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「徒歩圏とは10分以内」 時代を映すアンケート結果に愕然

 「駅からの徒歩圏」は「10分まで」との回答が38.4%でもっとも多かったとする不動産情報サイト事業者連絡協議会 (RSC)のアンケート調査結果を報じた不動産流通研究所の記事を見て、びっくりするとともに「やはりそうか」とも感じた。回答は、この時代の変化を象徴的に反映した結果だ。アンケートは、1年以内に不動産購入・賃貸に関わった20歳以上の男女を対象にインターネットで調査したもので、有効回答数は2,070人。

 記者自身もそうだが20年ぐらい前までは徒歩15分はそう遠い距離だとは思わなかった。ところが、バブルが崩壊し、「駅近」の企業の社宅などの社有地が大量に放出され、大手デベロッパーなどが好立地を最大の謳い文句に掲げた。情報収集力、資金調達力で劣る中堅デベロッパーなどはその外周部での供給を余儀なくされた。相対的に商品企画も劣るので、販売面では大きなハンディを背負うことになった。

 需要構造がバブル崩壊後に劇的に変わったことも背景にある。バブル以前は、マンションはほとんどがファミリー向けだった。単身者向けなどは、銀行が住宅ローンを融資しなかった。ところが、バブルがはじけ、分譲価格が大幅に下落し、単身女性などの顧客を取り込もうとする金融機関の戦略や都心部での単身居住の増加などもあいまって単身女性向け・DINKS向けが激増した。経済不況下でもっとも元気≠ネのがこの層でもある。

 面白いのは、男女別、年齢別に見た「徒歩圏」の考え方の違いだ。「徒歩圏」を「15分」とする男性が31.0%であるのに対し、女性は32.6%とやや上回っており、「20分」とするのも男性が8.2%なのに対して女性は9.6%に達している。

 年代別でも、年齢が高いほど許容範囲と考えている。20歳代は「5分まで」が42.9%を占めているのに対し、50歳代以上は「10分まで」が最多の38.6%で、「15分まで」というのも16.2%もあるる(20歳代は12.1%)。

 もう一つ、面白いのは体力があるはずの、帰り道に不安がないはずの男性より、体力に劣り絶えず周囲に目を配りながら帰らなければならない女性のほうが徒歩圏の許容範囲が広いことだ。20歳代の男性は「5分まで」というのが55.5%なのに対して、同じ年代の女性は38.9%だ。50歳代の男性も「5分まで」が37.1%なのに対して、同じ年代の女性は28.9%だ。50歳代の女性は「20分超」も5.8%ある。アンケートは、男性より女性が、若年層より中高年齢層のほうが許容範囲が広いことを明らかにしている。

 さらに言えば、最近の顕著な傾向として単身向け・DINKS向けマンションにとどまらず、ファミリーマンションも郊外の緑豊かな環境より、専有面積が狭くても駅に近い利便性の高いマンションを指向する需要層が増えている。これも「徒歩圏」の捉え方と関連があるのだろうか。 

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 アンケートは、こらえ性のない虚弱体質の若者が激増していることをうかがわせる。徒歩圏を「5分まで」とする20歳代の男性などは、その幼児性をさらけ出している。分譲にしろ賃貸にしろ5分以内で住まいを考えるなど信じられない。自らの賃金を考えれば検討の余地などないはずだ。

 このような甘い子どもに育てたのはわれわれの世代も含めて親にも責任はあるのだが、女性が総じて現実的な考えを持っているのには救われる。ひ弱い男性の性根をたたきなおさないといけない。かくいう記者も先日、記者より年齢が高い女性と腕相撲をしたら、難なくひねりつぶされた。

 78歳の作家の石川英輔氏は若いとき、中野駅まで毎日20分かけて歩いた。今の子どもは習いごとに車を使うという。わが多摩市では、今年度からすべての小・中学校に冷暖房設備を設置した。「熱中症」で保健室に駆け込む生徒が多くなっているためだそうだが、そんな対症療法でなく、どうしてそのような子どもが増えたのか根本的な原因に手をつけるべきだ。

(牧田 司記者 2012年4月23日)