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コスト引き下げプレッシャーも事件の背景

 耐震強度偽造問題が発覚したとき、記者は「これは大変な問題になる」と直感したが、事態はその通りになってきた。前回の記事は18日〜 19日にかけて取材して書いたものだが、さらにいくつか追加して以下にまとめた。

 まず、関係者はどう見ているかについて、 マンションコンサルタント会社・トータルブレインの久光龍彦社長( 65)に聞いた。

 久光社長は、長谷工コーポレーション(当時、長谷川工務店)専務から、デベロッパー会社の長谷工不動産、販売会社の長谷工アーベスト、管理会社の長谷工コミュニティの各社長を歴任した川上から川下≠ワで全てを熟知した業界の名物男だ。

 久光氏は、「最悪の犯罪。考えられないこと」と前置きしながらも、 「今回の事件の背景には、デベロッパーが高値で仕入れた土地を分譲価格に転嫁できない販売競争の激化がある。設計事務所やゼネコンに対するコスト削減のプレッシャーは相当なものだ。建築コストを引き下げるには意匠(デザイン)、構造、設備仕様の3つが考えられるが、意匠と設備仕様は見栄えのする部分だから引き下げられない。構造は、消費者には見えない部分だからコストを下げるように圧力をかけやすいし、建築コストのほぼ3割を占めるので、削減効果も大きい。今回の事件をきっかけに構造をいじめない≠ニいう共通認識を持たないとダメだ」と警鐘を鳴らしている。

どうする入居者の補償問題

 もう一つ、記者が気にかけているのは補償問題だ。事件に関わった全ての関係会社は、責任のなすりあいをやめて、まず入居者の安全確保と補償に全力を注いで欲しい。しかし、今日、問題の建物の多くを施工していた熊本の木村建設が、資金繰りが難しくなったとして民事再生法の申請を検討している旨のニュースが飛び込んできた。

 今回、耐震性に問題がありとされた建物の入居者への補償について、関係者は「売買契約の解除、引越し費用の負担、その他の費用、損害賠償額を売買価格の10%として1棟当たり約 18〜20億円ではないか」とはじいている。現在のところ完成済みは14棟だから、補償総額は280億円になる。

 これに対して、木村建設の05年度の売上高が 124億円で、数棟の問題建物を抱えるシノケンが124億円、7棟の完成済みマンションの売主・ヒューザーは150億円程度だと思われる。どこがどれだけ負担するかは分からないが、常識的に考えれば、かなりの負担どころか、とても持ちこたえられない額だ。このままだと破綻は必至だ。ある金融機関関係者も「その企業が危ないと判断すれば、銀行は融資資金の回収に動く。入居者には気の毒だが、銀行は預金者保護が大前提。別のユーザーをたくさん抱えている」という。つまり、今回の特殊事情を考慮しても、銀行が問題企業を支援することは考えられないという。

 となれば、誰が入居者を守るのか。国交省も妙案はないはずだ。国が救済の手を差し伸べるしかないように思うのだが…。

建築士のモラルはどこにいったのか

 もう一つ、いいたいことがある。建築士とは何ぞやということだ。一般消費者は、「マンションは安全」という前提で買っているのだ。それが信用できないとなれば、何を信ずればいいのか。

 もともと建築士は、弁護士、不動産鑑定士(あるいは医師、又は公認会計士)などとともに名誉ある国家資格といわれている。アメリカでは、建築士の社会的評価は弁護士並みとも聞く。

 それほど名誉ある資格のはずなのに、「先生と呼ばれるほど馬鹿じゃない」と言う建築士もいるほどだから、全体として建築士のモラルは地に落ちてしまっているようだ。プライドばかり高くて、マンションのことなど何も分かっていない、デベロッパーなどに媚びを売るばかりの建築士を記者もたくさん見てきた。 

 われわれはモラルハザード=i倫理観の欠如)などという言葉を良く用いるが、本来のモラルハザードという言葉は、 「危険回避のための手段や仕組みを整備することにより、かえって人々の注意が散漫になり、危険や事故の発生確率が高まって規律が失われること」という意味だそうだ。

 考えてみれば、構造計算書なる国交省認定の電算システムを使用すればミスはないと信じきってしまったところに落とし穴があったのかも知れない。

 

(牧田 司記者 11月22日)