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「砂上の楼閣都市」新浦安

それでも住宅はしっかり建っていた

  
自転車が埋まった住宅(今川地区)


  昨日と今日の新浦安の取材を終えて、「砂上の楼閣都市」の見出しを付けようかと思った。福島原発で深刻な事態にある東電の電気だけは供給されているのは皮肉だが、道路もガスも上下水道もズタズタに寸断され、 1 週間経ってなお回復されていない。道路は船のように揺れ、泥水は1メートル近く吹き上がったという。ほとんどのエリアで30pぐらいの地面の隆起、または沈没が見られた。激しいところでは1m近い段差も見られた。民家の自転車が埋没しているのも見た。

 震度5程度で埋立地のインフラが壊滅的な打撃を受けるという意味では、まさに「砂上楼閣都市」だ。昨日発表された地価公示で上昇地点がいくつもあり、都市計画税が無税で、道路舗装率94.4%、上下水道普及率98.6%でいずれも日本一(データは2010年)の浦安市は、一瞬にしてバリアだらけの都市に変貌した。

 しかし、それでもビルやマンションは目視だがほとんど被害を受けていない。木造の戸建ても傾いているのはたくさんあるが、建物そのものの損傷は軽微だ。インフラが想像を絶する被害を受けていながら、建物が倒壊せず、人的被害がほとんどなかったというのは奇跡だろうか。それともわが国の建築技術が優れているからだろうか。おそらく後者だろう。読者の皆さんは、このことを念頭においてレポートを読んでいただきたい。


新浦安駅前のエレベータ(道路面と30cmは遊離していた)

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 昨日は、富岡1丁目と美浜3丁目を中心に見て周ったが、今日はもっとも被害が大きいといわれる入船4丁目と今川地区を見て周った。昨日の富岡も美浜も建物の被害はそれほど多くなかったが、入船は建物が大きな被害を受けているのが目視でも確認できた。昨日同様、建物被害を受けている人にインタビューすることができた。

 仕事が土木コンサルタントという自営業(61歳、以下コンサル)がその人だ。コンサルは建築士の資格こそ持っていないが、ほとんど建築のプロだ。そのプロが言う。「今川も被害が大きいが、もっとも大きな被害を受けたのはこの入船4丁目のこの一角。その中でも被害が大きいのはわが家。敷地から奥に向って30p、右に向って10p傾いた。日々、傾いている。下げ振りで確認しているからよく分かる。周辺の住宅も、最初は何ともなかったのがだんだん傾いてきている」と、事態の深刻さを語った。

 コンサルは次のようにも語った。「昭和60年に家を建てたとき、土を掘ったら1mで水が出た。友人の建築士がそれを見て『こりゃダメだ。建てたらすぐ売れ』といわれた」

 もう一つ、コンサルは重要な話をした。「東北はみんなやられた。その意味で、連帯感も生まれた。ここは大きな被害を受けた住宅もあれば、その隣りは全く被害を受けていないところもある。今後、補修をどうするのかという問題が出てくるが、その温度差が複雑に絡まるのではないか」と。

 入船4丁目エリアでは、戸建てはもちろん3階建ての鉄筋ビルなども傾き、営業できなくなった進学塾などもあった。道路と敷地の段差をどう埋めるのかも大きな課題となりそうだ。

    
入船4丁目で(目視でも住宅が傾いているのが分かる)

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 今川地区も液状化が深刻だ。今川地区は、昨日の美浜と同様、千葉県でももっと住宅地として高い評価を受けているエリアで、田園調布や成城に負けない豪邸もたくさん建っている。

 最初に見た住宅は、敷地・建物が隆起したのか、あるいは沈没したのか、道路が隆起したのか沈没したのか分からないほど複雑なダメージを受けていた。1階の自転車置き場がほぼ埋没して、自転車のハンドルとサドルがのぞいているだけだ。

 この住宅の近くの住宅も建物には大きな被害は出ていないが、沈没と隆起の差は1m近くあった。住人は「こら、ここまで泥が押し寄せたんですよ」と、1階のサッシの下あたりを指差した。2階建てアパートでは、1階住戸のサッシの高さまで泥が押し寄せていたものもあった。

 倒壊している住宅はなかったが、目視でも傾いている住宅がたくさんあったし、信じられないほどの土砂が道路上に溢れていた。


信じられないほどの土砂が道路に溢れている(今川地区)

 上下水が使えず、ガスも使用できないため、1週間風呂に入れない人がたくさんいた。若い女性の中には簡易トイレが使えず、わざわざ歩いて10分の駅のトイレやホテルのトイレを利用する人もいた。小学校の卒業式の時短も決まったという。

 「ここは千葉県一の住宅地でしょう」と問い掛けたら、被害者の1人は「地震が起きるまでは」と笑った。今日も計画停電が午後7時から10時ぐらいまで実施されるそうだ。この記事の写真を掲載し終えた今は午後6時57分だ。

  
今川地区で(左の住宅は敷地と道路の高さは1mぐらい差があった、中央のアパートは1階サッシまで泥が押し寄せていた、右は明らかに傾いている住宅)

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 昨日発表された地価公示によると、浦安市の住宅地は7地点あり、そのうちの6地点が前年を上回った。残りの1地点は横ばいだった。千葉県全体では1,288地点のうち40地点が上昇していた。


舗道の土砂を除ける作業をする明和地所の社員「1日延べ20人がボランティアでやっています。仕事? 仕事もしっかりこなしています」(記者もスコップを借りて土砂を除こうと思ったが、スコップはほとんどささらなかった。まるで凝固材が入っているような硬さだった。単なる海砂でも川砂でもない粒子が細かい砂だった)

液状化に悲鳴 新浦安 道路・上下水ズタズタ 計画停電も(3/17)

(牧田 司 記者 2011年3月18日)