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2014/04/23(水) 16:05

近鉄不・京阪電鉄不・長谷工コーポ 実利を取る戦法か「王子飛鳥山」

投稿者:  牧田司

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「王子飛鳥山ザ・ファーストタワー&レジデンス」完成予想図

 近鉄不動産(事業比率45%)、京阪電鉄不動産(同45%)、長谷工コーポレーション(同10%)の3社は4月22日、JR京浜東北線王子駅から徒歩1分の「王子飛鳥山ザ・ファーストタワー&レジデンス」のプロジェクト説明会&モデルルーム見学会を行なった。

 物件は、京浜東北線王子(南口)駅から徒歩1分、または東京メトロ南北線王子駅から徒歩4分、北区堀船1丁目に位置する29階建てタワー棟230戸、7階建てレジデンス棟55戸の合計285戸の規模。専有面積は35.02~86.00㎡、価格は未定。竣工予定はタワー棟が平成28年1月上旬、レジデンス棟が平成26年11月中旬。販売代理は野村不動産アーバンネット、長谷工アーベスト。設計・施工は長谷工コーポレーション。

 現地は、王子駅前の一等地。線路を挟んだ対面には飛鳥山公園が広がる。建物は制震工法を採用。南向き中心とせず、南西・南東向き住戸を多くするよう配棟し、角の部分を雁行させることで角住戸比率を72%に高めているのが特徴で、天井高は約2,700ミリ。

 これまで2,200件の反響を集め、5月3日からモデルルームを一般公開する。1期分譲は120戸の予定。

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飛鳥山公園の桜

◇     ◆   ◇

 この数年、一部を除く首都圏の電鉄(系)会社はマンションや戸建て事業に力を入れているが、関西の電鉄会社も首都圏市場に参戦、攻勢を強めている。この「王子飛鳥山」は、大手の独壇場になっている「駅前のタワーマンション」に大きな楔を打ち込む注目マンションだ。

 一等地であるのは間違いない。広告表示は「駅から徒歩1分」だが、20mだから15秒だ。しかも、駅の反対側の20mには飛鳥山公園。これほど恵まれたマンションはまずない。問題はいったいいくらになるか、これが最大の関心事だ。記者は坪単価が300万円を超えるかどうかをずっと考えた。

 記者の記憶では、ここ数年、北区内では野村不動産が2010年に分譲した「プラウドシティ赤羽」の坪265万円と、やはり野村不動産が2012年に分譲した「プラウド王子本町」の坪275万円が最高値だ。

 立地条件からしてこの2物件を上回るのは確実だし、設備仕様をあげ高値挑戦する手もある。しかし、坪300万円超、つまり70㎡台で6,000万円を大きく超えても売れる購買力が北区にあるとはどうしても思えない。近鉄も京阪も長谷工も商才に長けた大阪の会社だ。そんな冒険はしないと読んだ。「北区最高値」の名声より、確実に実利を取るとみた。そこで導き出した単価は290万円だ。

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飛鳥山公園

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 モデルルームを見て、記者の予想が的中すると確信した。記者発表会で誰も手を挙げなかったら質問しようと思っていたが、他の記者が聞いてくれた。坪単価はまだ決まっていないらしく、関係者は明言しなかった。

 ここで登場したのが、近鉄不動産常務取締役首都圏事業本部長・田中孝昭氏だ。田中常務は、のらりくらり記者団の質問をはぐらかすような首都圏のデベロッパー幹部ではなかった。スタッフにレジデンス棟とタワー棟の価格差を語らせた。 

 田中常務は現在のマンション市場にも言及。「首都圏は建築費の上昇で用地取得が難しくなってきた。大阪も名古屋も同様。利益を落とさざるを得なくなってきた。関西では頭を取っていくが(入札に負けない)、その他のエリアでは他の大手とバーターで共同事業を推進していく」と語った。

 リップサービスも忘れない。「このマンションは取得が半年遅れていたら、間違いなく坪300万円を超える。他のデベロッパーには頑張ってくれ(単価を引き上げてほしいという意味)と言われているが…まあ、竣工までに売れればいい。これから新価格マンションが続々出てくるし、秋には新々価格も供給されるはず」と、真っ向勝負のストレートを投げた。首都圏デベロッパーの記者発表会ではまずこんなやりとりは聞けない。

 発表会の終了後、記者は食い下がった。ストレートで球を投げ返した。「常務、平均では坪300万円を超えないということですよね」という質問に、田中常務は「このマンションは坪単価では語れない。飛鳥山が望める住戸とそうでない住戸を平均して価値を量るのは適当ではない」と答えた。名答だ。まさかここで変化球を投げられるとは夢にも思わなかった。相手は役者が2枚も3枚も上だった。

 この質疑応答・やりとりで、読者の皆さんは売り値がいくらになるか想像できるはずだ。最大の専有面積も86㎡に抑えていることでも、販売戦略が読み取れる。

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モデルルーム リビング

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 田中常務は状況の変化を読みながら積極果敢に攻める姿勢を見せたが、京阪電鉄不動産取締役首都圏事業部長・定井和重氏も負けてはいない。

 首都圏での展開について、「近鉄さんと比べたら首都圏は経験が浅いが、今回、近鉄さん長谷工さんと組ませていただいたような取り組みや、第一次取得層向けと都心のコンパクトでアグレッシブに展開していく。今回のようなJVも成長戦略の一つ。積極的にチャレンジしていく」と、意欲を見せた。

 恐るべし、関西の電鉄系デベロッパー。阪急不動産も「ジオ」を積極展開しているし、名古屋圏の名鉄不動産も三交不動産も厳しいときもコンスタントに供給してきた。「大阪都構想」は雲散霧消するか淀川の芥になりそうな気配だが、関西の電鉄系デベロッパーが手を組んだら脅威だ。首都圏でも「頭を取られる」かもしれない。

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モデルルーム ベッドルーム

赤羽の一等地 野村不動産「プラウドシティ赤羽」(2010/10/14)