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  旭化成ホームズ くらしノベーション研究所

 「子育て・共働き」テーマのフォーラム


渥美氏

  旭化成ホームズの「くらしノーベション研究所」は2月13日、「今どきの『子育て・共働き家族』の暮らし−共働き家族研究の経緯と社会背景−」と題する報道陣向けの第10回くらしノベーションフォーラムを開き、「イクメン」の名付け親でもある東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長・渥美由喜氏が「『イクメン』という生き方の選択」と題する講演を行った。約60人が参加した。

 フォーラムでは、同社の共働き家族研究所所長・入澤敦子さんが1988年に同研究所を立ち上げてから現在までの25年間の変遷について報告。男女雇用機会均等法が施行された1986年は努力義務だったものが2度の改正により義務規定に変わったこと、法の施行をきっかけに共働き世帯数が専業主婦世帯数を上回り、その差は益々広がっていること、共働きで働く理由では25年前は「生活を維持するため」「住宅ローン返済のため」が10〜30%だったのが、現在では45〜50%に高まっていることなどを話した。

 同研究所所員・伊藤香織さんは、男性の育児に費やす時間が2000年以降急増しており、家庭での育児に対する夫の関与は当たり前であり、フルタイム働く女性の夫は女性の就業継続に肯定的な考えが多数を占めることを報告した。その一方で、専業主婦家族の夫は子どもが小さいときは母親は子育てに専念すべきであるとする声が約60%にのぼり、フルタイム家族の夫の20%弱を大きく上回っていることを話した。「家事は苦にならない」「ワークライフバランスが取れている」家族の事例紹介も行った。

 渥美氏は、自ら2度にわたり育休をとった会社員、子育て、家事、介護と看護の「5K」(「子ども会」を含めると6K)の実践者の立場からイクメンは本人・家族・社会の三方よしであり、ワークライフバランスはリスクマネジメントであることを強調した。

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 「イクメン」はやさしいようで難しい問題だ。何事もそうだが、実際に行ってみないとなかなか理解できないように、「出産」を経験できない男性にとって「育児」がどんなに難しいことであるかを理解するのは容易なことではない。

 「イクメン」どころか完全な「主夫」を経験し、「子育て」に失敗した記者の経験が少しでも役に立ってくれることを願って、その経験を紹介する。

 記者の亡妻は乳がんを発症してから4年後に死亡した。小学生の子ども2人を抱えて記者の「主夫」生活が始まった。「主婦」に負けたくなかったから、完璧に「主夫」を演じようと思った。朝早く起きパンを焼き、サラダ、スクランブルエッグ、ソーセージ、ベーコンも作った。生ジュースを作ったこともある。子どもが「行ってきます」と家を出るまでは不安で、先に出ることはできなかった。毎日が遅刻だった。会社は黙認してくれた。学校の催しも欠席することはしなかった。

 会社は定時で帰った。仕事は自分では完璧にこなしたと思う。幸い、記者という仕事はスケジュールを調整すればできるものだ。帰ってすぐ夕ご飯に取り掛かるのだが、最初はカレーとかチャーハン、ラーメンぐらいしかできなかったが、和洋中華まで何でもこなせるようになった。そのうちに調理が面白くなり、出汁は鰹節、昆布で取り、鶏がらでスープを取った。砂糖を使わなくても料理はおいしくなることも覚えた。弁当のある日はフキの煮たのなど季節のものも取り入れ幕の内弁当を作った。添え物に冷凍食品はよく使ったが、主食はちゃんと作った(揚げたカツを買ってきてカツ丼にするのが主食かどうかはわからないが)。

 もちろん洗濯もアイロンかけもボタン付けもやった。食洗機は重宝したし、物干しポールは必需品になった。それにしても夜中やら朝やらこんがらがった洗濯物をほぐし干す作業には難渋した。ティッシュペーパーがズボンのポケットに入っていたときなどはパニックになった。「なんで、オレが」と何度泣いたことやら。

 宿題をやらせ、風呂にいれ、翌日の準備をさせ、寝させるまで一時も休まる暇はない。自分の時間が持てるようになるのは10時過ぎだ。それから朝方まで原稿を書くときもあれば、夜中の2時ごろまで酒を飲むのが日課になった。ウイスキーのボトルは4日で空になった。

 このような綱渡りのような生活は長く続かなかった。「主婦に負けない」という鼻っ柱はへし折られた。ある日、帰宅すると上の子どもがシャツに血を滲ませた姿で「お父さん、けんかした」と話した。慰めはしたが喧嘩ぐらいするもんだ≠ニ甘く見たのがいけなかった。母親ならきっとしっかり喧嘩の理由を聞き抱きしめたはずだ。そのうち、いかにも悪がきと思える髪を茶色に染めた少年が出入りするようになった。2人、3人と増えていった。ガキの溜まり場になった。そこからは転落するのが早かった。親子の関係はズタズタになった。覆水盆に返らずだ。旭化成ホームズのいう「母力」のしたたかさ、しなやかさこそが必要だと痛切に感じたし、救いがたい記者のマネジメント能力のなさも思い知らされた。(その悪がきは成人して立派な大人になった。記者にもきちんと挨拶してくれる)

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 長々とつまらないことを書いたが、同じような経験をした働くママもパパもたくさんいるはずだ。母子家庭、夫子家庭への支援も必要だ。安心して子どもを産めて育てられるような環境にしないといけない。渥美氏も話したように「イクメン」なる言葉が死語となり、死滅する社会にしないといけない。 

 そこで一つ二つ提案。一つは「専業」の呼称だ。記者は専業主婦も立派な仕事だと思うが、ならば「兼業主婦」は通用するのか。さらに「専業主夫」も存在するように思うが、これはいわば「ヒモ」として社会に認知されない。子育て・家事労働に専業も兼業もないではないか。同じように「扶養家族」も訳が分からない言葉だ。「扶養」されているのは男ではないかと思うときすら記者はある。

 もう一つは、この子育て・家事労働をきちんと評価することだ。記者は家事労働をしながら果たして自分のやっていることを金額に換算したらいくらになるかを考えた。最低でも月額25万円とはじいたし、仕事もこなし子育ても行ったある主婦は「40万円でも安い」と話した。雇うとしたらワーキングママもワーキングパパもとても捻出できない金額だ。

 子育て・家事労働を正当に評価するようになれば、男も女も考え方が変わるのではないか。さらに言えば、平塚らいてうが「元始、女性は太陽であった」と語ったように、女性が輝く世の中にしないといけない。男女雇用機会均等法は経営者に都合のいいガバナンス機能を温存したまま女性の男性化を企み、男性の女性化を助長する悪法に思えてならない。

(牧田 司記者 2013年2月15日)