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建売住宅トップ一建設と2位のアーネストワンが激烈な首位争い

〜建売住宅市場が面白い展開に〜

 分譲マンションや注文住宅についてはマスコミも盛んに書き、その情報が売れる時代だ。ところが、建売住宅は市場規模としてはマンションと同じぐらい(平成23年度の着工戸数はマンションが約12.0万戸、建売住宅が約11.7万戸)あるのにその情報は極めて少ない。

 もっとも市場を掌握していると思われる細田工務店でも首都圏の全供給戸数を捕捉(掌握)しているのはそのうちの10%ぐらいだ。ポラスも同社が商圏とするエリアのデータを掌握しているが、それでも首都圏の20%ぐらいだ。

 つまり、どこも建売住宅の市場を掌握できないから、ごく限られた情報しか伝わらないのだ。その意味でだれも首都圏の建売住宅市場について分かっていないのが現状だ。記者自身も数年前から取材をほとんどやめてしまった。 

 

 別表にまとめた主な会社の建売住宅の販売戸数も20社で約3万戸だ。この数字は全国の数字だから、首都圏に限れば捕捉率はやはり50%ぐらいではないか。残りはハウスメーカーだったり、地場の建売り業者だったりするのだろうが、杳として分からない。

 このように市場を把握できないことに忸怩たる思いもするのだが、記者が知らないうちに市場は急展開を見せている。先に伊藤忠都市開発が都市型戸建の事業強化を打ち出したように、あるいは野村不動産が三井不動産レジデンシャルを急追しているように大手デベロッパー間で熾烈な競争が始まっている。もう一つは、建売住宅市場を席巻している一建設とアーネストワンの覇権をめぐって歴史的な争いが激化していることだ。

 両社ともマスコミの取材には消極的で、ほとんど表舞台に登場したことはない。しかし、誰も気が付かないうちに市場を制覇したという意味では隠花植物のようでもある。

 詳しいデータはないが、一建設は昭和50年代から現在まで建売住宅供給トップとして君臨し続けているガリバー企業だ。バブル崩壊後の一時期は経営危機も伝わったが乗り切った。

 この一建設から分離独立したアーネストワンは、創業の昭和50年代から平成10年ごろまではマンション事業を展開していたが、同12年に建売住宅事業に進出してから急激に業績を伸ばしている。これまた業界の異端児だ。一建設との販売戸数の差はわずか189戸だ。少なくとも30数年間にわたり建売住宅トップの座を守り続け、トップであるからこそ社名を「飯田建設工業」から「一建設」に変更した一建設がトップの座を死守するのか、それともアーネストワンが逆転するのか。関係者ならずとも興味がそそられる。

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 両社がどのような建売住宅を供給しているかを紹介したいのだが、記者はここ7〜8年間、両社の物件を全然見ていないのでそれはかなわない。おそらくほとんど同じだろうと思うので、一建設の決算短信で概観したい。

 一建設の平成24年1月期の売上高は2,188億円、経常利益は198億円、当期利益は116億円だ。このうち土地分譲を含む戸建分譲事業の売上高は1,831億円だから構成比は83.7%に達する。経常利益は192億円の大京を上回る(アーネストワンの経常利益は219億円)。

 建売住宅のブランド名の「リーブルガーデン」は「『元気のよい、生き生きとした、さわやかな、あざやかな』を意味するLively を更になじみやすく、お客様に快適な住環境をご提供したいとの願い」が込められているという。

 事業エリアは1都 6 県と仙台、名古屋、大阪、福岡などの大都市圏で、全国98の営業店舗で展開している。部門のスタッフは約700人。施工管理部門を除いて建物の建設・販売は全て外注・委託しているのが特徴で、これが成長を続ける原動力でもある。

 建売住宅の平均像は土地面積は約100u、建物面積は約95u、価格は2,508万円だ。売上原価は2,164万円、総利益は343万円、売上利益率は13.7%だ。売上原価のうち土地購入費が約67%、外注費が約30%。この数字から建築費を計算すると坪単価は約25万円となる。

 坪25万円というのは昭和50年代の単価だ。今は100円ショップで何でも買える時代だから、建売住宅の敷地面積が30坪、建物が28坪、価格が2,500万円であっても別に驚きはしない。住宅需要層の所得が伸び悩んでいる現状を考えると、首都圏でこの価格で供給できることは歓迎すべきことかもしれないし、売れる商品はいい商品≠ニいう見方もある。さらに言えば、どのような商品も時代を映す鏡でもあり、時代の要請があるから売れるのだ。

 時代が進化したのか後退したのか、その判断は関係者諸氏に任せたい。アーネストワンの企業理念には「夫婦、親子が精一杯の愛情を育み、それぞれの家庭のドラマを刻むステージとなる住まい、その居住性は、時に住む人の心の在り方まで左右します」と掲げられている。

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 この両社の歴史的なデッドヒートを傍観者としてしか記者は眺められない。両社の建売住宅を最近はまったく見ていないし、記者がイメージする建売住宅とはかけ離れているからだ。

 7〜8年前だったか。両社が同じ地域で競演するように分譲していたある大規模物件を眺めたときだ。外構の緑の植栽はほとんどなかったし、外壁はグレー系のサイディングで統一されていた。建物の出隅・入隅も単調だった。長屋のようだった。

 両社の争いを「蝸牛角上の争い」と言ったら失礼か。  

(牧田 司記者 2012年7月17日)