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旭化成ホームズ「くらしノベーションフォーラム」

建売住宅の間取りの変遷、夫婦別寝がテーマ

  
左から鈴木氏、切原氏、入澤氏

 旭化成ホームズ「くらしノベーション研究所」は9月1日、住宅分野をフィールドにしている報道陣向けに「暮らし」や「環境」などをテーマにした専門家の講演を中心とする「くらしノベーションフォーラム」5回目を行った。

 今回の講師は、日本の家族と間取りの関係性やその変遷を社会的・文化的考察を踏まえて研究している大分大学工学部福祉環境工学科建築環境計画准教授 ・鈴木義弘氏と千葉大学大学院工学研究科都市環境システムコース特別研究員・切原舞子氏。鈴木氏は近代日本住宅の間取りの変容を概括し、5,000件〜10,000件に上る最近の建売住宅の間取り構成を分析。2000年代に入って「続き間座敷」など「座敷」がほとんどなくなり、LDに隣接した和室のみのタイプに画一化されている一方で、続き間和室を選好する人が多いなど供給と選好の乖離が見られることを論じた。また、「子どもを監視する機能」が重視されている「居間階段」については空調効率が悪く、不満も多いことを紹介した。

 切原氏は、ここ10年間の自らの研究成果を紹介。1990年以降に分譲された戸建て住宅団地31団地から710棟をサンプリングし、ライフステージごとの家族の就寝形態を分析。夫婦別寝は、主に妻の側から「安眠したい」「イビキがうるさい」「仕事で生活時間が不規則」「配偶者に気兼ねなく読書・ TV を楽しみたい」などの理由による別寝希望が多いことを報告した。また、「2015年までに全米の 60 %の人が夫婦別寝になるだろう」と語った全米不動産協会の関係者の新聞記事も紹介した。

 二人の講話のあと、旭化成ホームズ「くらしノベーション研究所」共働き家族研究所所長・入澤敦子氏が、同社のへーベルハウス居住者アンケート調査結果と訪問調査の結果を報告。主寝室のWベッドに親子3人が就寝したときから始まって、洋室に布団を敷いて川の字就寝 ⇒主寝室に母子がベッド、夫は布団の川の字就寝 ⇒洋室に兄弟2段ベッド就寝、主寝室に夫婦がベッド就寝したことなど住まい方の変遷を紹介した。

◇    ◆    ◇

 二人の先生の講話を興味深く聞いた。鈴木先生は1980年、2000年、2008年にそれぞれ5,000〜10,000件近くの新聞折込広告を集め、間取りを分析したという話には驚いた。

 記者も間取りはマンションも建売住宅もかなり見るほうだが、ここ数年はあまり見なくなった。昭和50年代、60年代のデベロッパーは間取りの商品企画に熱心だった。ところが最近は、特に建売住宅にその傾向が強いのだが、鈴木先生も指摘されたように画一化が進んでいる。建売住宅は土地が30坪で建物も27〜30坪というのが圧倒的だ。これでは間取りの工夫どころではない。どれも大差がなく、見るのもばかばかしくなってきた。

 居間階段の是非も興味をそそられた。居間階段は「家族の絆」のためにいいとデベロッパー側から仕掛けられたと思っているが、記者は居住環境や間取り環境が子どもの人格形成にどれほどの影響を及ぼすのかよく分からないし、そもそも子どもが一人で部屋で過ごせるような広さと機能を備えた居室を与えることに問題があると考えている。劣悪な環境でも立派に育つ子どもはいっぱいいる。居間階段に過大な期待は持たないほうがいい。

 切原先生の夫婦別寝の講話も、入澤氏の報告も面白かった。夫婦別寝(別室)がブームになった10年以上前に建売住宅を見学したこともあり、最近では三井不動産レジデンシャルの提案住宅も見学したし、街の人にも意見を聞いた。

 夫婦別室は60歳を越えると増えるというが、その通りだろう。主に妻の側からの希望というのもよく分かる。自らもイビキをかいているのに、イビキをかくのは夫だけと思い込んでいる女性が圧倒的に多いのだろう。男性はやさしい(負い目もあるが)から妻に対して面と向かって別室を要求しないのだと思う。

 しかし、夫も妻も自らの空間は必要で、夫婦別室、夫婦別寝は間違いなく増えるだろう。その前に、夫婦の寝室をただの寝室ではなくコミュニティを図る空間にすべきだとも思うが … 。何度も書くが、夫婦の部屋と子ども部屋の大きさがたいして変わらないのは全く理解できない。

不思議な空間 三井レジ「三井住空間デザイン賞受賞住戸」(2011/2/9)

(牧田 司 記者 2011年9月2日)