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マンション寡占化進行し 大手各社の商品企画開発競争も激化

 首都圏マンション市場は、大手デベロッパーによる寡占化と商品企画開発競争がかつてないほど激化している。記者は、マンション市場のマクロデータは持ち合わせていないが、民間調査機関などのデータなどによると、供給戸数は三井不動産レジデンシャル、三菱地所レジデンス、住友不動産、野村不動産、大京の供給上位5社で全体の40%ぐらいを占め、供給上位10社では50%ぐらいを占めるのではないか。

 市場の寡占化は、言うまでもなくリーマン・ショックによる中堅マンションデベロッパーの退場≠ノよるもので、リーマン・ショック前なら、これら5社の供給シェアは30%ぐらいではなかったか。

 今後も大手による寡占化は継続すると見た。一部元気≠取り戻しつつある中堅デベロッパーもあるが、絶対数そのものが激減しており、大手と中小の商品企画力は離れるばかりだ。管理会社を通じての専有部サービスにも力を入れており、顧客の囲い込みは激しさを増す。中小は、大手との競合を回避してすき間≠埋める方向に向かわざるを得ないのではないか。

 その大手の商品企画について最近の動きを整理してみる。

 まず、三井不動産レジデンシャル。同社は昨年末、地震による家具の転倒を防止する金物の開発とコンクリート壁・間仕切壁の下地処理を開発したと発表した。震災後は、他のデベロッパーも転倒防止策を施しているが、三井不動産レジデンシャルほど徹底していない。同社はまた、年明けに同社の基幹ブランドである「パークホームズ」の基本性能・設備機器を一新すると発表。東京ミッドタウンでは取り組みをアピールするイベントも行なった。

 「パークホームズ」の設備機器などの充実は、ここ数年進めてきたものだが、一般ユーザーにまで浸透していなかったと記者は思っている。今後、20数万人といわれる友の会組織を通じて周知徹底を図るはずで、夏ごろには新機軸を盛りこんだ物件も出揃う。同業他社にとって脅威になるはずだ。

 三菱地所レジデンスはどうか。同社も昨年、業界注視の「ザ・パークハウス晴海タワーズ クロノレジデンス」の物件ナビゲーターにプロゴルファーの石川遼選手を起用するとともに、新しいマンション災害対策基準を発表した。さらに、年末にはSIシステムを採用して1住戸に対して8つのプランが選択できる「スマートセレクト構想」を茅ヶ崎のマンションに初採用することを打ち出した。

 「間取り変更プラン」は、今年に入って住友不動産が発表したため、この「スマートセレクト構想」はかすんでしまった感があるが、間違いなく茅ヶ崎だけでなく他のマンションでも採用に踏み切るはずだ。住友不動産は最大で3プランというから、8プランの同社はそれだけ選択の幅は広い優位性がある。

 同社はまた、先にマンションの設備機器の保証期間を従来の2年間から業界初と思われる5年保証に延長した。目立たない新サービスかも知れないが、マンションに居住したことのある人にとってはありがたい制度になるのは間違いない。

 住友不動産はどうか。同社は昨年11月、首都圏のターミナル5駅の自社ビルにマンションの常設の「総合マンションギャラリー」オープンさせた。5カ所の延床面積は約 5,000坪で、他社ビルを賃借したら年間10億円はかかりそうな思い切った策だ。年間4,000戸を分譲することを考えたら、物件ごとのモデルルームを設置する経費とをはかりにかけたら、常設モデルのほうが得策という結論に達したのだろう。

 さらに今年に入って、セミオーダーマンションの「カスタムオーダーマンション」システムを導入すると発表。コストアップを抑えながら、水回り部分にも対応するというもので、単価水準の高いエリアを中心に年間2,000戸近くに採用するという。売りづらい7,000万円から1億円前後の顧客のニーズを吸収しようという戦略だ。

 野村不動産はどうか。売上高はこれら3社に大きく水を開けられているが、ことマンションに限って言えば、「プラウド」はどこにも負けないトップブランドに成長した。同社が財閥系3社に負けないのは、ひと言で言えば取り組み姿勢の違いだ。情報収集力や分析力に長けているからだろうが、市場に適切に対応し、ユーザーニーズを巧みに取り込む商品企画開発力が図抜けている。

 これは売上高に占める分譲事業の比率が3社と比べ圧倒的に高いことと無関係ではない。同社の平成23年3月期の住宅事業の売上高は2,861億円で、売上高4,809億円に占める割合は59.5%だ。これに対して三井不動産は28.8%(売上高1兆4,052億円、分譲4,052億円)、三菱地所は34.0%(売上高9,884億円、分譲3,365億円)、住友不動産は32.2%(売上高7,447億円、分譲2,397億円)だ。

 同社は賃貸部門にも力を入れているが、まだまだ分譲がリードしないといけない売り上げ構成になっている。昨年、「プラウド」に加え新ブランド「OHANA(オハナ)」を立ち上げたように、「プラウド」で吸収できなかった、本来は中堅の地盤だったエリアのニーズも取り込んで一層の拡大を図る。記者はこれは成功すると睨んでいる。三井、三菱、住友とも現段階では郊外・遠隔地での事業展開には及び腰だからた。

 いかに3社が及び腰なのかを三菱地所(旧藤和不動産除く)を例にして紹介しよう。同社がマンション分譲を開始したのは1969年だ。今日まで43年が経過した。信じられないかもしれないが、もっとも単価水準が低い足立区で同社はこれまで1物件しか供給していない。その1物件もリーマン・ショック直前の市場が盛り上がっていたときだ。藤和不動産を合併したことでどうなるか分からないが、供給したことがないエリアに進出するのは勇気がいることだ。

 バブルの絶頂期には首都圏だけで年間約1万戸を供給し、マンションといえば「ライオンズ」の名を全国にとどろかせた大京はどうか。崩壊後は横山修二氏の退陣、銀行主導、金融支援、オリックス傘下入りなどでブランド力は低下し、2007年にはそれまで29年間守り続けていた「供給王」も譲り渡した。

 しかし、かつては同社を追撃していたダイア建設、コスモスイニシア(旧リクルートコスモス)などは大きく後退した。同社のみが供給大手の一角を死守している。このところの商品企画の充実ぶりも目を見張るものがある。坪単価200万円前後でキッチンや洗面のカウンタートップを御影石にしたり、ドアの把っ手を本皮巻きにしたり、カップボードを標準装備したり、玄関、洗面、和室、浴室などの収納力をアップさせたりする「ライオンズ リビング ラボ」の取り組みは間違いなくユーザーに浸透している。足りないのはブランディングだ。大手各社と互角の勝負ができる。

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 この5社に続くのがコスモスイニシア、東京建物、東急不動産、オリックス不動産、伊藤忠都市開発、新日鉄都市開発、大和ハウス工業、タカラレーベン、ナイスあたりで、電鉄会社も首都圏でのマンション供給を増やしている。

 この中で注目されるのは東京建物の「Brillia」だ。同社はこれから横浜プリンスホテル跡地と多摩ニュータウン諏訪団地の建て替えの分譲を開始する。2物件で2,479戸だ。これからCMの露出度も高まる。三菱地所レジデンスの「晴海」が「クロノ(王冠)」なら、「磯子」は「PEAK(頂上)」のティアラだ。「クロノが勝つかティアラが勝つか」の視点で眺めるのもまた楽しい。

 東急不動産の「BRANZ」がこのところなりを潜めているのが淋しいが、ブランディングの再構築を進めているという噂もある。

(牧田 司記者 2012年2月9日)