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ブルースタジオ 事務所ビルを「郷さくら美術館 東京」にコンバージョン


「郷さくら美術館 東京」のエントランス

 ブルースタジオは4月5日、目黒区中目黒の目黒川ほとりの店舗・オフィスビルをテナント棟・美術館棟からなる複合施設にコンバージョンした建物のプレス向け内覧会を行った。

 美術館棟は、昭和生まれの日本画家の作品約500点を所蔵する福島県郡山市の「郷(さと)さくら美術館」の別館として順次作品が展示されるほか、個展やイベントも行っていくという。3月27日から6月24日までは、加山又造の屏風絵などさくらをテーマにした作品43点が展示される。被災者支援のため、今開催期間中の入館料は半額となる。一般は1000円、大学生は800円、高校・中学生は300円、小学生は200円。

 建物は東急東横線中目黒駅から徒歩5分の目黒区上目黒1丁目に位置するRC造3階建て延べ床面積約1,251u。完成は2004年。コンバージョン後はテナント棟と美術館棟がそれぞれほぼ半分となっている。同社が企画・設計監理を手がけた。設計期間は2011年6月〜12月、施工期間は2011年12月〜2012年3月。


加山又造の作品の前で説明する石井氏(右端)

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 同社のコンバージョン建物を取材するのは今回で2回目だ。前回の「やよい荘」もそうだったが、つくづくいい仕事をしていると思った。素人の記者などはコンバージョンなんてたいしたことではないと思っていたが、オフィスを美術館に改修するのは大変な作業が伴うことが分かった。公的機関であれ民間であれ、美術館にするには様々な法的規制があるというのだ。最大の難関はハートビル法だ。高齢者や身体障害者でも利用できるようエレベータを設置しなければならないほか、段差のあるところにはスロープを、壁面には手すりを設けることが義務付けられている。

 これらの設備を設置するには、構造計算を最初に建築確認を取得した時点にさかのぼってやり直さなければならないし、もちろん現在の建基準法、消防法などにも適合させなければならない。エレベータは車椅子の人でも利用できるよう1400×1300のものにし、踊り場を広くしたほか、階段の横にスロープを設けるとなるとそれだけ展示スペースが狭くなるので、わざわざ昇降機を設置したという。

 建物のファサードには、目黒川沿いの桜と呼応するように「郷さくら美術館」の紋様をモチーフにした1,100枚の素焼き有孔タイルを積み上げ、その文様が昼間は館内の壁に映し出され、夜間は建物全体がきらびやかに光るよう演出されている。床にはクォーツと呼ばれるさくらの花びらのようなピンクの砂岩が敷き詰められている。

 わが国の文化を継承するという社会的に意義大きなコンバージョンだが、目黒区などからの補助金、固定資産税などの減免も一切ないという。冷たいものだ。

  
階段室の壁に映し出された外壁の文様           階段(左)のそばに設置された昇降機(床はピンクの砂岩) 

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 日本画の鑑賞が目的ではなかったが、記者も油絵を描くので楽しみにしていた。真っ先に目に飛び込んできたのは加山又造の作品だった。これには驚いた。後で聞いたのだが、「郷さくら美術館」所蔵作品の中でもっとも高額な作品だという。明日、4月6日は加山又造の命日だし、記者の誕生日だ。

 その次に、「これはいい」と思い、説明してもらっていた同社執行役員・石井健氏に同意を求めたら「千住博さんの作品です」と返ってきた。画家の名前を見なくて千住博氏の作品をいいと思った自分自身をほめてやりたくなった。「上村淳之」の名前を見て、上村松園、松篁の縁者だろうと直感したが、石井氏に調べてもらったらその通りで、松篁の息子さんだった。

 先ほどは「PRUDO with UNITED ARROWS」の記事で、記者はファッションには全然興味がないと書いた。自分で買ったのは、今日締めていった好きな画家の一人、桐谷幸二氏がデザインしたネクタイぐらいだ。桐谷氏の作品は若いときから知っており、「この人は絶対売れる」と思っていた。その頃に1枚でも買っていたらと悔やまれる。高い洋服や靴など買わずに、若い画家の作品を買って10年後、20年後の成長を同時進行の形で眺めるほうがよっぽど楽しいと思うがどうだろう。

 今日は目黒川の桜も満開に近かった。週末は花見とこの「郷さくら美術館」がお勧めだ。 「郷さくら美術館」のホームページはwww.satosakura.jp

  
目黒川の桜

(牧田 司記者 2012年4月5日)