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「日本は大丈夫。江戸の遺伝子が受け継がれている」石川英輔氏

旭化成ホームズ「くらしノベーションフォーラム」


江戸文化について講演する石川英輔氏

 旭化成ホームズ「くらしノベーション研究所」は3月5日、江戸時代の文化研究者で作家の石川英輔氏(78)を講師に招き第7回目の「くらしノベーションフォーラム」を開いた。同フォーラムは、メディアの活動の一助となることを目的に年4回程度開催しているもので、現代社会の「暮らし」のあり方をテーマに講演&懇談会を行っている。

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 今回の石川先生の講演は一日千秋の思いで待っていた。石川先生は78歳。記者は先生より16歳も年少だが、三重の寒村の出身だ。江戸時代はともかく薪炭、囲炉裏の生活を身をもって経験している。1升ビンを下げてしょうゆも買ったし、古釘を拾った。蒔割りもしたし火吹き竹で風呂も沸かした。みんな貧しかったが、現在ほど格差社会ではなかった。地域全体で社会的弱者を労わった。全て村全体で自立できる社会があった。

 業界紙の記者としては、一般の読者からは「ちょうちん記事」といわれるが、エネルギーをほとんど消費しない「ちょうちんがなにが悪い」と居直り、月に原稿用紙にして200〜300枚の記事を書いている。先生と同様、薪炭の時代に逆戻りするのは真っ平ごめんだが、CO2を撒き散らす「車を捨てれば、あと6畳広いマンションが買える」と30年間叫び続けているから、少しは省エネに貢献しているのではないか。

 先生の講演は、紙を無駄にしてはいけないと、もらった A4判の封筒にびっしりメモしたから書こうと思えば書けるが、作家先生の話したことをそのまま紹介するのは失礼だ。話されたことは著作に書かれていることがほとんどだろうから、ぜひ、著作物を買って読んでいただきたい(記者は古本屋で買ったが)。

 おそらく先生の言いたいのは、「化石燃料に大きく依存した現在の生活は間違っている−そう思うことが第一歩」「私たちは『これからどうなるのだろう』という受身の立場ではなく、日本をどんな国にしたいかを自分自身の責任で考えながら、『そのためにはどうするべきか』と考える立場におかれている。未来は、他人ごとではない」(講談社文庫「大江戸えねるぎー事情」)ではないか。

 先生は講演の最後に、化石燃料漬けの社会の中で、身も心も病んでいるわれわれに対して「大丈夫。われわれの身体には、エネルギー消費ゼロの江戸時代の遺伝子が受け継がれている。どんなに困難な時代になっても乗り切れる」とエールを送った。


封筒の裏に書いたメモ。加齢化とパソコンに頼りきっていることから書き取り力がはなはだしく退化し、「玄米」の「玄」が思い出せなかった。結局、「原稿」の「原」にした(石川先生も20数年前にワープロに変えたという)

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 先生には懇談会の場で個人的なこともたくさん聞いた。15年前に奥さんに亡くなられ、大きな屋敷に一人住まいだ。自宅の菜園で野菜を作り、玄米とイワシ、シシャモなどの江戸時代そのものの生活をされている。「肉なんか年に1、2度しか食べない。嫌いじゃない。奢ってくれるのなら喜んで食べる」という。車は捨てる気がないようだが、携帯を持たず、掃除機も使わず、ネットは遮断したという。そんな生活でも「風邪などひいたことがない。虫歯は1本もない」という。背筋はピンと伸びている。

 先生に一番聞きたかったのは、「自宅はまるで個人図書館だよ」と語ったように数千冊に達する江戸時代の膨大な書籍や版画をどう保存しているかだった。

 ところが、そんな心配を先生は吹っ飛ばした。講演中、発行が1778年というから234年も昔の書物を持ち出し、ゴミを捨てるかのようにその本をしわくちゃに丸め揉みねじった。記者は、マジックか気が狂ったかと思った。驚いたことに、その本は全然壊れなかったどころか、すぐもとの状態に戻った。「今の紙(用紙)は20年でだめになる(ちょっと言い過ぎでは)。江戸の本はこんなにしなやかで強い。濡らさなければ大丈夫」と先生は得意顔で話した。

 先生の蔵書には、「春色梅児誉美(しゅんしょくうめごよみ)」(為永春水)「偐紫田舎源氏(にせむらさきいなかげんじ)」(柳亭種彦、歌川国貞)山東京伝、柳亭種彦、菱川師宣、北斎、渡辺崋山、式亭三馬 … 高校の教科書に出てくる作家、画家などの作品がたくさんある。


隣り合わせで座った池田副社長と石川氏


「寺子屋の教科書だよ、ほら、5×8と読めるだろ」と女性記者に説明する石川氏 (江戸時代にはアラビア数字はなかったと思うが、この女性記者はちゃんと読めたのだろうか。それとも5は「五」で、8は「八」だったのだろうか。掛け算の九九を江戸時代の寺子屋で教えていたというのはすごい)

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 石川先生を講師に呼んだのは、同研究所の村松浩氏らのようだが、何と、毎回挨拶のため出席する同社副社長マーケティング本部長・池田英輔氏と石川先生の名前が一緒だった。池田氏も「同じ名前で親近感を覚える」と語り、石川先生も「英輔の名前は珍しい」と興奮していた。


ご満悦のW英輔。池田副社長は石川氏からサイン入りの新刊本をプレゼントされた(左が石川氏、右が池田氏)

(牧田 司記者 2012年3月7日)