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貧弱な戸田市の緑・街路樹

市民の満足度が上がらないのは行政の責任

 
北戸田駅に近い下笹目・新曽付近(川の土手はコンクリで固められているのか、芝生は植わっていたが、樹木は1本もない。橋の上の彫像には「潤い」と名がつけられていた。記者は皮肉だと思った)

 昨日(3月12日)、ポラスグループの中央住宅が近く分譲開始する分譲戸建て「ボゥヴィラージュ戸田」を見学した後、戸田市の向田地区から東京外環自動車道路沿い−美女木4丁目−笹目4丁目−美女木東−北戸田駅周辺まで約1時間かけて街路樹などの緑の整備状況について見て回った。

 目的は二つあった。一つは、先日、亡くなられたポラス暮し科学研究所顧問・伊藤博明氏への追悼文を書くためだ。伊藤氏が亡くなるわずか16日前、記者は伊藤氏と歓談した。街路樹の話におよび、「どうして街路樹を坊主頭のように剪定するのだ」(伊藤氏)「どうして埼玉の街路樹は貧困なんだ」(記者)と意見の一致を見た。伊藤氏の言葉と記者の意見を検証するために、街路樹を見て回ろうと思った。

 もう一つの理由は、ポラスの取材のとき、中央住宅取締役事業部長・金児正治氏が「担当部署からは(管理にお金をかけたくないから)芝生はだめといわれたが、何とか話し合って提供公園に芝生を植えた。市はこれからは緑の環境整備に力を入れていくそうだ」と話したので、その戸田市の緑の整備状況を見て回ろうと思ったからだ。

 しかし、1時間もかける積りではなく、せいぜい30分ぐらいの予定だった。30分も時間をオーバーしたのは、夢中になって高速道路沿いの緩衝樹木の写真を撮っているうちに「ここはどこ、私は誰」状態に陥り、あちこち街をさまよったからだ。

 そのお蔭で、いかに戸田市の緑が貧弱かを理解することができた。回ったエリアが倉庫、工場系用途地域が多いエリアや、高速道路沿いなどだったことを割り引いても、戸田市は街路樹の整備にこれまで力を入れてこなかったという確信を得た。

 そこで、戸田市の「戸田市緑の基本計画」とその改訂版を読んだ。現状と課題、目指す方向性が書かれている。ここで一つ一つ紹介はしないが、いくつかを以下に紹介する。

 「急激なマンション開発の進行は、土地利用の混在や無秩序で魅力に乏しい景観など生活環境へのマイナス面も引き起こしています。特に近年、工場や倉庫の集積する地区にもマンションが建設されたり、住宅地内に大型店の駐車場が進出する例が見られるなど、無秩序に土地利用が混在し、大気汚染や騒音、交通の安全などの点で、住民の生活環境、事業者の事業環境双方にとって問題が生じています」

 「若年層やファミリー層が定住したいと思う環境が十分に整っていないのではないかという問題点が浮かび上がってきます」

 「市内の河川は全体に透明度が低く、悪臭を放つものもあります」

 「平成12(2000)年には783本が指定されていた保存樹木が、平成18(2006)年に行った保存樹木の再調査の結果、585本に減っているように、残された農地、樹林地の保全は困難をきわめています」

  
樹木が1本もないから街路灯も異様に見える              笹目付近(殺伐たる風景だ)

◇    ◆    ◇

 戸田市の市民一人当たりの公園面積は決して狭くない。市民一人当たり11.2uで、埼玉県の平均を上回るという。しかし、市の「まちなかの緑の状況に関する市民調査」によると、緑の満足度は43.1%しかない。

 これだけではよく分からないだろうが、記者が住む多摩市と比較してみよう。多摩市の一人当たり公園面積は13.5uだ。都内トップクラスというのはよく知られている。しかし、戸田市と比較するとわずか2.3uしかない。

 戸田市と決定的に異なるのは緑環境に対する満足度だ。多摩市でも市民に対する調査を行っているが、それによると「良い」と「ややよい」をあわせると96.4%にも達している。同じ調査ではないので単純比較はできないにしろ、これほど差が出るのはなぜか。これは行政担当者は考えないといけない。数を増やすことだけを考えてもよくならないというのは素人でも分かる。量とともに必要なのは質だ。必要なところに不必要なものを植えれば、それは逆効果となる。

 一つ二つ、指摘したい。戸田市の公園緑地課に電話をして、街路樹の整備状況について聞こうとした。最初に出た担当者はまったく話が通じなかった。市内に何本の街路樹が植えられているか維持管理費にどれぐらいの予算が計上されているかまったく把握していなかった。街路樹の樹種についても「ハナミズキ」「アカシア」の2本しか出てこなかった。担当部署のスタッフがこれでは、市民の満足度が上がるはずがないと思った。(多摩市は街路樹が約1万本で約50種の樹木の名前と本数、年間の維持管理費=樹木1本につき約1万円という数字もホームページで公開している)

 戸田市は、市民の緑の満足度が上がらないことについて、次のように基本計画に書いている。「今回行った市民意識調査の回答率がわずか20.7%であり、『環境基本計画』を知っている人はその中の1割にも満たない状況であったという事実を踏まえるならば、行政側では、市民が知りたい情報が何であるのかを的確に把握する方法としくみが十分に機能しておらず、市民に満足のいく情報提供になっていないのが実状のようです」

 その原因は、先の公園緑地課の職員を例に出せば十分だ。職員そのものが街路樹についてほとんど何も知らずして、どうして市民の知りたい情報を把握することができるのか。「市民に満足のいく情報提供になっていないのが実状のようです」とあるのも、当事者意識がないことを自ら白状しているようなものだ。

 記者は昨日、「戸田市のイメージは倉庫街のグレー」と書いた。市民には失礼かも知れないが、このようにレベルの低い公園緑地課を何とかしないとポテンシャルはあがらないと断定できる。記者は専門家ではないが、成城、田園調布、原宿、外苑前、ときわ台(多摩センターは入らないか)などを例にするまでもなく街のポテンシャルと緑・街路樹の整備状況は相関関係にあるはずだ。

 もう一つ。戸田市の市街地の多くは、区画整理事業によって整備されているという。全国トップレベルだという。区画整理事業は土地神話を前提にした開発手法で、かつて「都市計画の母」と言われた。バブル崩壊後はご存知の通り、この手法はほとんど破綻した。公的機関による区画整理ならともかく、民間による区画整理では緑・街路樹どころではないのも納得できる。

     
東京外環自動車道路沿いの緩衝樹木(左は坊主にされたクス、中央は樹形が悪いクス、右はかなり強剪定されたケヤキ)

  
戸田市の街路樹とは対照的な都庁付近のケヤキ・クスの街路樹(比較するのは酷だが、ケヤキは剪定した形跡がほとんどない) 

(牧田 司記者 2012年3月13日)