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「キラーパルス」の違いはどうして起きるのか

 業界紙「住宅新報」5月17日号に「東日本大震災・衝撃連載 @」として、住宅ジャーナリスト・細野透氏が寄稿された評論記事を興味深く読んだ。見出しに「『マンションが地震に強かった』は誤解」とあったから確かに「衝撃」も受けた。とりたててこの記事を批判することもないとも思ったが、記者は何度も「マンションは地震に強かった」と書いてきた。人の生命にかかわる問題だし、書かざるを得ない。「やはりマンションは地震に強い」と。

 細野氏は、今回の震災でマンションなどの倒壊がなかったのは、「キラーパルス」と呼ばれる地震波の周期波が 1 〜2秒だった阪神大震災の2〜5割の短周期(0.5〜1秒)であるからとし、周期波が大きくなると、建物に被害が大きくなるという。

 細野氏の論説は、京都大学教授・川瀬博氏らの研究に基づいて書かれており、「川瀬教授の研究でも、今回の地震波は短周期(0.5〜1秒)型であり、周期1〜2秒のキラーパルスが少なかったがゆえ、新耐震基準の鉄筋コンクリート造は大破0になることが確認済みだったのである」とし、「阪神大震災クラスのキラーパルスに備えるために、マンションの耐震性をさらに向上させておきたいと思う」と結んでいる。

 記者が注目したのはこの「キラーパルス」だ。被害の大小を決定づける「キラーパルス」の大小はなぜ起きるのかの原因については、細野氏の文章では「不思議な性質」「地震動の性質」としか書かれていない。

 おそらく、震源地が近いのか遠いのか、浅いのか深いのか、あるいは地盤によるのだろうと推測される。ネットで調べてもどうして地震波が異なるかについては書かれていない。やはり「不思議な性質」のようだ。

 しかし、地震が起きたあとで、キラーパルスが大きかった、あるいは小さかったと言ってみたところで何の役に立つのか。地震が起きてみなければ分からないというのであれば、備えようがない。地震大国のわが国の地震研究とはその程度のものなのだろうか。専門家には「キラーパルス」の大小がなぜ起きるのか是非とも解明していただきたい。

 ただ、「震度」は必ずしも被害の大きさと一致しないという現行の地震観測のあり方の再検討には大賛成だ。新浦安の「震度5強」は、市役所の近くの「猫実」で観測所で観測されたものだが、そのエリアは液状化がまったくなかった「元町」とはなはだしく液状化が起きた「新町」「中町」の狭間だった。同じ「震度5強」を観測した千葉市美浜区の観測所は埋立地の「真砂第一中学」だが、公共施設なので液状化対策が施されていたのではないかとも思った。

◇      ◆      ◇

 問題はまだある。コストの問題だ。

 記者は、阪神大震災で新耐震によって建設されたマンション3,080件のうち「大破」が0.3%に当たる10棟だったのは、やはり「マンションは地震に強い」ことが証明されたと思うし、今回の東日本大震災で高層住宅管理業協会が調査した1,642棟のうち「大破」がゼロだったのも同様だ。

 にもかかわらず、「耐震性をさらに向上させておきたい」という識者の考えは理解できない。耐震性を高めるのは当然のことだが、マンションの耐震性をさらに強化し公共施設並にするとすればどれぐらいのコストが掛かるのか。

 これまでも記者は、デベロッパーなどに「耐震性強化にどれぐらいのコストが掛かるか」という質問をしてきた。答えは「1〜2割アップ」だ。つまり、建築費が100万円なら110万円〜120万円ということだ。真偽のほどは分からないが、おそらくその通りだろうと思う。

 そのことを裏付ける公文書もある。液状化が問題になった浦安市の「新庁舎建設基本計画」によると、約24,000uの庁舎建設にかかる本体工事費は約92億円で、液状化対策の8億円を含む耐震工事費として約21億円を想定している。つまり、本体価格の20%近い費用が耐震化工事に掛かるとしている。液状化対策が必要でないエリアはその分だけ費用は掛からないが、やはり相当額が必要だ。

 仮に、現行の新耐震基準が「地震に強くない」とし、周期1〜2秒のキラーパルスにも耐えられる強固な建物にするとすれば、建築費は軒並み10〜20%引き上げなければならないことになる。一般的なマンションだと300〜600万円ぐらいアップすることになる。当然、その費用はユーザーが支払うことになる。そこまで費用を掛けていいのかどうか記者は分からない。

やはりマンションは地震に強かった 管理協の調査証明(4/21)

(牧田 司 記者 2011年5月20日)