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原状回復のルール変えれば普及する賃貸カスタマイズサービス

伊藤忠都市開発 「西ヶ原」でモデルルーム見学会


「アルティス西ヶ原パークヒルズ」モデルルーム

 伊藤忠都市開発は1月11日、建築デザイン集団「blue studio」とコラボレーションした賃貸カスタマイズサービスのモデルルームを同社が建築した「アルティス西ヶ原パークヒルズ」で報道陣向けに公開した。

 カスタマイズサービスを導入することになった経緯について、同社総合開発事業部賃貸住宅事業第二課課長・亀山直人氏は、「敷地はUR都市機構から期間70年の定借で借り、建物は2年前に竣工した。全357戸で稼働率は約75%。面積が狭い1LDKはほぼ満室だが、ドライエリアのある特殊住戸のメゾネットがやや苦戦しており、この半年間、対応を考えてきた。これからは建物を建てれば入居していただける時代ではないと判断して、このような提案となった」と話した。


大島氏

 blue studio 専務取締役クリエイティブディレクター・大島芳彦氏は、「リノベーションは床と壁と天井を変えると大きく変える。カスタマイズの重要なファクターだ。ロケーションを考えて、私自身が住んだことがあるロンドンの郊外のフラットをイメージして一気通貫の提案を行なった。約400種の輸入クロスの見本の中から好きなクロスを選んでいただき、照明なども相談しながら理想の空間を引き出したい」と語った。

 また、ゲストとして招かれたリクルート SUUMO編集長・池本洋一氏は、「カスタマイズニーズについて1年間検討してきた。欧米では DIY は当たり前で、入居者が好きなように模様替えが行なわれているが、わが国では原状回復義務が大きなハードルになってリフォームをためらっているのが原因だ。この問題をクリアすれば、わが国でもカスタマイズサービスは普及するはず」と述べた。

  「アルティス西ヶ原パークヒルズ」は、都営三田線西巣鴨駅から徒歩8分の全357戸。専用面積は約37〜71u。カスタマイズサービスの対象となるのは約67uのメゾネットタイプなどで、家賃は約21万円と25万円。

 入居者は好きなクロスやカーペットを選べるだけでなく、 blue studioのスタッフと相談しながら家具などをレイアウトできる。費用はオーナーが負担するため無料。構造躯体などを大幅に変更したり毀損した場合などを除き、退去時の原状回復義務はない。

  

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 取材をして、これは普及すると直感した。分譲では、あらゆる設備仕様がメニュー化されており、有償も含めれば数十どころか 100 カ所を超えるメニューが用意されているはずだ。賃貸では入居者の意向などほとんど無視されているのが現状のようだ。基本性能、設備仕様も分譲より数段劣るのは言うまでもない。そのうえ、礼金、更新料、原状回復費用など合理的説明ができない家賃≠負担させられる。

 欧米では賃貸居住者の平均居住年数は7〜9年だが、わが国では4〜5年と短いのは、住宅に対する文化の違いもあるが、基本性能・設備仕様が分譲より劣り、様々な不合理な賃貸契約書が背景にあるのは間違いない。

 しかし、亀山氏が語ったように、絶対的な住宅の量が満たされている現在、利回りを最優先した賃貸経営は成り立たなくなる。一度空きが発生したらなかなか埋まらなくなる。それよりも、入居者のニーズ、要求を積極的に取り込むほうが長く住んでもらえ、経営も安定するはずだ。

 模様替えに伴う原状回復規定のルールを見直せは、一気にカスタマイズサービスは普及するのではないか。もちろん、これは分譲にも応用できる。 blue studioの大島氏によると、同社はこれまで年間約40件、トータルで約300件の実績があるという。

(牧田 司記者 2012年1月12日)