奇跡の街 ポラス「パレットコート七光台」 現場監督を務めるのは2人の若い女性 左から渡部さんと長正さん |
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配属を知らされ「ショック受けた」長正裕美さん(24) 「やるしかない」覚悟決めた渡部まりやさん(24) 東武野田線七光台駅から徒歩11分、千葉県野田市七光台駅西土地区画整理事業地内にポラスグループが分譲中の全872区画の戸建て団地「パレットコート七光台」がある。今から6年前の2004年4月に1期191戸が分譲開始されて以来、コンスタントに年間約150戸が販売されている。1区画当たり50坪以上の広い敷地と景観や安全性などに配慮した街づくりが評価された。この販売スピードは、この厳しい時代を考えれば奇跡といえる。
◇ ◆ ◇ この奇跡の街の戸建て現場監督を務めるのが入社2年目の長正裕美さん(24)と渡部まりやさん(24)だ。 女性の現場監督は珍しくなくなってきたとはいえ、まだまだ少数派で体力的に劣る女性にとってはきついことに変わりはない。同社もかつて数度、女性を現場監督に配属したことがあるが、思うようにいかなかった。大工さんなどとの意思疎通が図れず、マスコット%Iな存在になってしまったからだ。 今回は、同社にとっても失敗は許されないチャレンジでもあった。この年は、サブプライムローン問題の浮上がきっかけで市場が激変、のちに破たんした日本綜合地所の内定取り消しが問題になった年でもあった。新卒者も市況の厳しさを肌で感じていたのは間違いない。 長正さんは福島県出身で、工学部建築学科卒。渡部さんは群馬県出身で、人と人の関係を多様な角度から研究する人間関係学部を卒業。それぞれ戸建ての設計、デザインを担当したくて同社に入社した。長正さんは建築家の安藤忠雄氏のファンでもある。 研修を終えた4月半ば、約40人の女性新卒者の中から2人だけ現場監督(木造住宅事業部工事部建設課)を命じられた。長正さんはその場で大きなショックを受けた。「どんな仕事かはっきりは分かりませんでしたが、やはり男性の職場というイメージがすごくあった」 一方、長正さんの隣りで配属を知らされた渡部さんは「ビックリして声も出なかった。やるしかないと思った」 配属を決めた同社としては、もちろん二人の将来性を考え「鉄は熱いうちに打て」という親心≠ゥら判断したことだ。 それから2年。少しずつ仕事を覚えた。上司の同課係長・栗原正樹氏(35歳)から「仕事ぶりは太鼓判が押せる」ほどの評価を得られるまでに成長した。2人は合計16棟、大工さんの数にして50〜60人の作業の指揮をとっている。2人とも「私1人だったら続けられたかどうか」とも語った。(記者は、2人を同社の記念碑的な戸建て団地の仕事に就かせたのには意味があると見ている) 「使いやすさがあってのデザイン」長正さん 「お客さまの声を反映した仕事をしたい」渡部さん 長正さんは、「大工さんたちはみんな年上。自分の父親より年配の方もいる。そんな人たちと接することの難しさと、クレーム対応の難しさを学んだ。使いやすさ、住みやすさがあっての間取り、デザインであることも学んだ」という。 渡部さんは、「お客さまからは『実はこういうものが欲しかった』『窓はどうして細長いの。どうして大きくしない』などとよく言われますが、そのようなお客さまの声を反映できる仕事がしたい」と語っている。 2人がいま目指しているのは、今年行われる一級建築士の資格試験に合格することだ。休みの日は猛勉強をしているとか。 「この部門に光を当てたい。女性管理職がいてもいい」栗原氏
栗原氏は、同社の女性現場監督のあり方や2人について次のように語っている。 「過去にも数回、女性の現場監督の配属を受け入れたことがある。いずれもマスコット扱いになりうまくいかなかった。今回は、そのような扱いにならないようしっかり社員・職人共に教育している。体力面ではハンディはあるが、男性と特別な差別は行っていない。掲示物など男性にはない心遣いも見られ、2人の前向きな姿勢は随所に見て取れる。 2人は将来設計や企画の仕事に携わりたいとのことだが、そうなった場合、この現場監督の経験が生きてくる。3年がメドだ。自他共に認められるかどうか。私は2人を離したくないし、この部門で女性の管理職が出てもいいと思っている。現場監督は、やって当たり前の世界。いわば縁の下の力持ち。この部門にスポットライトを当てたい」 野球の監督か指揮者でもあるようだが… 現場監督、しかも女性に話を聞くのは初めての経験だった。そもそも現場監督がどのような仕事かも全然知らなかった。長正さんが配属を知らされたときショックを受けた気持ちもよく分かる。現場には女性専用のトイレなどないのだろうし、化粧もできないだろうし、スカートもはけない。2人に爪を見せてもらったが、きっちりと短く切りそろえてあった。 2人や栗原氏の話を聞くと野球の監督でもあり、オーケストラの指揮者のようでもある。その一方で、「3K」「縁の下の力持ち」「クレーム対応」などの言葉を聞くと、華やかな部分だけではない、苦労も少なくないことがわかった。 これらは、記者の偏見や取材不足というより無知によるものだろうが、いずれ機会があったらもう一度しっかり取材したい。 |
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(牧田 司 記者 2010年2月9日) |