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旭市に次ぐ住宅被害 我孫子市の液状化で118棟全壊

〜現地ルポ〜


「全壊」の被害を受けた「村田酒店」


「チャングムのように生きたい」 店が「全壊した」村田増子さん(66)

 千葉県は4月4日、東北地方太平洋沖地震の被災状況をまとめ発表した。住宅被害は「全壊」が旭市の335棟、我孫子市の118棟、浦安市の8棟、千葉市の20棟など650棟で、「半壊」は浦安市の470棟、旭市の335棟、千葉市の 335棟など1,547棟となっている。

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 記者は4日、旭市に次いで「全壊」が多い我孫子市を取材した。旭市の被害は明らかに津波によるものだが、我孫子市は浦安市や千葉市と同様、「液状化」によるものだった。我孫子市では「一部損壊」が101棟あるが、「半壊」は報告されていない。我孫子市の震度は「5弱」だった。

 被災したのは、JR成田線布佐駅から徒歩10分ぐらいの我孫子市布佐2丁目、3丁目、都(みやこ)の一角のごく限られたエリアだ。駅から現地までの布佐1丁目界隈はほとんど被害を受けていない。ところが、「旧街道」(この旧街道の西か東かが明暗を分けた。記事は続きで)と呼ばれるあたりに着くと様相が一変した。布佐3丁目に住んでいる中学1年生に聞いた。「(指差して)あそことあそこに信号機があったけど、倒れたのでなくなっちゃった。液状化? 僕は知らないけど、家も少し傾いた」

 信号機が倒れたという四叉路には今は営業していないような店舗があったが、その店舗の看板が倒れたとかで、後片付けがされていた。太いコンクリート柱の鉄筋がねじ曲がっていた。このあたりから国道356に向って北上すると、浦安市や千葉市美浜区と同様の惨状が広がっていた。

  
看板がなぎ倒された跡                 明らかに傾いたアパート

 震災後20日以上経過しているため、道路はかなり復旧されているのだろうが、目視では商店、家屋、2階建てアパートなどが軒並み傾いていた。倒壊しているものはないが、電柱が傾き、家屋が右に左に傾いている様を見ると、何が真っ直ぐで何が傾いているのか判断ができなくなる。

 明らかに傾いている2階建てプレハブ造のアパート入居者に話を聞こうと全4 帯のインタホンを押したが、人の気配は全くなかった。傾斜を確認するものは持っていなかったが、万年筆のスペアインクがころころと転がった。

 道路はもちろんだが、建造物は間違いなく30〜50pぐらいは隆起、または沈下していた。地元では知らない人はいないのだろう。建築費だけで8,000万円と噂されているお城のような純和風の豪邸もそうだ。インタホン越しに聞いた。「家は何ともなかったんですが、塀が少し壊れました」 確かに立派な塀は約10mで30pぐらい隆起・沈下していた。瓦屋根の棟にはブルーシートが掛けられていた。

  
左端の地面とコンクリートの塀                  左端から約10mのコンクリートの塀

 もっとも大きな被害を受けていると思われたのは「村田酒店」だった。道路に面した入口は50pぐらい沈下しており、沈下した分だけ泥水の後がついていた。玄関には土嚢が積み上げられていた。「後ろの倉庫で営業しています」とあったので、店主のご主人・村田博さん(66)とともに店を切り盛りしている増子さん(66)に話を聞いた。

 「奥の事務室から揺られながら外を見ていましたら、店の中央がふぁっと浮いたように見えたんです。あとで分かったんですが、浮いたんじゃなく、周りがみんな沈んじゃったんです。錯覚ですよね。お蔭でほら、土俵のようになっちゃったでしょ(中央の土俵のような床から天井までは約2m)。あとは瞬く間に水浸しになっちゃった。しかし、割れたのはヒール壜2本とワイン1本だけ。冷蔵ケースもなんともなかった」と当時の模様を語った。


「村田酒店」の店内(左側が沈み、右側の床から天井までは約2mになっていた)

 「店を構えたのは37年ぐらい前。もともと沼だったのは聞いていました。こんな経験して、自然を恐れなきゃとつくづく思いました。それでも、『前向きにゆるぎない心で突き進む』ことが大事だと思いました。これは私が考えたんじゃなく、『チャングム』の番組からぱくったんですが…チャングム、知ってるでしょ。しゃべったのはチャングムじゃなく、チャングムの恋人役。あれほど苦労したチャングムだって前向きに生きたんだから、これぐらいの被害で沈んじゃいけない。みんなを元気づけられるようにしたいんです。これまで4度、取材を受けています。『震災タレント』と呼ばれています。主人は『お前、その歳して…』とあきれ返っています」

  
被害を受けた住宅(新浦安や千葉市美浜区と異なり、住宅は古くて瓦葺が多いのが特徴)

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 村田増子さんは、とても甚大な被害を受けた人には見えなかった。店は大きな被害を受け、家屋も「全壊」した。幸い無事だった倉庫で営業を続けていた。買い物に来る人たちとは愛想よく振舞っていた。記者は、何も買わないのは失礼だと思い『キリンプレミアム』を買って飲んだ。240円だが、250円出して10円をカンパした。

(続く)


店舗の隣の倉庫で営業を続ける村田酒店の村田増子さん

(牧田 司 記者 2011年4月5日)