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  多摩市一本杉公園の「炭焼き窯」

炭焼き文化を伝承する 「一本杉炭やき倶楽部」


多摩市一本杉公園の「炭焼き窯」で炭をやく祐乗坊氏

 プロ野球の名投手として名をはせた江夏豊氏の引退試合が行われたことで全国区になった、多摩市の一本杉公園の一角に「炭焼き窯」がある。炭焼き伝道師と呼ばれる杉浦銀治氏や多摩炭焼きの会の指導の もと、 市と「一本杉炭やき倶楽部」(祐乗坊進代表、ゆう環境デザイン計画・代表取締役、東京農大客員教授)が協働して平成10年に完成させたものだ。

 窯は「岩手式標準窯」(平成窯)と呼ばれるもので、寸法は高さ約1.3m、横幅約1.8m、縦約2.7m。材料は耐火レンガ、耐火セメント、珪藻土など。製炭量は15俵(225s)程度。

 公園の樹木剪定で発生した枝木を回収し、約20人の「一本杉炭やき倶楽部」会員が年に3回この窯を使って炭を焼く。焼いた炭は 公共施設などに無料で配布されるほか、様々なイベントも行われている。

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 記者はこの炭焼き窯の火入れが行われた2月9日夜、見学に訪れた。祐乗坊氏のほか会員と思われる人たち数人がコンロで炭火を熾し、イワシやソーセージを焼き、大なべで美味しそうなキノコ鍋を作っていた。

 そのいわしやキノコ鍋を食べながら、会の人たちが 「あれが北斗七星」やら、昔、多摩には狐も狸もたくさん住んでいたこと、吸血ヒルに襲われたこと、夫婦のどちらが先に死しんだほうがいいか、死んだら葬式はどうするか、火葬か土葬か、ゾロアスター教の鳥葬・風葬もいいではないか、ドイツは夕方になると店を閉めること …etc、 メンバーの楽しい会話は尽きない。

 そこに未就学と思われる女の子が父親に連れられてやってきた。父親に催促され、挨拶代わりに寿限無(じゅげむ)を恥ずかしそうに諳んじはじめた。記者も挑戦したことがあるができなかった。寿限無が終わると、今度は掛け算の九九を始めた。これもすらすらと言えた。そこで参加者の一人が「29(ニク)は? 」と声を掛けた。その女の子はすかさず「ジュー」と答えた。笑顔がはじけた。

 記者は途中で辞去したが、炭焼きは夜中まで続いた。

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 記者はここで木炭(炭焼き)が焼き物に最適であるとか、温室効果ガス削減に貢献しているとか、生物多様性を育てるとか、治山・治水に役立っているとか、究極のエコなどと講釈をたれるつもりは全然ないし、そんな炭やきの知識があるわけではない。

 しかし、 極めて合理的で環境に優しい営みをうまずたゆまず続けてきたわが国の文化を継承する意義は大きいと思う。 記者も炭やきの一部始終を見て育ったし、薪も含めた囲炉裏 ・かまどは全ての源泉だった。 だからこそ「頑張れ炭やき」と応援したくなる。

 祐乗坊氏は「単なる公園施設ではなく、関わる人たちによって様々に展開できる種が蒔かれた場としてデザインすることができた。これが市民参加型の環境デザインの原点ではないかと思う」と自らのホームページで述べている。


祐乗坊氏

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 Webで「炭焼き」について調べていたら「炭やき」をされている方のブログ「炭やきは地球を救う」の「窯焚き」と題するすばらしい文章を見つけた。ご本人の了解を得たので以下に紹介する。

 「窯を焚いている時、とても充実している。深夜になると、どんどん感性が冴えてくる。里山の恵みを伐り、運び、刻み、割り、立て込んで、窯に火を入れる。焚き口の中はオレンジ色に輝く。これは、焚き物にしている木が、数十年の間、毎日光合成をして少しずつ蓄えた炭素が酸化、燃焼している様だ。

 炭をやくために使うエネルギーはこの焚き物を燃やして得られる熱。つまり、父なる宇宙(そら)からの恵みで、母なる地球が育んだ木に永遠の命を吹き込むのが炭やきだ。できた炭は、火を入れるとやはり太陽と同じオレンジ色に輝く。炭って神秘的だ。

 焚火しながら、窯の前にキャンプ用の簡易ベッドを出して横になる。ジローもすぐ近くですやすや眠ってる。本やパソコンも持って来ているけれど、ただ窯から立ち上る煙と焚き口の炎を見たい。他の事をするのがもったいない。小さな音で流すのはコルトレーン。

 僕はこの時間、不思議なくらいに何も考えない。欲とか、シガラミとか、金とか、全部煙と共に消えてゆく。残るのは僕の本能。やりたいこと、やらなきゃいけないこと、やってはいけないことが明確になる。感性が鋭くなっている証だ。

 上を見上げれば、月明かりにエメラルド色の天井。僕は母なる大地に座り、母なる地球の大気に包まれている。寝転んで宇宙(そら)を眺めていると、人工衛星や、ナイトフライトの飛行機、時々流星が流れる。稲武の山が霧の中、月に照らされて浮かんでる。地球は回り続ける。

 煙は勢いを増し、軽くなってきた。そろそろ上木に着いた頃かな。煙突(ウド)のダンパーを開けて、一気に原木に着ける。あたりは広葉樹が炭化する時に放つ芳香に包まれる。美味いコーヒーをいれて地球の回転を感じよう。静かな湖畔。独りで味わう至極の時間 」(段落は記者がつけました)

 「炭やきは地球を救う」ブログ氏によると、「師である杉浦銀治より『炭やき』と『炭焼き』は区別して使うように言われている。『炭やき』とは、まさしく私の仕事です。『「炭焼き』とは、その炭を燃料として使い、いわゆる『焼き物』を作る行為」とのことだ。記者が感動したのはブログ氏が「木に永遠の命を吹き込むのが炭やきだ」と語っているくだりだ。確かに炭化した木炭は腐ることがなく永遠に残る。

(牧田 司記者 2013年2月25日)