国政の喫緊の課題――地方の再生 観光都市・伊勢の再生はあるか @
|
||
冬柴鉄三国土交通大臣は今年の年頭所感で、真っ先に「地方の再生が国政の喫緊の課題」とし、「地方と都会がともに支え合う『共生』の考え方に立ち、地方が自ら考え、実行できる仕組みを考えていくことが大切」と述べた。不動産協会・岩沙弘道理事長(三井不動産社長)も新年の賀詞交歓会で5つの業界課題の最初に「都市再生の継続と地方の再生」を掲げた。都市と地方の格差の解消、地方の再生・活性化は今年最大の政策課題だ。疲弊する地方都市の1例として、記者のふるさとでもある三重県伊勢市を数回に分けて取り上げる。 頓挫した再開発 寂れる一方の駅前商店街
バブル前、この明倫商店街と老朽化した観光文化会館を一体とした再開発計画が持ち上がった。総工費約360億円をかけて、近鉄をキーテナントに百貨店、ホテルなどを備えた地上14階建ての複合ビルを建設するというものだ。平成3年に再開発の都市計画決定がなされ、同4年には再開発組合も設立された。 ところが、バブル崩壊で近鉄が出店を取りやめたことで計画は頓挫。同13年、全国で初めてという都市計画そのものが廃止された。この再開発中止をきっかけに明倫商店街の閉店が相次ぐ。最悪期には54軒のうち半数以下の20軒にまで減少した。 大型スーパー・百貨店の撤退から10年前後
もう一つ、市内にはJRと近鉄が相互乗り入れしている伊勢市駅近くに市内最大級の商店街「銀座新道商店街」がある。総延長約600メートルにものぼるアーケード街だ。店舗数は約140。しかし、ここもバブル崩壊後、閉店が増え、現在は95店舗に減っている。 伊勢市駅前の一等地には、かつて大型スーパー「ジャスコ伊勢店」と「三交百貨店」があった。ところがジャスコは平成8年に、三交百貨店は同13年にそれぞれ閉店した。その後、ジャスコの建物は取り壊されたが、再開発のうわさはあるものの具体的な計画はない。塀囲いがされたままだ。 一方の三交百貨店も現段階では具体的な再開発の計画はない。空家になったままだ。 1軒もないシティホテル 消えた書店
信じ難いことに、観光都市≠謳う伊勢市にはホテルがない。ビジネスホテルや老舗旅館はあるが、いわゆるシティホテルは1軒もない。 信じ難いことはまだある。書店が姿を消したのだ。かつて市内のいたるところに書店はあったが、いまは徒歩圏に1軒もない。唯一、銀座新道商店街に残っている書店は、高校入試の受験参考書のみを販売しているに過ぎない。この書店すら約1000人の嘆願署名によって残された書店だ。 大型スーパーや店舗は車利用の郊外へほとんど移転した。中心部の商店は夜7時ともなるとほとんど閉まり、薄暗い街になる。歓楽街も客はまばらだ。 年間700万人の神宮参拝客 伊勢を素通り 疲弊する伊勢の経済をデータで見てみよう。 伊勢市の宇治山田駅は年間700万人もの参拝客が訪れる伊勢神宮内宮・外宮の玄関口だし、伊勢市駅は外宮の玄関口だ。にもかかわらず、市内に宿泊する観光客は極めて少ない。 平成18年度の観光客宿泊数は約23万人(二見など除く)で、隣の鳥羽市の約211万人の10分の1だし、その先の志摩市の約124万人などと比べてもはるかに少ない。つまり、伊勢神宮などへの観光客は、伊勢市を素通りして鳥羽・志摩方面へ向うという図式だ。 市の平成17年の人口は約13万人。同7年の約14万人と比べ微減。人口ピラミッドは昭和50年代の富士山型から、現在のわが国の典型的な形である壺型になっている。65歳以上の高齢者人口比率も年々高まり、18年度では23.3%になっている。三重県と全国平均の約20%と比べても高い。中心市街地の人口減少率も高齢化比率も市の平均値を下回っている。 小売業の販売額は8年間で3割減少 平成14年度の旧伊勢市の小売業店舗数、売り場面積は平成6年度と比べ20%近く減少しており、年間販売額は30%以上落ち込んでいる。 市の財政も、平成17年度で見ると、一般会計の歳入約465億円のうち市税の占める割合は約32%でしかない。公債費比率は12.2%で、警戒を要する比率だ。 公示地価は5年間で5割下落 地価下落の歯止めはかかっていない。平成19年度の地価公示によると、伊勢市駅に近い商業地では坪約40万円で、5年前と比べ半値になっている。宇治山田駅に近い商業地でも5年間で4割以上の下落となっている。最近の取引事例でも、地価公示より3割ぐらい低い値段で取引されている。
|
||
(牧田 司記者 1月15日) |
||
▲ページトップへ戻る |