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 被災復興区画整理事業 全体で多摩NTしのぐ数千ha

維持管理、保留地処分、雇用など問題も山積

 アトリエU都市・地域空間計画室代表・宇野健一氏が多摩市の「まちせん」で防集事業の現状と課題について講演を行ったことを当欄で先に紹介した。記者は講演会が行われた3日前に宮城県名取市に取材に行っており、壊滅的な被害を受けた閖上地区の再建などについて佐々木一十郎市長にも少し話を聞いたので、震災復興のあり方を考えるために参加した。

 宇野氏が話した防集は現在まで被災3県の24市町村179地区30,989戸の事業計画が決まっている。法律に定められているように最小規模は5戸で、最大は石巻新市街地の3,266戸。多くは平成27年度までに事業を終えるとしている。

 この事業スピードが早いのか遅いのか、戸数が多いのか少ないのか、記者は判断するモノサシを持っていない。ただ、従来は10戸以上だった基準が5戸以上に緩和され、移転に伴う費用がほぼ100%公費で賄われること、住宅建設についても利子補給が行われることなどがこれほどの戸数に達している要因と思われる。

 問題は被災市街地復興土地区画整理事業だ。国交省などの資料によると現在、20市町村58地区で区画整理事業が計画されている。規模は数haから最大クラスでは女川の226haというものもある。阪神淡路では20カ所256haだったので、女川1カ所で阪神淡路と同じぐらいの施行面積となる。

 全体でどれぐらいの規模になるかは不明だが、現在計画されている区画整理の平均値は約60haであることから推定すると全体では約3,480haとなる。多摩ニュータウンやTX沿線の団地規模をはるかに上回る。   

 一般的な土地区画整理事業と大きく異なるのは、復興を最優先した事業であることだ。つまり、あらゆる法的規制を緩和して、住宅・業務・公益施設などを一体的に整備するための都市計画を決定することだ。防潮堤を設けたり高台への移転、低地のかさ上げなどを行ったりするので費用も莫大となる。1ha当たり億単位の経費がかかる区画整理事業を財政基盤が弱い被災自治体ができるわけがない。

 そのため、一般的な区画整理事業の国費負担は3分の1程度で、残りは保留地を処分したり公共団体が起債したりして賄われるのに対し、復興の事業は復興交付金や地方交付税など国費でほとんどが賄われることになった。

 事業規模が桁違いに大きいのもこのためだ。今後10年間で200兆円の規模でインフラなどの基盤整備を進めるという「国土強靭化基本法案」に沿ったものというべきか。

 一つの例として「希望の松」で全国区になった陸前高田市の区画整理事業を見てみよう。同市の人口は約23,000人。世帯数は7,480世帯(震災前と比べ7.5%減)。震災による被災戸数は3,368戸、死者・行方不明者(確認調査中含む)は2,228人。防集事業によって移転が決まっているのは1,551戸。

 震災前の予算規模は約100億円。自主財源比率は約24%。それが震災後の平成25年度予算は震災前の約10倍の1,000億円を突破する。復興交付金はこれまで816億円が交付されている。このうち144億円が区画整理事業に充当されている。

 区画整理事業は「世界に誇れる美しいまちの創造」を目指すとして、「高田松原」の192.4ha と「今泉」の124.3ha が都市計画決定されている。双方で316.7ha にも及ぶ。目玉というべき「希望の松」のレプリカが建てられる「祈念公園」は震災前の2倍ぐらいの124ha となる。メインストリートは幅員25mとする。

 住宅の移転用地に当てる高台住宅地を双方で15カ所設置するほか、低地の一部を8mかさ上げして住宅用地などとする。双方で住宅予定戸数は1,825戸。防集と区画整理による住宅予定戸数を合わせると被災戸数を上回る計算だ。先行して進められている事業の減歩率は「高田松原」が86.6%、「今泉」が89.5%。減歩率が異常に高いのは予定区域のほとんどが山林でu当たりの評価額が1,000円台から2,000円台と低いためだ(それでもこの山林価格は異常に高い)。事業後の単価はほぼ倍増する試算となっている。

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 計画通り「世界に誇れる美しいまち」になって欲しいと思う。しかし、立派な「器」をつくって果して「中身」も充実したものになるのかという懸念も沸く。区画整理は基盤を整備しても、その後の「中身」までは基本的に措置しないからだ。例えば「祈念公園」。その規模は54ha の代々木公園の約2倍、149haの「国営昭和記念公園」に近い。公園が多いことで知られる多摩市は193カ所全体で178ha だ。とてつもなく大きいことが分かる。

 市民が日常的に利用すればいいが、人口はわずか23,000人だ。多摩市の16%しかない。観光客が大挙してレプリカの「希望の松」を見に訪れればいいが、他の被災地の観光地との競争もある。

 公園の緑の維持管理費だけでも年間数億円はかかるのではないか。その他、道路や公共施設の維持管理費を含めると市の予算のどれぐらいの比率に達するのか。保留地の処分が計画通り進むのか、雇用は創出できるのか、環境・生物多様性への影響はどうなるのかといった問題もある。想像しただけで恐ろしくなる。自治体が維持できなくなって税金を際限なくつぎ込む注ぎ込む事態だけは避けて欲しい。そうなれば被災地の住民も悲劇だ。

宇野氏から防集の現状と課題を学ぶ たま・まちせん(3/25)

(牧田 司記者 2013年3月25日)