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中古住宅の二重価格表示解禁は何をもたらすか

 「不動産の表示に関する公正競争規約」(以下、規約)が改正され、これまで「新築後2年以内の未入居の建物」についてのみ認められていた二重価格表示が中古住宅や土地についても認められることになる。二重価格表示とは、ほとんどの商品販売で用いられているように、旧価格と新価格を併記(比較対照価格)をして「値引き販売」していることを分かりやすく伝えるものだ。

 不動産価格については、同じものが他にないという比較することの困難性・特殊性や、実際の取引では「値引き」して契約されるケースが多く、表示価格そのものが実売価格ではないという理由から「不当な二重価格表示」は禁止されていた。「不当」というのは、事実と異なる広告表示を行なったり、同業他社のものより有利と誤認させる表示を行なってはならないという意味だ。

 現行の「規約」では、「新築後2年以内の未入居の建物」については値下げの3カ月以上前から公表された価格で、かつ、値下げ前3カ月以上にわたり実際に販売されていた物件で、旧価格の公表時期と値下げの時期を明示したもの、値下げの時期から6カ月以内に表示するものに限って二重価格表示を認めている。

 この規約を中古住宅や土地についても認めようというのが新制度だ。新制度については現在、消費者庁、公正取引委員会がパブリックコメントを募集しており、その結果を踏まえ実施される。

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 新築住宅の二重価格表示が認められるようになったのは、昭和63年1月19日だ。すでにバブルが発生していたが、中には昭和57〜58年の「不況下の大量供給」でマンションの売れ残りを抱えていたデベロッパーも少なくなかった。それを救済≠キるもので、業界でも大騒ぎになった。新聞1面を使って旧価格と新価格を併記した販売手法がとられた。その後、バブル崩壊を経て、二重価格表示は一般化し、二重価格表示は当たり前となった。

 これを中古住宅にも適用させようということだが、正直にいって記者にはよく分からない。新築も考え方は同じだが、中古住宅の場合、表示価格は売る側の「売りたい価格」であって、ユーザーの「買いたい価格」とすり合わせた上で決定されるものと理解されているはずだ。極端に言えば表示価格は商談の参考価格に過ぎないと解されているのではないか。参考価格に過ぎないものを「値下げ」したからといって、どのような意味を持つのか。「えっ、そんなに下がったの」と消費者を驚かす効果は間違いなくある。ダイコンやニンジン同様、安いものに飛びつく消費者もいるはずだ。

 ただ、一般的に中古住宅の広告表示は、限られたスペースにたくさんの物件が掲載され、物件概要など規約で定められた事項を盛り込まなければならないから、読みづらいものが多い。そのうえ、二重価格表示を行なうとなれば、それだけまた読みづらくなるのだろうか。

 さらに、二重価格表示が頻繁に行なわれるようになったら、市場を映す鏡として弱含みの市場を一層ユーザーに知らしめる役割を果すことになりはしないだろうかという疑問もわく。二重価格表示の乱用≠ェ、市場活性化の目的とは裏腹にさらに市場を冷え込ませる役割を果すこともありうる。当然、その物件は「売れない物件」という印象も与えかねない。

 また、当初は市場価格とかけ離れた価格を掲げ、その後、いかにも大幅値引きした印象を与えるチラシが横行することにはならないのだろうか。そうでなくても、中古住宅の価格の妥当性については消費者から疑問の声が多く寄せられている。個人的には、価格の妥当性を認知・啓蒙させることを考えたほうがいいと思う。青田売りの新築と違って実際にあるものを売るのだから、中古住宅の値付けは優しいはずだ。それがユーザーに理解されていないということを業界全体で考えるべきだろう。

 以下、不動産仲介の現場プロ営業マンの声を紹介する。

 「中古の二重価格の設定をする表示自体に意味を感じない。すり合わせで仲介は決まるためだ。(二重価格表示は)売れ残り物件と認識するユーザーが多いと思う」

 「個人的には何か安売り(叩き売り)をしているイメージがあるのであまり採用したいとは思わない。ただ、任意売却や買換えなど急ぎの案件には有効かと思う。中古市場においては去年と比べて5〜10%ほど相場を下げないと成約にはつながらない状況なので、場合によっては採用してみる価値はあるかもしれない。業者売主の物件なら広告で採用してみたいと思う」

 「目立ってよい点もあるが … 『値下げ』という悪いイメージの副作用もある。どちらでもよいが、選択肢が増えること自体は良いのではないかと思う」

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 今回の規約改正では、「畳数表示基準」も変更され、中古住宅に限り@畳1枚あたりの面積が1.62平方メートルに満たない旨及びA畳1枚の実際の面積を表示することを条件として居室の広さを実際の畳の枚数で表示することを認めていたものを、1畳を1.62平方メートルに換算した畳数の表示に統一する。

 最近のマンションは分からないが、古いマンションには1畳当たり1.62平方メートル未満の和室はたくさんあった。逆に「1畳を1.65平方メートルとして換算」していたデベロッパーもあった。記者は、一般的に1坪(3.3平方メートル)は畳2畳として理解されているから、畳1枚は3.3÷2=1.65平方メートルに換算して表示するべきだと思っている。畳1枚を1.62平方メートルと1.65平方メートルでそれぞれ換算した場合、6畳の和室はA3の紙1枚分の差になる。

(牧田 司記者 2012年1月30日)