RBA HOME> RBAタイムズHOME >2011年 > 「国土が崩壊しズタズタ 文化の解体も始まった」 東京農大・宮林茂幸教授 宮林教授 |
宮林氏はまず、「この教室は120年の歴史がある古い校舎で、近く取り壊される。ここで講義を行うのも最後になる。地域再生研究部会のキックオフフォーラムが、この教室での最後の講義というのもまたふさわしいのではないか」と語りだし、「石油本位制が世の中をおかしくした。1992年に地球サミットが行われてから20年が経過するが、この 20年間にわれわれは何をやってきたのかが問われる。100年後、200年後の将来を見据えた生き方を見つけないといけない」と参加者に問いかけた。 次いで、問題の解決の糸口として「故郷」を例にあげた。「うさぎ追いし かの山」の文部省唱歌のことで、「昔は故郷が問題を解決してくれた。国民の75%は農民だった。いまは80%の人が都市に住んでおり、故郷を失った。今こそ経済至上主義から環境資本主義に転換し、故郷を取り戻し、次代に引き継がなければならない」と訴えた。 続いて、わが国の森林の深刻な現状を報告。「1980年にはスギ丸太材は1立方メートル当たり39,600円だったのが、2009年には10,900円にまで値下がりし、国内で供給される木材の約72%が輸入材になっている。どうしてこのような状況になったのか、いろいろ理由があるが、ここでは紹介できない。うち(農大)に来てほしい」と笑わせながら、「森林の荒廃はもはや放置できない。国土が崩壊しズタズタ状態。文化の解体も始まった。危機的状況ではあるが、森林自体は植林事業を積極的に行ってきた結果、歴史的に見ても今がもっとも充実している時期だ。都市問題と農村問題は一緒だという視点が大事で、経団連を中心に企業がCSRの一環として取り組むようになってきた。都市と農村をつなぐマッチングシステムもあり、新しいグラウンドデザインを創造することは十分可能だ」と締めくくった。 ◇ ◆ ◇ フォーラムの事例報告者として登壇した山梨県小菅村のNPO法人多摩源流こすげ事務局長・望月徹男氏は、「人口はわずか800人の小さな村ですが、東京農大や支援センターの支援などで『多摩源流』をキーワードに村づくりを行っており、源流祭りには 1 万人以上の人出で賑わう」と報告した。 また、長野県信濃町と同支援センターで締結した「企業のふるさとづくり協定」に基づいてこれまで5回の「ふるさとづくりツアー」を実施し、社員食堂の食材を同町から調達している kmホールディングス取締役・下山慶太氏は「『タクシー会社のうちがどうしてセラピーなの?』『何のメリットがあるの』など疑問や当惑する社員も多いが、体験して帰る時には『もう帰りたくない』という人も出る。いま、サラリーマンのうつ病など疾病が問題になっていますが、当社の社員の疾患は2年前と比べ2分の1から3分の1へ減っています。もちろん、この『ふるさとづくりツアー』だけでなくいろいろな取り組みを行っているからでもありますが、森林の果たす役割に驚いています」と衝撃的な報告を行った。 さらに、輪島市三井町で、東京から移住して里山の保護や地域で生産される様々な商品の販路拡大に貢献している地元デザイナー・萩のゆきさんの報告に参加者は一同に感嘆の声を上げていた。 ◇ ◆ ◇ 宮林氏は、自らが代表を務める山村再生支援センターに対する政府の補助金が事業仕分けで打ち切りになったことについても触れ、「20億円の予算が付いていたが『やりすぎ』だといわれた。本物がもっとも求められることなのに、政府は何をやっているのかさっぱり分からない」と批判した。
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(牧田 司 記者 2011年3月1日) |