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管理協 「住生活総合サービスの理論的明確化」近く発刊

「第三者管理は累乗的な問題はらむ」貞包・山形大准教授


「住生活総合サービスの理論的明確化」

 高層住宅管理業協会 ( 管理協)が「住生活総合サービスの理論的明確化」と題する研究成果報告書を近く発刊する。報告書はA4判157ページにわたるもので、同協会が筑波大学人間総合科学研究科教授・花里俊廣氏を代表とする研究グループに委嘱していたもの。住生活総合サービスの確立に向け、社会や家族環境の変化、少子高齢化の進展などの影響により住生活がどのように変遷してきたかを明らかにするとともに、専有部サービス、コミュニティサービスなどマンション管理業が提供する業務やその課題、今後の方向性を示している。

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 報告書は、会員会社が管理する全国の288物件を対象に詳細アンケートを行ったうえで、共用部、専有部サービスの実態、コミュニティサービスが果たす役割などについて論述している。不要と思われるサービス・施設、「ちょっとした手助け」が果す役割、コミュニティと資産価値の関係なども盛り込まれており、管理業だけでなくマンションデベロッパー、管理組合関係者などもこれからの事業展開や組合運営に参考になる好著だ。

 記者はとくに山形大学基盤教育院准教授・貞包英之氏が執筆した第3章「マンションの居住サービスと居住感覚の歴史と現在」を興味深く読んだ。文章がとても面白く、論理的かつ情緒的な表現も多く見られる。以下、いくつか紹介しよう。

 「これまで住居は生活や世代の『再生産』をおこなう場として捉えられることが多かった。住居はなにより子供を産み育て、また労働力を企業に供給する再生産の場としての『家庭』を維持する装置」(45ページ)

 「サービスの総数が多いほどマンションの価値維持が成功している」(56ページ)「最新の設備を備えていないグループは、明らかに資産価値変動を不利としていた」(57ページ)「積極的なサービス増が資産価値の維持に果たしている役割は大きい」(同)「臨機応変にサービスを再編していくことがマンションの価値を高める」(58ページ)

 「マンション居住では専有部分にひきこもり、災害や犯罪からの安全を確保しつつ、情報・商品の快適な享受を楽しむことが追求される」(59ページ)「マンションサービスは都市との抗争関係を前提として独自の配置をとる」(60ページ)

 どうだろう。「住居は子供を産み、労働力を企業に供給する再生産の場」「マンションサービスは都市との抗争関係が前提」などと言われると、「女は子供を産む道具」とか「都市が農村を収奪する」などの言葉を新鮮に受けとった若いころを思い出す。

 貞包氏の真骨頂は次の記述だ。「そもそもマンションの居住サービスの最大の問題は、区分所有者と管理組合に消費の主体を分裂さていくことにあった」(60ページ)とし、分裂状態を放置すると、「マンションは時代遅れの遺物ばかり集まる社会的な意味での廃墟になりかねない」(61ページ)と警句を発する。

 そして、そのようにならないためにも管理組合を支えるコミュニティの拡充を図るべきだとする一方で、「『住むこと』と『主体であること』は必ずしも等号的に結ばれない現代社会のシステムの問題がある」(61ページ)と述べる。

 そこで重要なのが、「居住者の主体化を前提とすることなく決定を下せるシステムを創造すること」(61ページ)であり、その一つの事例として第三者管理方式を例示する。しかし、「第三者への委任はその管理者を監視する主体を要求するという意味で累乗的な問題をはらむ」(同)とし、「そうした陥穽を避け、『住むこと』と『主体であること』の分裂を積極的に捉えるサービスを構築することがいま求められている」(同)と結論付けている。

 この「第三者管理の導入は累乗的な問題をはらむ」という指摘は鋭い。これを、いま第三者管理の是非をめぐって激しく論議されている「マンションの新たな管理ルールに関する検討会」に置き換えてみると、「住むこと」を優先すべきという第三者管理推進派と、「主体であること」に重きを置くべきとする慎重派と見ることもできる。貞包氏はこの両者の「分裂」を予知していたのだろうかとも思うし、「分裂」を避けるためにも「検討会」が「『住むこと』と『主体であること』の分裂を積極的に捉えるサービス」を提案することに期待したい。「検討会」ではもっぱら聞き役に徹している福井秀夫座長の手腕も問われる。

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 全体的には、疑問に感じる記述がないわけではない。報告書は社会学的に論じられているが、マンションの共用施設の設置やサービスの付加はその時々の経済状況や社会的ニーズ、マンションデベロッパーの意向も強く反映される。報告書はこの視点がやや欠落しているように思う。

 例えば共用施設。共用施設が充実したマンションは、地価の下落・金利の低下・景気浮揚策を背景に2007年ころから激増した。デベロッパーは販売促進策として共用施設が充実したマンションを大量に供給した。報告書にも「集合住宅1件あたりの共用施設設置数は …2000年代に入ってそれまでの2倍近い水準に増加している」(22ページ)とあるのはそのためだ。

 報告書にはまた、「富裕層の動向や都心部のマンションの傾向を見るとこれらのマンションの提供するサービスはさほど充実しておらず、トレンドの先端にいる人々が都市からより質の高い、より個人的要求に適ったものを選択していることが推測できた」(113ページ)とあるが、これは言いすぎだ。たしかに富裕層はより質の高いサービスを外部から受けているのは事実だろが、都心部は地価が高く、郊外より敷地も狭く、共用部分を充実させればそれだけコストもかかるので充実させようにもできない背景がある。億ションやDINKSマンションにキッズルームや保育施設がないからといって「サービスが充実していない」とはいえない。

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 報告書を希望する人は管理協に問い合わせれば対応してくれる。連絡先は〒105-0001 東京都港区虎ノ門 1-13-3  虎ノ門東洋共同ビ 2F TEL 03-3500-2721

国交省 マンション管理検討会 的外れの安藤委員の主張(4/10)

(牧田 司記者 2012年4月23日)