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ますます高度化する
マンションセキュリティの意外な盲点(9月28日)
 

 年々治安が悪化している世相を受けて、この1、2年、マンションのセキュリティ対策が急速に進歩している。サムターン回しを防ぐ玄関ロックや防犯ガラスの導入、メインエントランスに加えて、エレベータホールや各フロアにもオートロックを設けるダブルオートロックシステムなどだ。そのオートロックも、指紋認証や虹彩認証(人の瞳)と高度化している。また最近では、警備会社と提携して、留守中の異変や居住者からの通報時に急行するシステムの導入が増えてきている。複数の管理スタッフによる24時間常駐管理も、中規模マンションでは当たり前になりつつある。

 さて先日、あるデベロッパーが導入したセキュリティシステムが凄い。居住者には非接触型のキーが渡され、家に入るにはまずメインエントランスで受信機にこのカギをかざす。次に、エレベータの受信機にカギをかざすと、居住階に直行するのだ。つまり、たとえ不審者がオートロックをすり抜けたとしても、エレベータの操作はできない。また来客時は、オートロックの解除と同時にエレベータが1階に到着。扉が開いている時間「5秒」以内にエレベータに乗り込んでもらうことで、不審者をシャットアウトする。犯罪の多発する夜間は、一利用者によるノンストップ運転とするなど徹底している。異常が起きれば警備会社が直行するだけでなく、居住者の携帯電話にも連絡が入る。不在時に来訪があったり、家族が帰ってくれば、これまたメールが入る。防犯システムのセットも全て携帯電話でできるスグレモノだ。もちろん、自社管理システムと警備会社による常駐管理で万全のセキュリティ体制を敷いている。

 これだけやれば、不審者・犯罪者の類は、このマンションに近づくことすらできないだろう。ただ、個人的には、ここまでいくと「やりすぎ」の感もあると思う。

 このマンションに限らず、最近のマンションは、居住者以外を徹底的に排斥する傾向が、ますます進んでいるように思えてならない。地域に開放すべきマンション付随のガーデンまで、完全に居住者用となっている物件も多い。これでは、近隣とのコミュニティは不在となる。

 確かに、凶悪犯罪や不法侵入が多発する現在、居住者にとって「安全」「安心」は何より大事なことに違いない。しかし、不審者を寄せ付けない高度なセキュリティは、普通の来訪者にとっても「おっくう」なものだ。お目当ての友人に会うまでに、二重・三重のセキュリティゲートがあるのでは、だんだんと訪ねる回数も減りはしないか。居住者とて、「安全」「安心」と引き換えにした「引き篭もり生活」など、誰も望んではいない。

 さらに、前記のマンションレベルまでセキュリティが徹底すると、マンション内のコミュニティにも支障が出ないか心配だ。なぜなら、階が違えばいちいちカギを持って出なければならないからだ。「サンダル引っ掛けて、ちょっとお話に」といった、マンション内での気楽なご近所づきあいすら難しくなってくる。

 地域の住環境と融合したコミュニティとセキュリティの両立。そして共同住宅ならではのコミュニティ=「長屋暮らし」の良さと「安全」「安心」の両立。これこそ、次代のマンションに求められるものだろう。

(福岡伸一記者 9月28日)