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「製販分離」「製販一体」どちらがいいのか(3月8日)
 

 三井不動産は、平成18年10月までに三井不動産の住宅分譲事業部門と三井不動産販売の住宅販売受託事業部門を統合した「製販一体」の住宅分譲会社を立ち上げると発表した。同社グループの住宅分譲事業に関する経営資源を一本化して、多様化・高度化するユーザーニーズに対応するのが目的という。これにより、同社のマンションは、企画から販売までの一貫体制で、新会社から供給されることになる。三井不動産の岩沙弘道社長は「(新会社を)CSと収益性において、住宅分譲業界ナンバー1にしたい」と抱負を語る。

 デベロッパーのマンション販売システムは2種類に分別される。1つは、デベロッパーは用地取得から商品企画策定までを受け持ち、販売は販売子会社や他の販売会社に任せるという「製販分離」のスタイル。もう1つが、企画から販売までのプロセスを全て自己完結する「製販一体」のスタイルだ。「製販分離」方式を採っているのは、三井不動産、三菱地所、東京建物といった財閥系と東急不動産などのメジャーデベロッパー。「製販一体」方式は、大京、ダイア建設、明和地所、藤和不動産といった大手マンション専業デベロッパー、野村不動産、住友不動産の主力物件、そして中堅・中小デベロッパーだ。

 「製販分離」のメリットは、商品企画部隊から販売を切り離すことで、商品作りに専念できること、そして販売スタッフはそれに特化することで、より決め細やかなユーザーサービスができることだ。また、供給戸数に応じて弾力的な販売体制を採ることができるのも強みだ。中堅デベロッパーが、ある一定の供給戸数を超えると販売子会社を立ち上げるのは、この辺りの事情がある。しっかりした商品企画力があり、それをユーザーに的確に伝えることが出来る販売スタッフが揃っていれば「製販分離」はうまく機能する。

 逆に「製販一体」のメリットは、企画スタッフの意図が、ユーザーに接する販売スタッフにまでダイレクトに伝わること。そして、ユーザーからの声がまた企画スタッフにダイレクトに伝わることだろう。「製販分離」の販売現場を取材すると、よく「このスタッフは、本当にこの商品の狙いを分かっているのだろうか?」と思う場面に出くわすが、「製販一体」の販売現場スタッフは、企画スタッフの意図をきっちり理解し、ユーザーに伝えることができる人が圧倒的に多い。もちろん、「製販分離」の販売現場でも、仕組みさえ整えればきっちりとユーザーニーズに対応した販売手法を採ることは可能だが、全ての現場でそうした対応を採るのは難しい。供給戸数が増えてくればなおのことだ。

 ただ、「製販一体」の場合、供給戸数に波があると弾力的な販売体制が採れず、販売をアウトソーシングせざるを得ないケースも出てくる(最近の大京がそう)。それでも、ユーザーオリエンテッドの考えからいえば、メリットのほうが大きい。とくに、ユーザーニーズが多角化・複雑化するこれからのマンション市場では、ユーザーの声をよりダイレクトに企画に反映させる仕組みが求められてくる。

 今回、三井不動産が敢えて「製販一体」にシフトするというのは、やはりユーザーニーズに対するベクトルを一本化するという狙いがある。事実、いま一番元気なマンションデベロッパーといえる野村不動産、住友不動産は「製販一体」方式を採っており、商品企画から販売手法に至るまでのユーザーニーズの捉え方が終始一貫している。三井不動産販売の岩崎芳史社長も「新会社の大きな目的は、CSへの迅速な対応だ。よりスピーディに動くには、製販一体の形が理想」と語る。

 「製販一体」と「製販分離」。それぞれに一長一短があり、どちらがいいのか一概に決め付けることはできない。ただ、モノを作るスタッフも、それを売るスタッフも、常にユーザーの視点で取り組むことを忘れないこと。そこさえ外さなければ、プロセスはどうであれユーザーの支持は受けられると、記者は思う。

(福岡 伸一記者 3月8日)