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「地目」「地歴」「地質」の大切さ実感 液状化取材を終えて


「生(鮮魚)街道」(左が被害か多かったエリア。右はほとんど被害を受けなかったエリア)


明暗を分けた「生(鮮魚)街道」

 我孫子市でも浦安市や千葉市美浜区同様、建物の損壊による人的被害は皆無だった。それでも気の毒な例があった。建物が傾いたため後片付けにきていた40歳代と思える女性は「母屋には85歳の母が住んでいたんですが、ショックで心筋梗塞を起こしたので入院させました。となりの離れには兄が住んでいたんですが、昨年亡くなり、いまは空家です」

 築50年近いと思われる平屋の母屋は右に傾いていた。左隣の2階建ては築20年ぐらいだろうか、建物はしっかりしているように見えたが、目視でもはっきりわかるほど左に傾いていた。

  

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 前回、「旧街道」の東か西かで明暗を分けたと書いた。同市都の一角に国道356と交差する細い道がある。そこには「史跡」を表す看板と小さなお堂が建っている。「史跡」看板には「生(鮮魚)街道」とあり、「江戸時代、銚子や鹿島灘などで水揚げされた鮮魚は江戸日本橋の魚市に送られていました。…銚子から木下(きおろし)、布佐の河岸に送られ、そこで馬に積み替えられて陸路、木下からは行徳へ(行徳みち)、布佐からは松戸へ(松戸みち)送られ…布佐のこの付近は松戸みちの出発点でした」(我孫子市教育委員会)と説明されていた。

 近くに住む男性( 72 )は、「この道が『旧街道』(生街道)。私がここに住むようになったのは2歳のときから。小さい頃のことはよく覚えている。利根川の堤防に登ると街道の東側には『小沼』『大沼』が広がり300m以上が見渡せた。沼ではフナ、コイ、エビ、ナマズ、ウナギなどか面白いように捕れた。生業にしていた人もいた。泳ぎもした。利根川がたびたび氾濫し、一帯が胸まで浸かる被害を受けたことから川の拡張工事が行われ、沼を埋めた。ここが埋立地であることは、私らより歳上の人はみんな知っている。私の家は街道の西側にあり、家はちょっと傾いただけ。保険がおりるかどうか…」と話した。

 つまり、旧街道より東側に位置する都、布佐2丁目、3丁目は「小沼」「大沼」と呼ばれた沼地だった。そこに利根川の砂を埋め宅地にした。昭和27年頃だといわれている。

    

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 しかし、被害を受けた一帯がかつて沼地だったのを知っている人はいても、ここまで大きな被害を受けるとは夢にも思わなかったようだ。

 元「国鉄マン」の男性(82)は、やり場のない怒りをぶちまけた。「もちろん、昔のことはよく覚えている。昭和45年から住んでいる。平場(平地)に住むのが夢だった。この家は3度目の建て替えで築20年。基礎もしっかりしており、瓦一枚飛んでいないのはうちだけ。それでも塀、庭などは大きな被害を受けた。もうガタガタ。ひどいもんだ。私が生まれ、育ったのは川(利根川)向こうの利根町の(いまはない)文村。今度の地震で、みんな高台がいいって言うが、山の上で暮らすのがどんなに辛いか。電気も水道もなかった。女はみんな麓まで400m、500m降りて水汲みをした。みんな泣き泣き生活していた。平場(平地)に住むのが夢だった。酒もタバコもやらずに、苦労して建てた家がこんなことになるなんて。もうどうにもならない。建て替えるかどうか…考えたくない」 

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 ここで浮かび上がるのが、「地目(ちもく)」「地歴(ちれき)」「地質(ちしつ)」の問題だ。その土地がどのように利用されており、かつては何の用途だったか、どのような地盤であるかだ。地元の不動産会社に聞いた。男性社員(64)は、「じれき? 知らない。昔は沼だったということは聞いてはいるが…地目? ここら一帯はみんな『農地』(「農地」という地目はない)だが、地目変更している」

 この会社のように、不動産業界はこれらの問題に詳しいとは言い難い。「地質」を専門とする業界団体として「社団法人全国地質調査業協会連合会」(全地連)があるる。

 全地連のホームページには「面積38万 kuの国土を持つ日本。しかし、そのほとんどが山地などであり、1億 2000万人の人々が安心して住める場所はわずかしかない。災害と隣り合せの開発が進む。
 日本列島の地形は、…豪雨や地震など自然の影響により変化しており、その過程において数々の自然災害が発生している。また地形変化は、人口増加や都市化にともなって、人為的な丘陵・台地の斜面造成、さらには低地の発展とともに、その延長上にある海岸の埋め立て造成へと拡大してきた。わが国では狭い国土の有効利用として、水害や土砂災害などに対してリスクの高いところに、あえて開発が進んでいる」とある。

 また、「東日本大震災」についても、全地連の関連機関であるNPO地質情報整備・活用機構が地震に関する学術研究サイトの所在をリンクする情報サイトを立ち上げている。興味のある方は読まれるといい。URLは以下のとおり。

http://www.web-gis.jp/GeoData/taiheiyouokijishin2011.html


都地区に設置されていた災害用トイレ(地面から便器まで高さは約50cm。高齢者は上がるのに苦労するだろうと思った)

旭市に次ぐ住宅被害 千葉県我孫子の液状化「全壊」118棟(4/5)

(牧田 司 記者 2011年4月5日)