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街路樹が泣いている 〜街と街路樹を考える〜  B

素晴らしい山手通りの街路樹・舗道空間


東中野駅近くの山手通り(左から歩道、ツリーサークル、自転車通行帯、低木帯と街路樹)

樹齢100年超の既存樹のスダジイ

公開空地に残した「パークシティ武蔵小杉」

 貧しい街路樹について書いてきたが、すばらしい街路樹・舗道空間もある。山手通りと呼ばれる都道環状6号線だ。都のホームページによると、同線は「JR山手線の外周に位置し、放射第18号線から大橋、中野坂上、要町などを経て、放射第9号線(中山道)に至る全長約20kmの道路」だ。このうち「渋谷松濤二丁目から豊島区要町一丁目までの約8.8km の区間を首都高中央環状線と一体的に整備する計画で、幅が広く段差の少ない歩道をはじめ、自転車通行帯や停車帯を設け、電線類の地中化を実施し、歩道と中央分離帯に植木帯を設けることで緑豊かな通りに生まれ変わる」とある。

 完成した東中野駅近くの山手通りをみた。確かにきれいだ。ケヤキ、メタセコイア、ハナミズキなどはまだ成長しきっていないので樹高は低いが、計画ではヒノキは樹高20〜25m、メタセコイアは25〜35mに樹形も含めて管理するとしている。透水性のインターロッキングの歩道(7m)と自転車通行帯(3m)は色分けされており、ツリーサークルでも分離されている。横断防止柵、車両防護柵、車止めなどの安全施設も整備されている。

 幹線道路沿いのマンションには住みたくないという人がほとんどだろうが、これほどきれいに整備されるなら住んでもいいと考える人が増えるのではないか。

◇    ◆    ◇

 東中野には、中央線の線路沿いの法面に樹齢 60 年のサクラ並木が植えられている。植樹したころのことを聞こうと、近所を見渡したところ、店構えがいかにも古そうな創業57年の看板がかかっていた宝石店「冨士商会」の人に声をかけた。店主の小林三千雄さん(82)は快く話してくれた。

 桜は昭和27年ごろに植えたそうで、小林さんはずっとこの桜を眺めてきたという。「最初はソメイヨシノと八重桜を交互に植えたが、八重桜はどういうわけか育たず、すべてソメイヨシノにした」そうだ。

 サクラの話をしているうちに、話はとんでもない方向に向かった。小林さんはテレビ、雑誌などにも度々紹介されたことのある地域の「名物男」だった。

 「僕を知らない人はこの辺りにはいない。毎日、1時間20分、横浜の瀬谷から通っている。引っ越せばいいのだが、地元にはテニスの生徒が30数人もいる。僕は、拓大出身のテニスの選手で、県大会で準優勝したこともある。今も現役。テニスは70年続けている」

 「健康の秘訣? 粗食だよ粗食。医食同源というじゃないか。牛乳や卵、魚はよく食べるが、肉なんかもらえば食べるがほとんど食べない」

 「声が大きい? 演歌も好きで、若いときは芸大の声楽科を目指したぐらい歌が好きだ。若い人は何でもいい。サークルに入って、みんなでコミュニケーションを取る訓練をしたほうがいい。電車? 僕はほとんど座らない。いつも山の稜線を見ているんだよ。そうすりゃ自然と目線は上になる。腰もしゃんとなる。昔は3000歩も6000歩も歩いたから、通勤などぜんぜん苦にならない。病院も床屋も行ったことがない」

 昔の人は歩幅で歩く距離を測ったのだろうか。記者はすぐにはその距離が分からなかった。歩幅を50〜60センチとすると、小林さんは毎日、平気で20分から40分は歩いていたことになる。先日の徒歩圏の記事でも書いたが、昔と今の徒歩圏の捕らえ方は全然異なる。

  
東中野の線路沿いの桜


桜を見守りつづけてきた「冨士商会」の小林さん

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 もう一つ、すばらしい街路樹を紹介しよう。三井不動産レジデンシャルが開発した「パークシティ武蔵小杉」だ。「ミッドスカイタワー」は入居してまだ3年しか経過していないが、写真のようにエントランス部分のクスノキ、ケヤキは樹齢にして30〜40年は経過している大木に成長している。敷地内には、このほか既存樹の樹齢100年を超えるスダジイの老木も公開空地に植えられている。

 エントランスのケヤキもスダジイもマンションの敷地内だから街路樹には該当しないのかもしれないが、総合設計制度による公開空地だから樹木の管理は川崎市が行っているのだろう。スダジイはさすがに樹勢の衰えは隠せないが、何とか持ちこたえてほしい。市民が分かるようにネームプレートぐらいつけてほしい。樹木だって醜くなるまで必死で生きているのだ。樹齢や歴史を記せば、お年寄りを労わるように市民の見る目が違ってくるはずだ。行政はその当たりの感性が欠けている。


パークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワーの公開空地

  
樹齢100年超といわれるスダジイ

街路樹が泣いている 〜街と街路樹を考える〜 A(5/10)

街路樹が泣いている 〜街と街路樹を考える〜 @(5/1)

(牧田 司記者 2012年5月10日)