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液状化に悲鳴あげる浦安市

道路・上下水道ズタズタ 計画停電も


富岡一丁目付近で

 

 取材に関して指示などしたことがない弊紙・久米信廣代表から昨日、携帯に「湾岸を取材しろ。大変なことになっているそうだ」と連絡が入った。渡りに舟ではあった。地震後、3月末までの取材がほとんどキャンセルとなっているからだ。しかし、その半面、「湾岸エリアで液状化が発生するのは当たり前。激震地の被災を考えれば、ある程度の被害は我慢すべき」とも思った。

 しかし、指示だから浦安市を取材することを決めた。埋立地がもっとも液状化の影響を受けることを「阪神淡路」の取材で分かっていたからだ。そこで、14日に緊急記者会見した松崎秀樹市長の緊急記者会見もチェックした。松崎市長はかなり怒っていた。それでも記者は高をくくっていた。「何を大騒ぎする」と。しかし、現地を見て、「これは書かないといけない。液状化を甘く見てはいけない」と思った。想像を絶する被害だった。

◇     ◆     ◇

 京葉線新浦安駅を降りて、「浦安ブライトン」に入った。立派なホテルだ。ところが、不思議なことにロビー・ラウンジは閉鎖されていた。レストランの営業以外、18日まで閉館だそうだ。お客さんらしき人もまばらだった。友人同士で地震の影響について話し合っていた30歳代の女性の1人に「すいません。東北ばかりに目が行っていましたので…ここも相当被害が大きいとか」と声を掛けた。

 「そうです。どこも報じてくれない。それで松崎市長が緊急記者会見を開いたと聞いています。私は美浜3丁目に住んでいますが、とにかく液状化がひどい。泥水と泥がわっと吹き上がり、道路を中央にして敷地が陥没し、わが家も傾きました。20度ぐらいの傾斜かしら。立っていると気持ちが悪くなり、めまいがします。電気は付きますが、ガスも水も出ません。給水を受けるのに2時間はかかります」

 最初に声をかけた人からこのような声を聞き、覚悟を決めた。次に、松崎市長がもっともひどい被害を受けていると語った富岡一丁目付近に向った。

 ホテルを出てすぐ液状化のひどさに納得した。「阪神淡路」でも見なかった(記者は西宮市を取材しているが、海岸近くではなかった)液状化が一面に広がっていた。道路は隆起したのか陥没したのか、いたるところで波うち、20〜50センチの段差が生じ、泥が噴出していた。とても舗装道路とは思えない。風が吹くと泥が舞い上がった。電柱は傾いているものもあった。

 それでも富岡一丁目付近の建物に被害はなさそうだった。むしろ、道路の被害状況からして真っ直ぐ建っているのが不思議なくらいだ(「阪神淡路」では周囲の電柱や建物が全て傾いていたので、自分が逆に傾いて立っているのではという錯覚にとらわれた。吐き気もした。三半規管が悲鳴をあげるのだろう)。

 富岡1丁目の築10年というマンションに住む小さな子ども2人を連れたお母さんは、「子ども(1歳未満)が丁度昼寝の時。びっくりしてこどもを抱えて部屋を飛びだしました。幸い、建物にたいした被害もなく、周りの人もみんな大丈夫でした」 小学1年生の子どもは「来週の火曜日まで学校はお休み。家のシャワーは使えるけど、水しか出ない」(ガスは昨日復旧したそうだ)

 同じマンションに住む30歳代の女性は、「私はもともと2歳の時から浦安に住んでいますから。実家もすぐ近く。初めて見ましたが、液状化は覚悟していました」と語った。

 
富岡一丁目(左は給水車)

 次に、美浜3丁目に向った。この一帯は、昭和50年代に大手デベロッパーが分譲した「千葉県一の戸建て住宅地」(ある居住者)だ。分譲当時は5,000万円ぐらいしており、バブル期は2〜3億円ぐらいの値がついていたはずだ。バブル崩壊後の地価上昇局面では全国トップクラスの上昇率を示した。

 同じ3丁目でも街区が異なるとかなり被害状況も異なる。被害が大きいところは富岡 1丁目と同じだ。敷地と道路は大きな段差が生じ、煉瓦タイルや生垣が大きくかしぎ、門柱が倒れているものが多い。建物の被害はなさそうに見えるが、入居後30年という70歳代の住民は、「ほら、あそこの住宅は明らかに傾いているでしょ。うちもドアが開かなくなったりしているところがある。庭の樹木は再生不可能ということで、みんな伐採しました。門柱もなくしました。ここは高齢者が多く、みんなで巡回しています」

 向かいに住む同年齢の女性は、「地震保険に入っていますが、保険は下りるかしら」と心配していた。

 住民が「傾いている」と指摘した住宅の前には調査に訪れたのか、1級建築士と思える技術者など数人が住宅の前で語り合っていた。

 建築士は「目視の段階では何ともいえませんが、1000分の10ミリぐらいは傾いていますね。近くに20度傾いている住宅がある? われわれは角度で計りませんから。被害は、地震というより液状化の影響でしょうね。市は地盤改良を行っていますが、市に責任を問うのは難しいでしょう」と語った。

   
美浜3丁目で(中央は住宅に寄りかかる電柱)

   

  
美浜3丁目で(左は庭木と門柱を取っ払った住宅、中央は漏水を市の広報車に伝える住民、右は庭から泥を道路に出している住宅) 

◇     ◆     ◇

 取材途中に、住民から「午後2時半から3時間ぐらい計画停電に入る」と聞いた。同じ3丁目に住む年配の女性は、「えっ、計画停電? 全然聞いていません。だって、新聞には被害地は対象外って書いてあるじゃないですか」と、停電を突然知ったようだった。地震については、「それは怖かったですよ。お年寄りばっかりですから。家も壁に隙間が出来たり、窓が開けられなくなったり…。道路は船のように揺れました」

 市の広報車が停電のお知らせをひっきりなしに流していた。

 記者も面食らった。浦安市は計画停電の対象外だと思っていた。しようがないからブライトンホテルに戻り、軽食とコーヒーでも飲もうと思い、午後3時頃に着いた。

 ホテルの説明では、「レストランは午後2時半までです。ホテルは井戸水を使っており、チョロチョロと出ますし、自家発電で電気は付きますが、これからの営業は午後5時からです」とのことだった。外は寒く、ケーキなどを売っている店で酒でも買って飲もうと思ったが、「お酒は販売しておりません」

 松崎市長は「大規模マンションなどの建物は大きな被害はない」と記者会見で語ったが、「ブライトン」に隣接する高級大規模マンションでは機械式駐車場と道路面は大きいところで40p、低いところで20pぐらいの段差があった。車にはフロントガラスまで泥の跡がついていた。

  
駅前の大規模マンション(左はエントランス部分。右は機械式駐車場)

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 計画停電では仕方がないので新浦安駅に戻り電車に乗った。電車は普段通り動いていたが、街は人もまばらで、ここが「住みたい街」のトップクラスの街だとはとても思えなかった。


計画停電中の新浦安駅

(続く)

(牧田 司 記者 2011年3月17日)