望、勝者と弱者、苦と楽、光と闇 … 人は双方を経験することを強いられたら、どちらを先にどちらを後に選ぶだろうか。ほとんどの人は前者を後に選ぶだろう。石井氏は鉄人スイマーであるがゆえに前者を先に選んでしまった。まさに天国から地獄へ、歓喜から絶望の淵へ叩き落される。それでも石井氏はへこたれない。石井氏も語ったように、ランであと1時間短縮できれば、女性トップ(全体36位)の10時間59分59秒にはかなわないかもしれないが、ベスト100位には入りそうだ。

 石井氏の肩を持つわけでもないが、トライアスロンは走破タイムだけではなく、順位を得点に換算して争うことは出来ないのだろうか。各部門の成績上位者にはアドバンテージを与えてもいいのではないか。

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 本業では、賃貸仲介が担当。トライアスロンに挑戦することが決まってからのほうが成績が上がってきた。「トップテンのうち 5 番目ぐらい」という。同業の営業マンには「(サッカー選手の)長友佑都の『日本男児』がお薦め。考えなくていいのがぴったり」という。福岡県出身。独身。「女性は海が好きな人がいい」そうだ。

※「日台黒潮泳断チャレンジ 2011」実行委員会は、プロジェクトに必要な資金約960万円を集めるため9月16日を期限に1口3000円の出資を呼びかけている。詳細はHP http://strongheart.jp/nittai-sc/へ

謝謝台湾!日台黒潮泳断チャレンジ2011実行委が会見(9/13)

(牧田 司 記者 2011年9月12日)