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建築家・中島忠之氏の格闘…
「生活者の視点」に真摯に向かい合うこと(10月12日)
 

 先日、懇意にしてもらっている建築家・中島忠之氏(共同制作代表)が設計したあるマンションの批評をしたら、次のような返事が返ってきた。本人了解の上で、ほとんど原文のまま転載したい。 中島氏の指摘は、マンションデベロッパーにとって非常に参考になるからだ。

 中島氏は、私の知る限り、第一ホテルエンタープライズ「ヒルサイド久末」や、最近では湯河原の「水明荘」を設計したSUM建築事務所所長・ 井出共治氏とともに、斜面地マンションでは第一人者の建築家だ。「ザ・ヴィスタ妙蓮寺」や「テラス戸塚」など、表情のある外観としっかり造りこんだ外構、ユニバーサルデザインなどが特に印象に残っている。

(牧田司記者)

(以下、ほぼ原文のまま)

 マンションの設計はデベとの格闘技だと私は思っております。相手を土俵の上にあがらせる格闘と土俵上の格闘があります。土俵とは商品企画の土俵ですが、これが問題です。

 もとより、土地探しに始まり売れる商品を作らなければならないデベの厳しい現況がありますが、その割に商品企画の土俵があまりにも小さい。商品企画の引出しがほとんどないといっても過言ではありません。

 先日、永年マンションに携わってきた小さなデベと、現状打開のためにどうすべきかについて話したことがあります。小回りのきく会社ゆえに大手とは違う商品づくりをしたらどうかの問いに対し、「そのような冒険はとても出来ない、大手デベ、たとえば○さんのようなところがやってくれるなら安心して我々も出来る」というものでした。私には納得のいかない半面、やっぱりそうかという答えでした。

 商品企画の模倣で十分商売ができる時代が長く続き、いざとなって商品企画への道筋すら見えないという悲しい現実です。これは業界の七不思議の一つでしょう。住宅を作る主体が生活者から遠く離れ、生活者の顔を、生活者の生活を見ようとしていない不思議さ。生活者に接近すれば、ニーズなどいくらでもあり、もし商品企画と呼べる土俵があれば、有り余るニーズを選択することに必死で思い悩むはずです。高度成長期のいわゆる住宅不足の時代と異なり、多様化の時代では生活者の生活視点を抜きに商品企画などありえるはずはありません。

 私の申す土俵に上がらせる格闘とは「デベに生活者の視点」を作るための格闘です。もし、この土俵ができれば設計者としてとても喜ばしい格闘となります。

 本来、生活者の視点に基づく商品企画の土俵作りなどはデベの役割であって、設計者がどうこう言うことではありません。残念ながら、デベの現状はベイシックな自らの役割を放棄し、3LDKをもとに、やれ個室やリビングの帖数だ、ユニットバスや洗面所だ、タイルの色や張り方だなど、本来なら設計者の役割である枝葉末節にまでこだわり、そうすればこそ、きめ細かで失敗のない商品企画だと思い込んでいるきらいがあります。そして、バランスを欠いたプランニングや奇妙な外観が生まれ、結果として売れ行きもいま一つとなります。

 それぞれの役割を不明となり、そのため、デベも設計者もプロとしてのパワーを蓄積できなくなっている、それが現状ではないかと思います。

 先日、横山彰人氏の「危ない間取り」について、週刊住宅での佐藤美紀雄氏の書評がありました。横山氏は間取りの重要さを認識するあまり家族崩壊の危機に言及し、佐藤氏は家族崩壊の危機は現代のライフスタイルにあって、間取りにあるのではないという論評です。

 二人の主張はどちらも間違いではない、と私は思います。家族崩壊の事例には住宅のプランに起因することが多々指摘されますが、危ない間取りだからといって家族の崩壊に結びつくとは限りません。戦後復興期はプランこそ違え危ない間取りばかりでしたが、登校拒否や自閉症などの問題はなく、そこには家族の紐帯を強くする自衛的で確固たる生活者の家族像が浮かびます。

 情報機器の発達で益々家族の個別化が伸長する現代、家族崩壊がライフスタイルそのものに起因するという佐藤氏の指摘は正しいと思います。しかしながら、残念なのは佐藤氏には住宅を生産する業界に身を置きながら、複眼的な生活者の視点に欠けており、したがって、生産者と消費者の図式の中であるべき生産者像の域を出ていないきらいがあります。

 家族像を見失い、自分がどのような住宅を目指すべきかさえわからない現状の生活者を前にすれば、我々、生産者ができることはせいぜい限られているかもしれません。が、新たな家族像を模索するための生産者の努力、生活者と生産者共々に行う試行錯誤の努力は依然として残されており、それは生産者に身を置くものとして「生活者の視点」に真摯に向かわねばならない、と思います。

 さて、さて、長くなってしまいました。

 今、友人とコーポラティブハウスの設計に久しぶりに取り組んでいます。ビニールクロスやエンビ扉のない、木の地肌と塗り壁の住まいです。そして当分はスケルトン定借の企画コーディネーターの取り組みが私のテーマです。(以下、略)