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期待外れの民間賃貸住宅部会「最終とりまとめ」


14日行われた「民間賃貸住宅部会」

 

 社会資本整備審議会住宅宅地分科会「民間賃貸住宅部会」(浅見泰司部会長・東大空間情報科学研究センター教授)の10回目の会合が12月14日、国交省内で開かれ、賃貸借契約に関するトラブルの未然防止、家賃債務保証業務の適正化、良質なストック形成など民間賃貸住宅市場の活性化のための「最終とりまとめ」について論議された。

 今回の10回目の会合をもって同部会は終了し、近く最終とりまとめとして答申される。

 記者は、この部会をほとんど欠かさず傍聴してきた。国が音頭を取って民間賃貸住宅市場について本格的な論議をするのは今回が初めてだったからだし、質の向上にも期待したからだ。

 結論から言えば、最終取りまとめは期待外れに終わった。劣悪・貧困な賃貸住宅の根本的な問題についてはほとんど論議がされず先送りされた。賃貸住宅標準契約書の見直し、原状回復ルールの普及、家賃保証弁済履歴情報の共有など、いくつか具体的な施策について提言がなされたが、これら対症療法的な対応策では問題解決につながらないだろう。

 同部会の限界が如実に表れているのが、民間賃貸住宅の現状認識とその対策について触れた部分だ。

 最終とりまとめでは、「民間賃貸住宅ストックの質は、床面積、耐震性、省エネルギー性能、バリアフリー対応といった面で、持家に比べて依然として低い。これは、 入居希望者が、民間賃貸住宅を選択する際に、物件の質を持家の場合ほどには重視していないことから、その部分にコストをかけても市場で評価されずコストを回収できないと家主が考えているのではないかと推測される 」(太字は記者)としている。

 この指摘はその通りかもしれない。しかし、これはいかにも傍観者的で、どうして入居希望者が物件の質を重視しないのか、その背景に目をつぶっている。その背景とは、質を二の次にせざるを得ない賃借人の家計があり、コストをかけず最大の利益を得ようとする事業者サイドの思惑が働いているからだ。

 部会のメンバーには、あれやこれや賃貸住宅の現状を認識するばかりでなく、現状をどのように変革し、質の向上をめざすのかの答申が求められていたはずだ。

 とりまとめでは、質の向上に対して、誘導するための金融、契約、管理面などでインセンティブが必要などと記述するにとどまっている。

 そのような悠長な構えでいいのか。質の向上は喫緊の課題のはずだ。われわれは阪神・淡路大地震で民家や木賃アパートがいとも簡単に崩れ、甚大な被害をもたらしたことを知っている。地震が首都東京を襲ったら、その被害は数倍に達するであろうことも知っている。もし、実際に地震が起きたら、われわれは「これは天災」と済ますことができるのだろうか。

◇     ◆     ◇

 同部会では、弁済履歴情報データベース化についてかなり論議された。消費者サイドからはブラックリスト化につながるのではといった意見も出された。しかし、記者は運用を誤まらなければ問題はないと思う。ただ、今回、一部の委員から出された意見書の次の記述はいかがなものかと思う。

 同意見書には「滞納を繰り返す賃借人に対する情報の非対称性を解消しなければ、その滞納リスクを家賃債務保証会社や大家が負担せざるを得ず、 保証料や家賃の上昇を通じて借家人全体の負担、特に家賃支払を正常に行ってきた借家人に過剰な負担を課すこととなる 」(太字は記者)とある。

 滞納リスクを事業会社や大家が負うのは当たり前だ。だからといって、そのリスクを家賃や保証料にオンできるかどうかは別問題だ。全てはその時々の市場が保証料や家賃を決定する。借家人に全てリスクを転化しようとすれば、その保証会社や大家の将来はないだろう。

◇     ◆     ◇

 家賃滞納をめぐる各委員の話を聞きながら、「どうしてこのような世知辛い世の中になったのだろう」とつくづく思った。時代小説や落語の人情話では、家賃滞納は当たり前だった。借家人どうしの支えあいもあった。大家と店子の関係も密であった。全ての関係が希薄になったからこそ、このような問題が浮上してくる。

 その一方で、絶対的な住宅の量的不足時代の商習慣にしがみついて生きのびようとする賃貸・管理業者の姿勢も浮かび上がっている。

 消化不良のまま終わった部会だった。

結局は何もまとまらない? 民間賃貸住宅部会(11/10)

(牧田 司 記者 12月15日)