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森林の所有者届出制度から4カ月余 売買監視機能はないのか

 森林の土地の所有者届出制度が4月に実施されてから4カ月余が経過した。同制度は森林法が改正されて実施されたもので、個人、法人を問わず、売買や相続などによって森林の土地を新たに取得した場合は、国土利用計画法に基づく土地売買契約の届出を提出している場合を除き、面積の大小に関わらず届出をしなければならないことになっている。届出期限は土地の所有者となった日から90日以内で、取得した土地のある市町村の長に届出をすることになっている。届出には届出者と前所有者の住所氏名、所有者となった年月日、所有権移転の原因、土地の所在場所、登記事項証明書(写しも可)又は土地売買契約書など権利を取得したことが分かる書類の写し、土地の位置を示す図面が必要で、届け出なかった場合や虚偽の届出には10万円以下の過料が課される場合があるとされている。

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 届出の期限は所有者となってから90日以内だから、少なくとも4月に所有権が移転したものはすべて届出がされているはずで、どれぐらい届出されたか興味があったので林野庁に聞いた。ところが、届出を受理するのは市町村の長であるため、同庁では把握していないという。つまり、全国の市町村に問い合わせる以外に何件の届出があったのかその規模はどうなのかを知る方法はないことが分かった。仮に問い合わせても市町村には報告義務も公開義務もないし、「個人情報」の楯に跳ね返されるだけだ。同庁では、各都道府県の協力を得て年に1回ぐらいは届出概要をまとめたいとしているので、こちらに期待するほかない。

 それでもダメモト≠ナ北海道ニセコ町と伊達市に問い合わてみた。幸運にも担当者が対応してくれた。ニセコ町では相続によるものが1件、売買によるものが2件で、規模はいずれも1ha前後だという。伊達市では相続によるものが1件、売買によるものが2件で、「規模などは個人情報もあるので公表できない」とのことだった。双方とも外資ではないようだが、登記簿上の所有者が真正の所有者かどうかはまた別の問題だ。

 この2つの市町を選んだのは、今年5月、林野庁が外国資本による森林売買に関する調査結果をまとめて発表した中に、ニセコ町では取得者がシンガポールなど個人・法人合わせ3件13ha、伊達市では法人(中国=香港)1件81haの事例が紹介されていたからだ。全国では14件157haだから、伊達市の81haは規模では51%に達するし、ニセコ町は隣接する倶知安町と同様、外国資本による森林取得が話題になっているところだ。今回の調査でも、倶知安では英領ヴァージン諸島や英領ケイマン諸島、中国(香港)の法人が5件12.9haを取得していることが報告されている。

 ニセコ町と伊達市合わせて5件だった。双方とも小さな町村だから全国的には数千件の届出があるはずだ。

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 カーボン・オフセットや生物多様性の視点からすれば森林の価値は大きいが、森林そのものを所有する今日的価値はほとんどないという。木材価格も林地価格も一貫して下げ続けており、伐採すればするほど赤字が出るというのが実態だそうだ。にもかかわらず外国資本などが森林を買うのは水資源が狙いだという。森林を売買・所有するには法的規制がほとんどなく、利用する場合も基本的には私的土地所有権、つまり自分の土地をどのように利用しようが勝手という考えが最優先されるのも外資のターゲットにされる要因だという。

 今回の届出制度は、伐採や伐採後の造林の計画の届出をしない場合の造林命令、監督処分を実施する上で森林所有者を把握することが重要であることから設けられたもので、外国資本による山林の買占めを監視するのが目的ではないようだが、せっかくできた制度だ。有効に機能するよう行政は連携してほしい。制度を作っても何もしなければ外資によってわが国の山林が「竹島」のように実行支配されるのではないか。

(牧田 司記者 2012年8月17日)